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首都圏では少子化にもかかわらず、中学受験をする小学6年生の割合が過去に類を見ないほど高まっています。「地元中学より教育内容が良いから」や「高校受験回避」が主な受験理由とされています。

しかし、これらの理由で安易に参入するのはリスクが大きいと、5人の子の父であり、自身も受験で悩んだ経験のある医師・蓮池林太郎氏は警鐘を鳴らします。

本当に中学受験に参入すべき家庭の前提条件とは? 著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。

塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略
蓮池 林太郎
セルバ出版
2025-11-27


■少子化に逆行する中学受験戦争
*なぜ中学受験する家庭が増えている?
「首都圏模試センター」によると、2025年の東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県を中心とした私立と国立の中学受験者数は5万2300人で、これは過去40年の中で3番目の多さとなっています。対象となる小学6年生を分母とした受験率はおよそ18%で、こちらは2番目の高さです。

ちなみに過去最多は2023年の5万2600人、2024年は少子化の影響で10年ぶりに減少して5万2400人と推移しています。この集計から、中学受験をする家庭は、ここ10年ほどはかなりの高水準で推移していることがうかがえます。少子化を加味すれば、小学生の中学受験率は過去に類を見ないほど高まっているといえるでしょう。

なぜ中学受験にチャレンジする家庭が増えているのでしょうか。もっとも主要な理由としてはニーズの変化があります。私が小学校時代を過ごした1990年ごろは、大学進学率は40%に届くかどうかといったところでした。しかし年々上昇を続けていき、いまでは60%ほどの数字を出すようになっています。

大学全入時代に入り、今や大学進学は多数派、「大学に行って当たり前」の時代になっているのです。
親としては、大学の中でも就職に強くブランド価値の高い、より偏差値上位の大学へ行かせようとします。そこで早い段階から準備をしておこうと、逆算的な発想で、子どもに中学受験をさせる親が続出してきたのです。

大学進学需要の高まりによって、私立中高一貫校は拡大を続けています。1990年ごろは600校ほどだったのが、2022年には780校ほどにまで増えています。何度もいいますが、少子化のご時世にもかかわらず、です。

このような日本の社会的な背景がいちばんの中学受験率増加の理由と思われますが、個々の家庭にフォーカスした調査も紐解いてみましょう。

「テラコヤプラス by Ameba」が全国の小学6年生から大学4年生の子どもがいる保護者500人を対象に「中学受験についてのインターネット調査」を実施、中学受験をした(する)理由を尋ねています。

理由としてもっとも多かったのは「教育内容や環境が地元の中学より良いから」で、全体の44.5%。次いで「中高一貫校なので高校受験をしなくて済むから」が25.7%でした。このふたつの理由で70%を占めていることになります。

まず「教育内容や環境が地元の中学より良いから」ですが、本当に地元の公立中学は私立中学に比べると教育内容や環境が悪いのか、よく精査してみる必要はあるでしょう。地元の中学が明らかに荒れているという評判だったら、私立中学に行かせたくなる気持ちはわかります。

高校進学実績が頼りない場合もそうでしょう。これは多分に地域性の出る部分であり、一概にはいえません。

ただ、子どもの特性や性格、今後の成長期待を鑑みたとき、公立中学を経て高校受験をするほうが望ましい場合もあります。単に「地元の中学は微妙」という感覚だけで子どもを中学受験戦争へ巻き込むのは、安易な考えでリスキーです。

ふたつ目の「中高一貫校なので高校受験をしなくて済むから」もリスクがあります。「高校受験をしなくて済む」ということは、当たり前ですが「中学受験をしなければならない」ということになります。

親にとっては高校受験よりは早い時期に受験が終わるのは安心材料かもしれませんが、子どもにとってはまだ心身が成熟していない時期に受験を強いられることになり、大きな負担となることも考えられます。この理由だけで中学受験に挑戦するのは危険でしょう。

とにかく中学受験にはさまざまなリスク要因がつきもの。本当に、これらリスクを背負ってまで挑戦する価値があるのでしょうか。

■中学受験に向いている家庭の3条件
*経済的な余裕は絶対条件
記憶力も持続力も高いタイプの子は中学受験に向いているでしょう。とはいえ、小学生の段階で子どもの記憶力や持続力を正しく計り取ることは至難の業です。

伸び盛りの時期であり、ほんの数ヶ月の期間で記憶力が上昇することもあります。また、受験への思い入れ次第で持続力というのも大きく変わってきます。加えて、子ども自身の能力だけでなく、家族が一丸となって応援できる環境にあるかどうかも鍵となっています。

そこでより実用的な視点で、中学受験に向いている家庭の条件を羅列する必要があります。

私見としては次の3条件です。

(1)公立小学校3年生時点での子どもの国語・算数・理科・社会の成績が、中学受験塾に行ってなくても「よくできる」のA評価中心
(2)子どもが勉強をさほど苦にせず、主体的に取り組める(勉強へのモチベーションが高い)
(3)経済的な余裕がある

これら3条件が満たせないようであれば、子どもを中学受験戦争に放り込むことは推奨できません。

1については、クラスのおよそ上位2割前後にA評価がつきます。中高一貫校の英語と数学の先取り学習についていけるかどうかの目安になり、先取り学習についていけないなら、中高一貫校に進学するメリットがさほどありません。

また1と2は、受験に必要な記憶力や持続力を具体化したものになります。

例外としては、4科目の成績がさほど高くなくても、「絶対に行きたい私立中学校がある」という高いモチベーションがある子どもなら、先取り学習という観点以外で中高一貫校に進学するメリットはあるでしょう。

逆に、学校の成績がすこぶるよいのに、消極的な姿勢で受験戦争に取り組む子どもは、マイナスの多い受験体験となってしまうかもしれません。成就の如何にかかわらず、中学受験を嫌な思い出として記憶に刻みます。場合によってはトラウマとしていつまでも心の深層に蔓延り、それが人生の可能性を狭めることになってしまうことにもなりかねません。

3の経済的な余裕は必須条件です。これは明瞭な数字を出すことができます。中学受験にはどれだけの費用がかかるのか。

小学校時代の受験勉強から、私立中学校3年間の授業料も含めると、最大で1000万円、低く見積もっても500万円程度は覚悟しておくべきです。詳しい内訳としては、小学4年生から受験勉強を始めたとして、塾や家庭教師代で200万円〜300万円。中学3年間の授業料は最低でも300万円程度、余裕を見て500万円ほどは見ておきましょう。

受験をスタートする時期や塾や家庭教師への課金の度合いによっては、トータル最大で1000万円かかることは普通にあり得る世界です。もちろん、中学3年間やそれ以降にも塾、家庭教師に課金することもあるでしょうし、高校、大学、大学院などの費用もかかります。

小学生から中学生へと育つ段階で、子どもにこれだけのお金が捻出できる家庭がどれほどあるのでしょうか。

親の仕事が安定していて、今後も世帯収入が上向いていくことが保証されていれば問題はないでしょう。しかしこのご時世ですから、何が起こるかわかりません。突然仕事を解雇される可能性もあります。不測の事故で余計な出費がかかってしまう、満足に働けなくなることもあり得ます。

なんとか生活費を切り詰めつつ、日々の給料から辛くも費用を捻出するような、自転車操業的な経済状況で中学受験に参入するのは得策ではありません。不足の事態ひとつで、プランは瓦解し、これまでの苦労が水の泡となってしまうリスクがあるのですから。したがって、経済的な余裕は絶対です。

■思い込みが中学受験産業を盛り上げている?
仮に資金が無尽蔵にあったとしても、1と2の条件を満たすことができていなければ、私は中学受験をする必要はないと主張します。また逆に、経済的に厳しい見通しであるならば、1と2の条件が満足であっても、これも中学受験は勧められません。

3つの条件を満たすような、中学受験に向いている家庭は、東京都内であれば全体のせいぜい5%、多く見ても10%といったところでしょう。

それほどの少数派であるはずなのに、前述の通り中学受験率が高水準という事実は、やはり私は首を傾げてしまいます。「中学受験に課金をすれば子どもの生涯は安泰」そう思い込んでいる家庭を続出させてしまう、盲信的な受験市場が形成されているのではないかと危惧したくなるのです。

安定した年収、平穏な暮らしに、中学受験は避けて通れない。そのような前提の思い込みが、無計画な中学受験戦争参入に拍車をかけているのではないか。そしてその結果、理想の教育ルートを歩める家庭がいる一方で、不幸な家庭を増やしているのではないか。そう思えてならないのです。


蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長


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■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長
1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。
医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。
2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。
子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。


塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略
蓮池 林太郎
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2025-11-27


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