![]() これら3つの指標が低い「低パ」な戦略にもかかわらず、中学受験において常識となっているものに、「早期からの受験対策」と「必死で勉強させて元々の能力より上の学校に入ること」を挙げています。これらの戦略はなぜパフォーマンスが悪いと言えるのか? 著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。 ■低パな受験戦略「前倒しの受験対策」 *早めるほど低下するパフォーマンス 中学受験における低パフォーマンスな戦略といえば、早期からの受験対策スタートです。受験対策は早ければ早いほうがいいというのは、受験産業が産んだ虚言かもしれません。 中学受験をスタートさせる時期は、かつては小学5年生くらい、早くても4年生くらいでした。しかし今では上位難関校となると3年生、もっと早く1年生から始める家庭も増えています。年々、中学受験戦争が激化しており、中学受験産業は独自の発展を遂げ、対策スタートの時期は前倒しを続けています。 しかし、受験産業に携わっている塾講師や家庭教師の本音を探ってみると、残酷な事実を目にします。 『塾講師が言えない学力の「残酷な真実」 受験産業の闇と親がすべきこと (蓮池林太郎 医師)』の記事でも触れた通り、勉強ができるかどうかはその子の持って生まれた遺伝子に依存する部分が大きく、いかに早期に着手したとしても、親から受け継いだ因子以上の成果を出すことは困難なのです。3年生から受験対策してきた生徒の学力を、5年生から始めた生徒があっさり抜いていくというのは、受験現場ではよくある話です。 ほかの生徒たちよりも学力を伸ばしたい。だからさらに課金して勉強の機会を増やしていく。そういった教育指針を築いていくうちに、受験対策費用のインフレが起きていくのですが、子どもの資質が結果を左右する以上、コスパとタイパは低くなりがちです。 塾の勧めるがままに回数を増やし受験対策費用を上乗せしていくのも、「6ポケット(父母の2人に加えて、それぞれの親である祖父母の最大4人の財布のこと)」を狙った塾サイドの思うつぼともいえて、子どもに必ずしも効果があるとは思えません。 そしてなんといってもリスパ(起こり得るリスクに見合うだけの価値が期待できるかどうか)の悪さが目立ちます。前倒しの受験対策を無理に強いることで、子どもを苦しめてしまうかもしれないリスクを、親はよく考えるべきでしょう。度が過ぎれば教育虐待を招くことにもなり、子どもの人生を大きく狂わせるだけでなく、家族崩壊や凄惨な事件にも発展しかねないリスクがあることを想定すべきです。 ■低パな受験戦略「無理な学校選び」 *知名度や合格実績だけで選ぶのは危険 「有名な学校らしいから」「進学(就職)実績が優秀だから」といった安直な理由で受験する学校を選ぶことのリスクは計り知れません。 たとえば通学時間がかかる学校に通うことはタイパの低さを物語っています。中学生になったばかりの子どもに、片道で1時間以上かかるような通学を強いるのは酷です。まして都市部のラッシュアワーの中を通わせるとなったら、かなりの負担となってしまいます。 平日は疲れが溜まり授業中に居眠りをしてしまい、休日は体を休めることに終始して遊ぶことも勉強することもままならない。そんなことになってしまっては元も子もありません。帰宅途中の駅のホームであまりの疲れで歩きながら居眠りしてしまい、電車に衝突し……といった不慮の事故もあります。このように、距離の遠い学校へ通うことは、タイパが低い上にリスパにも疑問が残るのです。 このような無理な学校選びによる低パフォーマンス事例はいくつも考えられます。子どもの性格に合っていない教育方針の学校を選ぶこともその一つでしょう。 実績豊富な上位の難関校ほど、教育の質やレベルは高水準にあるものの、本人の自主性に委ねる部分が大きくなります。つまり伸びるか伸びないかは本人の意思次第ということです。 そういった上位校へ、勉強嫌いで自主性の低いタイプの子どもが通うことになると、悲惨な結末を辿ることは想像に容易いでしょう。 高品質の教育機会が与えられても、本人に参画する意図がなければ成長できません。周りのレベルに圧倒されてしまい勉強する意欲をなくし、自堕落な学校生活を送っていても、周りはサポートしてくれません。すべて自己責任なのですから。まったく成績が伸びず、途中で転校することになったり、本人の能力よりも低い進学先へ行く運命となってしまうこともあります。 こういったタイプの子どもは、本人の学力よりも多少下の偏差値であっても、きめ細やかな指導を受けられる学校を選ぶほうがいいでしょう。与えられた課題をしっかりこなし、上位の成績を維持し成長していけるので、進学先の選択肢も広がります。 理に欠けた学校選びはリスクパフォーマンスを一気に低下させます。単なる有名度合いや実績だけでなく、子どもにマッチしているのかどうか、心身の負担なく通えるかどうかなど、総合的に「その学校を選ぶ理由」を見つけていくことで、リスパを高め、リスクの幅を縮めることができるのです。 ■下駄を履かせるリスク *脱いだ途端に露見する現実 子どもの才能を伸ばすために選んだ道が、かえって本人を苦しめてしまい、可能性を狭めてしまうこともあります。それが下駄を履かせるリスクです。受験産業がひた隠しにしているともいえる、非常に気づきにくいリスクです。 早い時期から受験対策を講じることで、子どもの学力を底上げすることは確かに可能です。本人の本質的な能力よりも偏差値が3から5くらい上がる効果はあるでしょう。 たとえば本来であれば偏差値50程度の学校に受かるだけの能力を持っていた生徒が、塾にたくさん通い鍛えることで、偏差値55くらいまで上がり、たまたま運良く偏差値60の学校に行けたとしましょう。 これはあくまで「塾の鬼通い」によって強引に偏差値を上げているおかげであり、本人の本質的な能力は50のままに変わりありません。よって学力を底上げしてくれる塾を受験終了とともに辞めたら、下駄を脱ぐことになり、偏差値50の状態で戦うことを余儀なくされます。 周りは偏差値60の資質を有する同級生ばかりですし、授業も偏差値60の生徒を想定した内容が提供されます。この偏差値10の差は大きく、授業についていくことが困難となり、周りと差をみるみるつけられてしまうのです。 頑張っても報われない日々が続くと、やる気は激減します。成績が伸び悩み、まもなく勉強する気力は底を突いてしまうことでしょう。あとは転げ落ちていくだけ、落ちこぼれのレッテルを貼られることとなります。下駄を履かせてランクの高い学校に進学すると、このような悲しい事態が待ち受けているかもしれないのです。 そんな状況が、中学受験後であれば6年間も続いてしまうことは、本人にとっても見ている親にとっても辛いものがあります。「レベルの高い環境に身を置けば、本人のレベルも自ずと引き上げられていくことだろう。」そんな、よかれと思ってやった下駄履かせが、誰も望まぬ結末を招いてしまうのです。 もちろん、周りに必死に食らいついていこうと人並み以上に努力し、成績を伸ばしていく子どももいます。要するに、頑張って結果を出す子どももいれば、ドロップアウトしてしまう子どももいるのです。 下駄を履かせることによるリスパの低さは無視できないということです。受験のために時間とお金をかけても、能力より明らかに上の学校に入ることで可能性を狭めてしまったら、コスパやタイパの面でも低いものとなります。 鶏口牛後ということわざがあります。偏差値が同程度の集団の中で上位にいるほうが、偏差値の高い集団の中で下位にいるよりも、勉強に対してモチベーションが上がり、自己肯定感も高まりやすいことでしょう。 子どもの本質的な能力が偏差値50付近なのであれば、その偏差値近辺の学校を選んで受験する。そうすれば、高校卒業時の偏差値も想定を大きく下回ってしまう可能性は低いでしょう。非常にリスク幅が狭い、高パフォーマンスな選択となるのです。 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 【関連記事】 ■無計画な浪人に潜む無数のリスク (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62987372-20260205.html ■大卒より工業高校卒の方が安定して働ける?ホワイトカラーが滅びる時代の教育観 (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62975660-20260201.html ■「勉強だけできる人」を社会は必要としない―採用における学歴偏重主義の終焉 (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62975646-20260201.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。 医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。 2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。 子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


