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市場の縮小や人手不足によりビジネス環境が年々厳しくなるなか、中小企業は「年1回の展示会出展」を重要な営業の機会とみなすべきだと、中小企業診断士の清永健一氏は言います。しかし、ただ出展すればいいわけではなく、展示会を大きなチャンスに変えるにはポイントがあります。

今回は、展示会出展を営業はもちろん、社員のモチベーションアップやより良い顧客フォローへのアップデートにまでつなげる合理的な視点を、氏の著書『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に「1回」しか営業しない!』から再構成してお届けします。



■儲かり体質に変える「逆算思考」の目標設定術
展示会への出展は、中小企業にとって大きな成果が期待できる営業手法ですが、多くの企業が出展に際して、最も根本的で明確な数値目標を設定していないのが現状です。結果として、展示会出展そのものが目的化してしまい、「出展した」という事実に満足してしまいますが、これでは意味がありません。展示会出展はあくまで「最終的に得たい成果」を実現するための手段であるべきです。

それでは、どのように具体的な目標値を設定すれば良いのでしょうか。そのコツは大きく2つあり、1つは「プロセスごとの目標値を設定する」ことです。展示会で確実な成果を上げるためには、売上目標や受注件数といった最終目標だけでなく、そこに至るまでのプロセスごとに目標値を設定することが不可欠になります。

私の独自メソッドである「展示会営業」におけるプロセスは、概ね以下の4段階に分けることができます。

(1)展示会での名刺獲得
(2)展示会後の初回接触(特典エントリー)
(3)案件化
(4)受注

取り扱う商材や顧客層によっては、「案件化」のステップが不要な場合もありますが、管理する項目は少ないほうが望ましいため、無駄に管理項目を増やしすぎないよう注意が必要です。

そして、目標設定のもう1つのコツは、最終的に得たい成果から逆算する「バックキャスティング」です。例えば、「新規受注を3件獲得する」という目標があったとします。

(1)案件化数から逆算:受注率が20%だと仮定すると、3件の受注を得るために必要な案件化数は15件です(3件÷0.2)。
(2)初回接触数から逆算:案件化率が30%だと仮定すると、15件の案件化に必要な初回接触数は50件です(15件÷0.3)。
(3)名刺獲得数から逆算:初回接触率が15%だと仮定すると、50件の初回接触に必要な名刺獲得数は333枚となります(50件÷0.15)。

このように逆算することで、「3件受注」という最終目標のために、具体的に「333枚の有効名刺」が必要であるという、具体的な数値目標が明確になります。もし各プロセス間の移行率が不明な場合は、まず「このくらいだろう」というパーセンテージを思い切って設定し、一度取り組んだ後の実績値を基に、次年度以降の目標値を設定すれば良いのです。

■営業活動の活力を奪う「ノルマ」という名のワナ
目標設定が明確になったら、「この目標を、当日ブースに立つスタッフ一人ひとりに割り付けよう」と考える出展責任者は多いでしょう。しかし、ここに落とし穴があります。

前述の例で言えば、全社の名刺獲得目標333枚をブーススタッフ3人で分けると、一人あたり約111枚、会期3日間で1日あたり37枚、1時間あたり約5.3枚という具体的な数値目標が算出されます。

責任者が「1時間に最低6枚は有効名刺をもらえるように頑張ってくれ!」とスタッフに伝えたとしましょう。スタッフは表向き「はい、頑張ります!」と言うかもしれませんが、心の中では「ああ、またノルマ設定か。仕方ない、怒られない程度に無難に切り抜けよう…」と感じてしまうことが多いのです。

展示会は一種のイベントであり、お祭りの要素があります。スタッフが「イヤイヤ取り組んでいる」状態では、活気を持って対応すべきお祭りの場で成果が出るはずがありません。

さらに、来場者は展示会場で大量の情報にさらされ、四方八方からの売り込みによって「頭が回転せず思考停止している」状態にあります。このような思考停止状態の来場者は、スタッフがやる気と活力を持ち取り組んでいるか、それともノルマのために仕方なく対応しているかを、感覚的に察知してしまいます。その結果、統制が取れているが活気のないブースは、来場者に「近寄りがたい」という印象を与え、成果が上がらなくなるのです。

ノルマを設定する際には、達成後のご褒美を用意したり、目標の達成自体に楽しく取り組めるよう工夫してみてください。例えば、目標の達成に必要なプロセスを得点化する「ゲーミフィケーション」などが有効です。参加するスタッフのキャラクターを日頃からよく観察しておくことで、どういう目標設定ならやる気を出してくれるのか見えてくると思います。

■「5G」時代に関係構築を加速させるアフターフォロー
儲かり体質に変わるためには、展示会が終わった後のフォローも重要です。例えば名刺の獲得を目標数以上に達成できたとしても、すぐに購入を検討する「今すぐ客」は約25%に過ぎず、残りの約50%は「そのうち客」です。この「そのうち客」を放置したり、強引に営業したりすることは、将来の優良な見込み客をムダにすることにつながります。

「そのうち客」との良好な関係性を継続的に築くためには、メルマガ(メールリストへの一斉送信)による情報提供が不可欠であり、最低でも月に1回、できれば2回は送りたいところです。

メルマガの目的は、「あなたの会社が自分の悩みに寄り添おうとしている」という印象を与え、自社を忘れさせないようにすることです。そのため、内容は、商品の特長や割引情報といった「売り込み」ではなく、見込み客の困りごとに対する解決策を提供する「お役立ち情報」にすべきです。

この情報提供の質を高め、関係構築を加速させるのが、動画の活用です。

「5G」時代の到来で通信速度が超高速化し、2時間の動画がわずか3秒でダウンロード可能な今、企業における動画活用も注目されています。加えて、生成AIの登場により動画の編集はかつてに比べて圧倒的な低コストで可能ですから、まさに時代の潮流に乗ったアフターフォローといえるでしょう。

具体的には、メルマガに文字情報だけでなく、口頭で内容を語りその姿を撮影した動画をYouTubeにアップし、そのURLを貼付して送ります。

動画の伝達力は非常に強力です。ネット経営の専門家によれば、映像による情報伝達は、文字による情報伝達よりも4,500倍も高いと言われています。動画を通して、経営者や営業担当者の表情、声のトーン、現場の雰囲気といった、文字情報では伝わりにくい要素を伝えることで、見込み客は「この会社は自分の悩みを分かってくれている」と感じてくれ、良好な関係性の構築に大きく貢献します。

特に商材の発注権を持つことが多い30代〜40代の中堅層は動画世代であるため、動画活用は、「そのうち客」との関係構築において最善のフォロー戦略となるでしょう。

このように、展示会は単なる営業機会ではなく、社員のやる気を喚起したり、新しい顧客フォローの方法を見出したりと、企業の活動そのものをブラッシュアップできる場として活かすことができるのです。リソースでは大企業に劣る中小企業だからこそ、展示会を上手に活用していただければと思います。


清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント


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【プロフィール 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント】
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神戸大学経営学部卒。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など取材多数。支援実績は1300社超。ほぼ毎週東京ビッグサイトに出没している。
NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関してテレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。
著書『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得。奈良生まれ、東京在住。

公式サイト https://tenjikaieigyo.com
X:https://x.com/tenzikai @tenzikai



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