![]() しかし、私は30年以上にわたり、証券会社および投資助言の現場で数多くの個人投資家を見てきました。その立場から申し上げると、今の高配当株ブームは危うさを感じます。 この記事では、投資助言・代理業を20年以上営んできた立場から、高配当株「だけ」に頼る戦略の危険性と、老後資産を守るための考え方をお伝えします。 ■SNSで夢見る「配当金生活」の甘い罠 2025年6月末時点で、NISA口座数は約2,696万に達し、成長投資枠で買われる日本株の上位には、配当利回り4%超えの銘柄がずらりと並んでいます。高配当株は今、間違いなく個人投資家の「主役」です。 配当金で月10万円を得るには、利回り4%の銘柄で約3,000万円、利回り3%なら4,000万円もの投資元本が必要になります。 SNSでは「3,000万円を高配当株に入れれば、あとは寝ていてもお金が入ってくる」といった投稿が人気を集めています。しかし、この金額を高配当株だけに集中させることが、いかにリスクの高い行為であるか、多くの人はその危うさに気づいていません。 ■高配当株だけを保有するリスクと「専門家の常識」 まず前提として確認しておきたいのは、高配当株そのものが悪いわけではない、ということです。定期的な現金収入が得られる配当は、特に退職後の生活設計において心強い存在です。問題は、高配当株「だけ」に資産を集中させることにあります。 投資の現場にいる人間にとって常識ともいえる事実を一つ挙げましょう。 配当利回りが突出して高い銘柄は、往々にして「その企業の更なる成長を犠牲にして配当を出している」ことがあります。配当利回りは「1株当たり配当÷株価」で算出されます。株価が下落すれば利回りは自動的に上昇します。つまり、利回りが5%、6%と高ければ高いほど、「株価が低迷している=何か問題を抱えている」可能性も考えるべきなのです。 では、高配当株に集中投資した場合の最大のリスクとは何でしょうか。結論から言うと、「減配」と「無配転落」です。 記憶に新しいのは日産自動車のケースでしょう。かつて配当利回りが5%前後で推移し、高配当株の代表格として多くの個人投資家が所有していた同社は、2024年11月に配当予想を「未定」に変更し、2025年3月期には最終赤字約6,700億円という過去最大の赤字を計上して無配に転落しました。 株価は2024年末から4割近く下落し、「高い配当をもらいながら長期保有」を目論んでいた投資家は、配当を失った上に元本も大きく毀損する二重の打撃を受けたのです。 こうした事態は決して珍しいことではありません。東京電力は2011年の原発事故以前、安定配当銘柄の代名詞でした。電力株は「配当目的で持つもの」という常識が投資家の間に広く浸透していたにもかかわらず、事故後に無配に転落し、十数年経った今も復配していません。あおぞら銀行も2024年に突如として赤字決算と減配を発表し、株価が急落しました。 減配する企業には共通点があります。業績のピークが過ぎているにもかかわらず、株主還元を維持するために無理して配当を出し続けているパターンです。 これを見抜くには、利益のうちどれだけ配当に回しているか、の配当性向も見ていく必要があります。配当性向は1株当たり配当金÷1株当たり当期純利益(EPS)×100で、目安は一般的に20〜50%程度ですが、高すぎる企業は、注意が必要です。 配当性向(利益に対する配当の割合)が100%に近い、あるいはそれを超えているような銘柄は、利益以上の金額を配当として吐き出していることになります。言い換えれば身を削って配当を払っている状態であり、業績が少しでも悪化すれば一気に減配・無配に追い込まれます。 こうした「いつ蛇口が止まってもおかしくない配当」をあてにして、老後資金の3,000万円を預けることが、いかに危険であるかは想像に難くないでしょう。あくまでも配当は、企業の利益という源泉がしっかりしているからこそ、配分があるものという考えが重要です。 ■成長株こそが「配当の持続性」を支えるという真実 高配当株だけに頼る戦略には、もう一つ多くの人が見落としている構造的な問題があります。それは、インフレと高金利です。 日本は長らくデフレの国と言われてきましたが、状況は一変しました。2025年の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)は前年比3.1%に達し、食品価格の高騰は家計を直撃し続けています。仮に3%のインフレが10年続けば、物価は約1.34倍になります。今の月10万円の配当で買えるモノやサービスが、10年後には実質的に月7万5千円分の価値しかなくなる計算です。 ここで重要なのは、高配当株の多くは成熟企業であり、配当金が大きく増えていく「増配」のペースが緩やかだという点です。 インフレ率を上回るペースで増配し続けてくれなければ、配当の実質的な購買力は年々目減りしていきます。年金だけでは足りないからと配当金に頼ったはずなのに、そのセーフティーネットすらインフレに浸食されていく。これが高配当株だけに懸ける戦略の構造的な欠陥です。 また、金利が高くなれば高配当の魅力は薄れます。10年国債が3%になれば、3%で減配リスクのある高配当株よりも安定金利の国債に資金がシフトしてしまうのです。高金利とインフレは高配当株のリスクです。 では、インフレと高金利に対抗できる資産とは何か。それは利益そのものを伸ばし続けられる成長企業の株式です。 私は太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)での投資情報部時代から、年間数十件の企業取材を重ねてきました。その経験から断言できることがあります。長期にわたって配当を出し続け、なおかつ増配を実現してきた企業は、例外なく本業の利益を成長させてきた企業だということです。 例えば、過去のリーマンショックやコロナショックといった市場の暴落局面で、減配せずに配当を維持、あるいは増配を続けた企業を振り返ると、その多くは当時「成長株」に分類されていた銘柄でした。利益が伸び続けているからこそ、不況時にも配当を支払う余力があったのです。 逆に利益が横ばい、もしくは縮小傾向にあった「高配当だけが投資家を惹きつける」銘柄は、不況の一撃で配当を維持できなくなりました。つまり、安定した配当の源泉は高い配当利回りではなく、企業の利益成長力にこそあります。配当という果実だけを見て、木そのものが育っているかどうかを確認しない投資は、枯れかけた木から無理やり果実をむしり取っているようなものです。 ■令和の「新しい常識」――成長と配当の二刀流戦略 ここまで読んで「理屈はわかるが、成長株は値動きが激しくて怖い」と思われた方もいるでしょう。この反論は十分に理解できます。 しかし、考えてみてください。日産自動車の株価が1年で4割近く下落した事実を。安定だと思い込んでいた高配当株でさえ、業績が崩れれば成長株以上の暴落を引き起こします。「高配当=低リスク」というのは幻想に過ぎません。 成長株の値動きの荒さに対処する方法は明確です。ポイントは「分散」と「時間軸」です。1つの銘柄に集中するのではなく、複数の成長分野に分散し、短期の値動きだけではなく5年、10年というスパンで保有します。時間を味方につければ、成長株の値動きの荒さは平準化され、その間に利益の成長が株価と配当の両方を押し上げてくれます。 私が提案したいのは、ポートフォリオの中に「成長」と「配当」の二つのエンジンを持つことです。 高配当株で足元のキャッシュフローを確保しつつ、成長株で資産全体の底上げとインフレへの耐性を持たせる。この二刀流こそが10年後20年後の自分を守る現実的な戦略です。 今、日本には半導体やAI、科学技術など世界的な競争力を持つ成長分野があります。S&P500やオルカンへの積み立てでグローバルな成長を取り込みつつ、日本の成長企業にも目を向けることは理にかなっています。大切なのは配当利回りが何%かという数字だけを見るのではなく、この企業は5年後も10年後も利益を伸ばし続けられるかという視点で投資先を選ぶことです。 「配当金で暮らしたい」という願望そのものは否定しません。しかし、配当だけに依存する戦略は、減配リスクとインフレと高金利という三つの時限爆弾を抱えているのです。老後の安心は、高い利回りの数字ではなく、利益を伸ばし続ける企業への投資と、成長と配当のバランスを持った堅実な資産配分から生まれます。 これが30年以上市場を見てきた私の結論であり、令和の投資家が持つべき「新しい常識」だと考えています。 【参考】金融庁「NISAの利用状況の推移(グラフ)」 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)平均 (2026年1月23日公表)」 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役 【関連記事】 ■NISA非課税枠拡大の裏に潜む「教育費の時限爆弾」。親が知るべき「評価損のまま売る」を避けるための出口戦略 (藤村哲也 投資助言代理業) https://sharescafe.net/62975699-20260201.html ■SNS型投資詐欺が過去最多のいま、信頼できる情報を選ぶ3つの基準 (藤村哲也 投資顧問助言業) https://sharescafe.net/62880877-20251224.html ■日経平均史上最高値の熱狂の裏で、専門家が明かす“年率30%”を狙う銘柄入れ換え株式投資法 (藤村哲也 投資助言代理業) https://sharescafe.net/62808733-20251126.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役 ![]() 2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。 公式サイト https://www.risingbull.co.jp/ 公式ブログ https://www.risingbull.co.jp/stock/ X:https://x.com/risingbullcorp @risingbullcorp LINE公式アカウント:https://liff.line.me/1657519081-PwxaxnR5/76be088ff4bc4e3eb870c7a4d5d2295f シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


