![]() しかし、長年投資の世界に身を置く立場から言うと、その「喜び」は少し注意をしないと、将来、大きな「悲鳴」に変わる可能性があります。なぜなら、多くの親御さんが陥りがちな「教育費のためのNISA放置」には、資産運用におけるもっとも恐ろしいリスクが潜んでいるからです。 今回は、NISAの年齢制限撤廃の議論をきっかけに、「子どもの将来を守るために、親が持つべき本当のリスク管理」について、専門家の視点からお話しします。 ■「非課税枠拡大」の裏に潜む時限爆弾 まずは、今回の税制改正の動きについて整理しておきましょう。報道によると、政府・与党は2026年の税制改正において、現在18歳以上に限られているNISA(総額投資非課税制度)とは別枠で、0歳から使える制度の創設を検討しています。 これまで未成年者の投資枠としては「ジュニアNISA」がありましたが、2023年末で廃止されています。今回の改正案は、実質的なその後継として、すべての世代でNISAを利用可能にするものです。 具体的な内容としては、0歳から17歳まで利用でき、年間投資枠は60万円、非課税保有限度額600万円までつみたて投資枠として活用できる制度です。12歳以降に「子どもの同意を得た場合」のみ引き出しが可能。積み立て可能商品は、現在のNISAつみたて投資枠の商品と同様となります。 出典:金融庁 「令和8(2026)年度税制改正について」 これだけ見ると、投資期間が長く、投資対象商品はリスクが低いものが中心のため、「子どもの将来のために、安心して資産形成ができる」という点では、素晴らしい制度です。しかし、ここに「時限爆弾」が埋め込まれていることに気づいている人は、驚くほど少ないのです。 ■教育費運用における「時間軸」の難しさ 私たち投資のプロが運用計画を立てる際、もっとも重要視するのは「いつまでに、いくら必要か」というゴール設定です。老後資金であれば、60歳で使うか、70歳までに運用を続けるか、ある程度の融通が利きます。相場が悪ければ「取り崩しを先送りする」という選択も可能です。 しかし、教育資金には「待った」が一切ありません。子どもが18歳になり、大学の合格通知が届いたその日に、入学金と授業料の振込用紙はやってきます。「今株価が暴落しているから、入学金は2年待ってくれ」とは口が避けても言えません。 使う時期が決まっている資金を、リスクのある株式市場にさらし続けること。これが、私が懸念する「時限爆弾」の正体です。年齢制限撤廃によって運用期間が長くなればなるほど、私たちは「長期投資なら大丈夫」という思考停止に陥りやすくなります。しかし、その油断こそが、いざという時に爆発する導火線となるのです。これは、投資における常識ですが、投資に不慣れな一般の方には気づきにくい「死角」と言えるでしょう。 ■教育資金はなぜ「リスク」となるのか 「でも、これからの時代はインフレだから、投資をしないと資産が目減りするでしょう?」そんな声が聞こえてきそうです。たしかにインフレ下において、現金の価値は相対的に下がります。 学費も年々上昇傾向にあり、資産運用(NISA)の活用は、現代の親にとって必須と言えます。これを否定するつもりはまったくありません。 しかし、ここで私が強調したいのは、「教育費運用と、その他の資産運用(老後資金など)は、まったく別物として考えなければならない」ということです。 ■「増やす」よりも「減らさない」が最優先 一般的な株式投資のセオリーでは、「リスクを取ってリターン(利益)を最大化する」ことが求められます。多少の浮き沈みがあっても、最終的に大きく増えていれば成功です。ところが、教育費運用における成功の定義は異なります。それは「必要な時期に、必要な額が確実にそこにあること」です。 極端な話をしましょう。 ・パターンA:元本300万円が、一時600万円になったが、大学入学前の暴落で250万円になってしまった。 ・パターンB:元本300万円が、堅実な運用で350万円になり、そのまま入学時を迎えた。 投資としてのパフォーマンスはAの方が一時的に高かったかもしれませんが、教育費運用として優秀なのは間違いなくBです。Aの場合、親は足りない50万円と、消えた350万円分の含み益への後悔を背負いながら、奨学金の申請に走ることになります。 つまり、教育費運用において、親が本来負うべきリスクは「機会損失(もっと儲かったのに)」ではなく、「元本毀損(足りなくなる)」であるということです。「NISAの非課税メリットを最大限活かしたい」という欲望が、本来守るべき「減らさない」という最優先事項を曇らせてしまう。これこそが、制度改正を喜ぶ親御さんが背負い込む「リスク」の本質なのです。 ■「評価損のまま売る」を避けるための出口戦略 では、具体的にどうすれば「時限爆弾」の爆発を避けられるでしょうか。ここで必要となるのが、「出口戦略(売り時)」の設計です。「買って持っておくだけ(バイ・アンド・ホールド)」は思考停止になりがちです。特に教育費のような期限付きの資金では、ゴールから逆算した戦略が不可欠です。 ■悪夢のシナリオ:大学入学時の暴落 想像してみてください。お子さんが高校3年生の冬、まさに受験シーズンの真っ只中に、「リーマンショック級」の大暴落が起きたとします。これまで積み立ててきたS&P500やオール・カントリー(オルカン)の評価額が、数週間で落ち込んでしまうリスクが発生します。ニュースでは「株価回復には数年かかる」と報じられていますが、来年には入学金を振り込まなければなりません。 この時、親は「評価損のまま売る(損失を確定させる)」という、投資家としてもっとも苦しい決断を迫られます。これが「相場が下がった年に切り崩しが重なる」事態の恐ろしさです。 ■プロが提案する具体的な対策 このような事態を避けるために、以下のルールを推奨します。 1.「15歳」を境に、リスク資産を減らす 子どもが高校生(15歳前後)になったら、NISA口座にある株式ファンドの一部を売却し、価格変動の少ない「債券」や元本保証の「現金(預金)」に移し替えていきます。ゴール(18歳)に向けて、徐々に投資のアクセルを緩め、ブレーキを踏んでいくイメージです。 2.現金比率を高める「逃げ」の判断 もし高校入学時点で、相場が歴史的な高値圏にあり、十分な利益が出ているなら、徐々に利益を確定して株や為替の影響を緩和していくのがいいかもしれません。使い道やゴールが決まっている学費資金に関しては「まだあがるかもしれない」という欲を捨て、「学費確保」という目的を達成するのです。 運用年数が長くなるほど複利効果で資産は増えますが、その一方で、暴落時のダメージ額も大きくなります。ゴール手前でのリスク管理こそが、教育費運用の成否をわけるのです。 ■親が持つべき「新しい常識」と最低限のルール ここまで読んで、「そんなに面倒なことを考えるなら、やっぱり定期預金や学資保険だけでいいのではないか?」という疑問を持たれた方もいるかもしれません。 しかし、先ほど触れたように、今はインフレの時代です。学費自体が年々値上がりしている中で、それほど金利がつかない預金だけに頼ることは、実質的に資産を目減りさせていることと同じです。したがって、これから提案する「新しい常識」とは、「NISAは活用する。ただし、放置せずに管理する」というスタイルです。 ■インフレ時代を生き抜く「最低限のルール」 1.教育費と老後資金の財布(勘定)をわける ごちゃ混ぜにして運用すると、教育費が必要な時に「老後資金の長期投資」まで切り崩すことになってしまいます。子ども名義のNISAは「18歳で現金化するプロジェクト」として、別管理してください。 2.損切りラインを決めておく 子どもが15歳になり出口が見えてきたあとは、予期せぬ暴落が始まった場合「マイナス○○%になったら一度現金化して逃げる」といったルールを決めておきましょう。最低限必要な教育資金を試算し、それ以下になったら現金化するというルールを作ることで、致命的な教育資金不足を回避できます。 3.子どもと一緒に学ぶ これがもっとも大切なことですが、親が相場を見ながら「今は高いから売っておこう」「今は安いから少し買おう」と判断する姿を、ぜひお子さんに見せてあげてください。ただお金を残すだけでなく、親の金融リテラシーそのものを「無形の財産」として子どもに引き継ぐ。これこそが、投資を一部の富裕層の特権でなく、誰もが続けられる「生活習慣」にするための第一歩です。 NISAの年齢制限撤廃は、国からの「自分の身は自分で守れ」というメッセージでもあります。制度に踊らされるのではなく、制度を賢く使いこなし、大切なお子さんの未来を「リスク管理」で守り抜きましょう。 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役 【関連記事】 ■SNS型投資詐欺が過去最多のいま、信頼できる情報を選ぶ3つの基準 (藤村哲也 投資顧問助言業) https://sharescafe.net/62880877-20251224.html ■日経平均史上最高値の熱狂の裏で、専門家が明かす“年率30%”を狙う銘柄入れ換え株式投資法 (藤村哲也 投資助言代理業) https://sharescafe.net/62808733-20251126.html ■共感・期待より重要な、チームのパフォーマンスを上げるリーダーの支援姿勢とは? (辻秀一 スポーツドクター) https://sharescafe.net/62964648-20260127.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役 ![]() 2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。 公式サイト https://www.risingbull.co.jp/ 公式ブログ https://www.risingbull.co.jp/stock/ X:https://x.com/risingbullcorp @risingbullcorp LINE公式アカウント:https://liff.line.me/1657519081-PwxaxnR5/76be088ff4bc4e3eb870c7a4d5d2295f シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


