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退職代行サービス「モームリ」の代表が、警視庁に逮捕された。容疑は弁護士法違反。報酬目的で退職代行に関する業務を弁護士に紹介し、紹介料を得ていた疑いだ。

累計4万件以上の退職を成立させた業界大手が、突如として社会問題の中心に立たされた。

「これは違法だったのか」
「救われた人もいたはずなのに」
「そもそも退職代行って必要なのか」

このニュースをめぐって、いま最も注目を集めているのは法律の問題です。非弁行為とは何か、どこまでが合法で、どこからが違法なのか。議論の焦点は、制度や条文の解釈に集まっています。

しかし一方で、この出来事は、法律の問題にとどまらず、ベンチャー企業が競争のない市場、いわゆるブルーオーシャンに参入し、急成長していく過程で、どのような「壁」に直面するのかを示す事例でもあります。

この記事ではマーケティングコンサルタントとして、モームリの事例をもとに、成長の裏側にあった「壁」を読み解いていきます。

■モームリに何が起こったか?
2026年2月3日、退職代行サービス「モームリ」の運営会社「アルバトロス」の代表・谷本慎二容疑者(37)と従業員の妻・志織容疑者(31)が、弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。(参考:退職代行「モームリ」代表ら逮捕 資格なく弁護士に有償で紹介か 日本経済新聞 2026/02/04)

逮捕容疑は、報酬を得る目的で、退職交渉に関する仕事を弁護士に紹介し、紹介料を受け取った疑いです。弁護士法では、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法的な交渉を第三者にあっせんを行うことが禁止されています。

モームリは2022年のサービス開始から、累計4万件以上の退職を確定させたとしてきました。その後、今回の事件が発覚し、メディアで大きく報じられています。

■ブルーオーシャンには壁がある
モームリが急成長した背景には、退職代行という分野が長らく手つかずだった、いわゆるブルーオーシャンであったことがあります。

ブルーオーシャンに競合が少ないのには、理由があります。多くの場合、そこには以前から顕在的または潜在的な需要が存在していたにもかかわらず、参入を阻む「壁」が残っていたために、結果として競争が起きてこなかった市場が広がっています。

そうした壁には、社会的な文化や慣習、信頼の獲得、運営上の負荷、そして法的制約など、いくつかの種類があります。例えば、メルカリには、社会的・文化的な壁がありました。個人間で不用品を売買する行為は、長らく「面倒」「トラブルが怖い」と敬遠されてきましたが、メルカリは決済や配送を仕組み化することで、この心理的な壁を下げました。

また、物流という重い運営上の負荷も、多くの事業者が避けてきた領域です。しかし、Amazonは自社で物流網を構築することで、それを競争優位に変えていきました。こうした例が示すように、ブルーオーシャンが青い理由は「越えるのが難しい壁があるから」だと言えます。

一方で、モームリが直面している法的制約の壁は、努力やスピードによって解決するのが難しく、さらに事業が成長するほど影響が大きくなる傾向があります。

法的な制約を正面から突破しようとする戦い方は、事業の継続性が外部要因に左右されやすく、安定した「勝ち筋」になりにくい側面があります。そのため、法律が関係する分野では、正面から押し切るのではなく、やり方を変えて事業を考える必要があります。

■成功企業は、壁を「回り込んで」きた
法的な制約が関わる領域では、正面から突破しようとするのではなく、壁に触れない形で市場をつくる戦い方が取られてきました。実際、制度の内側に踏み込まず、自らの役割を限定することで成長してきた企業は少なくありません。

事例:弁護士ドットコム
弁護士ドットコムは、法律相談をしたい人と弁護士をつなぐプラットフォームを運営する企業です。同社は、個別の法律判断や交渉を担うことはせず、弁護士と相談者をつなぐ「場の提供」に役割を限定してきました。

誰が判断するのか、誰が責任を負うのかを明確に分け、自社はあくまで情報と接点を提供する役割に絞っています。これにより、法的な判断領域に踏み込むことなく、市場を拡大してきました。

事例:freee
freeeは、会計や経理業務をクラウド上で効率化するソフトを提供する企業です。同社は、会計や税務を代行する立場は取っていません。判断は税理士や会計士に委ね、自社は書類の整理や準備を楽にする道具に特化しています。判断ではなく「準備と整理」を支援することで、法的な壁を避けながら利用価値を広げてきました。

これらの企業に共通しているのは、壁を力で越えようとせず、自分たちが担う範囲を明確に定めることで、市場を「回り込んで」きた点です。どこまでやり、どこから先をやらないのか。その線引きこそが、法的制約のある分野で成長するための重要な戦略となっています。

■モームリはなぜリスクを負って「紹介」していたのか
ここまで読むと、多くの読者は「リスクのある部分は切り離せばよかったのではないか」と感じるかもしれません。では、なぜモームリは、あえて弁護士の「紹介」という形を取り続けたのでしょうか。

その理由の一つは、事業としての効率性にあります。報道によれば、弁護士への紹介1件あたりの報酬は約1万6500円でした。(参考:退職代行「モームリ」社長と妻逮捕 紹介目的で弁護士あっせんした「非弁行為」 テレ朝NEWS 2026/02/04)

個々の金額は大きく見えなくても、日々の依頼件数や、その中で弁護士対応が必要となる割合を考えると、事業全体では無視できない収益になります。しかもこのモデルは、新たな広告費をかける必要がなく、専用のオペレーション人員もほとんど増やさずに成立します。

つまり、一定の件数が積み上がれば、低コストのまま収益が伸びる構造だと考えられます。「切り離せば安全」という判断よりも、「維持すれば効率が高い」という判断が、事業運営上は魅力的に映った可能性があります。

この構造が、モームリの成長を支えた一方で、事業が拡大するにつれて別の課題も抱え込むことになりました。

■モームリの事例から見えてくるもの
多くのベンチャーにとって、ブルーオーシャンを狙う戦い方は有効な選択肢になりやすいと言えます。ただし、ブルーオーシャンとは自由な市場ではなく、多くの場合、未解決の「壁」が残っている市場でもあります。

そして、成長の過程でその壁にどう向き合うかは、多くのベンチャーが直面する共通のテーマでもあります。モームリの事例は、その構造が表面化した一例として捉えることができるでしょう。


木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役


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■プロフィール 木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役
kinoshita
「なぜ伝わらないのか」「なぜ売れないのか」を構造から整理し、露出・信頼・売上が一貫して成立する状態を設計する専門家。外資系企業で13年間マーケティングに従事。ベンチャー支援団体にて広報・マーケティング領域を経験した後、株式会社ユアウィルを設立。中小企業や個人事業主200社以上を支援し、構造や伝え方を整理することで、評価や機会につながるケースを数多く生み出す。支援したコンサルタントや中小企業診断士などが雑誌掲載されるなど、第三者評価につながる成果も多い。自身も30冊以上の法人向けビジネス誌や日本経済新聞等に寄稿。商工会議所や大学校などの教育機関では講演活動にも取り組み、実践的な考え方や方法を伝えている。近著に『コンサルタント・講師のためのPR戦略』(同友館)

公式サイト https://practical-marketingpr.com/
著書 『コンサルタント・講師のためのPR戦略』https://www.amazon.co.jp/dp/4496057603

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