![]() なかでも、上司との付き合い方に悩む方は多いですよね。つい、自分が悪いと思いすぎてしまいますが、 実はその悩み、相手の性格の問題ではなく、あなたの「脳の神経回路」が引き起こしている現象かもしれません。 精神科医・産業医として働く現場の快適な環境づくりに携わる立場から、「職場の人間関係がしんどい」という悩みの解決策を、脳科学的な視点からお伝えします。 ■脳が勝手に作り出す「苦手」の正体 朝、仕事に行く途中上司の顔を思い浮かべるだけで胃が重くなる。「また細かくチェックされるのか」「あのきつい言い方に耐えなければならないのか」と、心が防衛体制に入ってしまう。こうした反応は、決してあなたの心が弱いからではありません。 脳内には「扁桃体」という、恐怖や不安を司る部位があります。一度、脳が上司を「敵」や「脅威」と認識してしまうと、この扁桃体が反応し、相手の言動すべてをネガティブに捉える「神経回路の結びつき」が固定化されてしまいます。 これは、有名な「パブロフの犬」の実験で、ベルの音を聞くだけで唾液が出るようになる「条件反射」と同じ仕組みです。あなたにとって上司の存在が、不快な反応を呼び起こす「ベルの音」になってしまっているのです。 ■精神科医が注目する「脳の特性」のアップデート では、固定化された神経回路の結びつきを変えるにはどうしたらいいのでしょうか? パブロフの実験では、ベルを鳴らしてもエサを与えないことを繰り返すと、やがて唾液が出なくなります。これを心理学で「消去(Extinction)」と呼びます。私たちの脳も同様に、出来事そのものではなく、その出来事からの「解釈」によって反応を変える性質を持っています。これは脳科学で「認知再評価」と呼ばれる仕組みです。 具体的には、ネガティブな反応を「別の解釈」で上書きし、新たな神経伝達ルートを構築していきます。パブロフの犬が「ベル=エサではない」と新しい学習をするように、脳内で元の回路を抑制する新しい回路を物理的に、しかも「故意に」形成していくのです。 パブロフの犬のような原始的な反応(扁桃体主導)を、より高次の脳領域である「前頭前野」からのトップダウンな働きかけで制御する。これこそが、人間における「解釈の上書き」の解剖学的な実体です。これは単なる根性論ではなく、脳の情報の通り道を物理的に整えていく、極めて脳科学的なプロセスなのです。 ■「細かい上司」をどう脳内で再構築するか 例えば、多くの人がストレスに感じる「細かく管理する上司」を例に挙げてみましょう。脳がこれを「監視」や「支配」と解釈すると、ストレスホルモンが分泌され、心やカラダは緊張します。 しかし、この解釈を「一つひとつを丁寧によく見てもらっている」と再定義(ラベルの貼り替え)をするとどうなるでしょうか。すると、理性や判断を司る「前頭前野」が働き始め、「自分の仕事が正確に確認されている」「安全だ」という認知が形成されやすくなります。前頭前野からの信号が、暴走する扁桃体に「ブレーキ」をかけるのです。 「きつい言い方」も同様です。感情的な攻撃だと解釈すれば疲弊しますが、「はっきりとした言い方」と脳が情報処理すれば、曖昧な言い方よりも「明確な情報入力」であると言えます。 「何をすべきか判断基準がはっきりしている」と解釈することで、脳内の混乱した回路が整理され、次に取るべき行動を即座に選択できる状態が作られるのです。 ■努力は不要、ただ「言語」を置き換えるだけ ここで重要なのは、「ポジティブに考えよう」と無理に自分を納得させる必要はないということです。納得しようとする努力は、脳にとって新たな負荷になりかねません。大切なのは、脳が自動的に結論づけていた「回路」そのものを別のルートに誘導することです。 次に上司に対して「細かい」「きつい」と感じた瞬間、ただ機械的に次の言葉を頭の中で呟いてみてください。 ・「細かい」→「一つひとつ丁寧に見てもらっている」 ・「きつい」→「曖昧にせず、明確に伝えてくれている」 ただこれだけです。 この置き換えを繰り返すことで、脳は繰り返し使われる言語に反応し、少しずつ使う回路を切り替えていきます。これまでストレス反応を引き起こしていたニューロンネットワーク(神経回路)が弱まり、代わりに「安心・理解・選択」のニューロンネットワークが強化されていくのです。 ■評価が変われば、現実は驚くほど変わる 同じ上司、同じ指導、同じ言葉であっても、あなたの脳内ニューロンネットワークが変わるだけで、人間関係の質は劇的に変化します。「攻撃されている」と感じていた対象が、「責任を持って見てくれている人」に変わる。これは我慢や妥協ではなく、脳の認識システムがアップデートされたことで生じる脳科学的に合理的な変化です。 人間関係の悩みは、性格の不一致ではなく、多くの場合「脳の癖」による問題です。もし、あなたが、この置き換えを実行して、以前よりも感情のぶれが和らいだなら、それはあなたの脳が新しいネットワークを使い始めた証拠です。 ■今すぐできる脳のトレーニング 今日からできる小さな課題を提案します。苦手な上司に何か言われた際、その内容を感情抜きで考えて「ポジティブな情報」としてのみ受け取り、心の中で「明確なフィードバックをありがとう」と一言添えてみてください。この一言の小さな積み重ねが、あなたの脳の回路を整えていきます。 扁桃体にできたネガティブな感情的な神経回路から、前頭前野に新しく構築した理性的な神経回路が優位になり、「苦手な上司」が「最高の味方」になっていくでしょう。 西川晶子 精神科専門医・産業医・医学博士・公認心理師 【関連記事】 ■「やる気」に頼らない脳のブレーキの外し方 (西川晶子 精神科医) https://sharescafe.net/62975618-20260201.html ■本当に中学受験すべき家庭は実は少ない?参入できる3つの前提条件とは (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62989284-20260206.html ■課金力を最大化する、子どものタイプ別受験戦略とは (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62987426-20260205.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 西川晶子 精神科専門医・産業医・医学博士・公認心理師 早稲田大学大学院(心理学修士)を修了後、外務省に入省。その後、スタンフォード大学大学院にてコミュニケーション学修士号を取得。国際協力の現場でメンタルケアの重要性を再認識したことを機に、より直接的に人を癒やす道を志して滋賀医科大学へ学士編入学。卒業後、医師となってからは、精神科医として臨床に携わり、産業医として「働く現場」の快適な環境づくりをサポートしている。現在は、認知心理学と脳科学の知見を統合し、脳への「入力情報」をかえて、コンディションを整える独自のメソッドを共同開発中。「もっと頑張りたい」とか「頑張れない」と思う人々の心の安定性と快適さを引き出し、しなやかなパフォーマンスの発揮を追求している。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |

