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■アスリートに学ぶ英会話力の効率的な伸ばし方<山本由伸投手編>
ミラノ・コルティナ冬季五輪で、日本人選手が流ちょうな英語でインタビューを受けているのを目にした方も多いでしょう。例えばスノーボードのビッグエアで金メダルを取った村瀬心椛選手や、ハーフパイプで銅メダルの小野光希選手が自然に英語で受け答えをしている姿を私自身も動画で見ました。

英語ができるようになるには、覚えることがたくさんあるため、頭の良さや根性が必要だと思っている人が多いのではないでしょうか。しかし、研究の世界でもよく言われることですが、言語を習得することは実はスポーツに近いのです。

先日のスポーツ雑誌『Number 1133号』(文藝春秋)の中で、ロサンゼルス・ドジャースに所属する山本由伸投手がどのようにして英語を上達させたのか、特集されていました。その内容を踏まえ、英語学習の専門家として効果的に英語を上達させるためのコツをお伝えします。

■スピーチをいきなり振られ、二言しか言えなかった1年前
2025年11月。ワールドシリーズを2連覇した後のセレブレーションで、山本選手は以下のスピーチを行ないました。

『Buenas tardes.(<スペイン語で>こんにちは)
You know what?(聞いてくれますか)
Losing isn’t an option!(負けるという選択肢はありません)
Thank you, my teammates,(感謝したいのはチームメイトたち)
my coaches, our amazing staff,(コーチ陣に素晴らしいスタッフの人たち)
and all the fans.(そして全てのファンです)
We did it together.(みんなで勝ち取りました)
I love the Dodgers.(ドジャースが大好きです)
I love Los Angeles.(ロサンゼルスが大好きです)
ありがとう!』(※カッコ内は引用者訳)

このスピーチで大喝采を浴びたわけですが、1年前は全く違いました。大谷翔平選手にいきなり引っ張り出され、スピーチを振られた山本選手は、実は「サンキュー、ドジャースファン!」という挨拶しかできなかったのです。

また、さらにその1年前に行なわれていた入団会見では、冒頭こそは英語で挨拶をしていましたが、はっきり言って台本の棒読みであり、聞いている人の心を動かすようなスピーチでは全くありませんでした。

そのわずか2年後に、大喝采を浴びるまでに上達したのは素晴らしいことですが、同時にやや厳しい見方をすれば、スピーチは事前準備ができるから実力とは限らないと考えることもできてしまいます。

2年前にアメリカに渡ってから語学コーチのタカ・サカモト氏の英語指導を受けるようになった山本投手が、一体どのようなメンタリティで、どのような学習をしたのかを探っていきましょう。

■不定詞や関係代名詞を聞いたことがなかった学生時代
文武両道――。それは理想ではありますが、スポーツに励む学生の中には、学業を捨ててスポーツに全振りする人も少なくありません。山本選手も学生時代には全然勉強しなかったそうで、自身の元々の英語力を「真っ白なキャンバス」だと表現していました。

具体的には、不定詞や関係代名詞といった単語を学校で聞いた覚えがなく、サカモト氏が「文法の説明をすると『頭が壊れるー』と悲鳴を上げていた」レベル。

しかし、大事なのはメンタリティであり、物事の捉え方1つによって世の中は全く違うものに見えてきます。実はスポーツが得意な人やアスリートのほうが語学に向いている――と言うこともできるのです。サカモト氏はこう言います。

『そもそも語学をスポーツと対極の勉学と認識しているからこその苦手意識だと思うんですが、まずそこが違うよと。少なくとも会話に関しては、顔の筋肉や関節、舌や息を使って音を出す身体運動で、動きを反復することによって自動化し、身体化させていく。そう、スポーツと同じなんです。』(引用:『Sports Graphic Number「アスリートに学ぶ外国語学習法。 1133号』 文藝春秋)

■大切なのは「現在の英語力」よりも「意欲」
中学英語ももう忘れてしまった自分には英語はムリ……。そんな風に、現状の英語力から決めつけてしまってはいけません。仮に今の英語力がどれだけ低かったとしても、これからできるようになればいいだけであり、大切なのは意欲です。

一流のアスリートである山本選手が見せる学習意欲に、サカモト氏は舌を巻きます。

『今年(注:2025年)5月8日のダイヤモンドバックス戦で2本のホームランを浴び、5回降板した山本は、試合終了直後にサカモトさんにメッセージを送った。
《少しでも意味のある一日にしたいので、レッスンをお願いできませんか》』(引用:同上)

そして、レッスンを受けることで意味のある一日にしただけでなく、さらにその約10時間後となる翌朝にも再び、眠い目をこすりながらレッスンを受けていたと言います。このように前向きに努力し、貪欲に吸収しようとする姿勢はぜひ見習いたいものです。

メジャー1年目となる2024年は、英語のレッスン100回を目標を掲げたものの、70回程度しか行なえず、本人も悔しがっていたそうです。しかし、翌2025年はオフ突入までにきっちりと目標の100回に到達。できないことを否定してしまうのではなく、きちんと修正をして、2年目にしっかりと目標を達成するところも流石と言えます。

■疲れているはずの試合後になぜ英会話レッスンを行なうのか?
山本投手とサカモト氏の1時間の英語レッスンは、試合後の夜に行なわれることが多いそうです。先ほど、敗戦投手となった試合の後にも実施していた話がありましたが、一番疲れているはずの試合の後になぜ英会話レッスンを行なうのでしょうか?

実はここに、英語上達の秘訣が隠れています。一言で表現するならば、有名な諺ですが「鉄は熱いうちに打て(Strike while the iron is hot.)」――。

試合中に、チームメイトたちがしゃべっていた言葉をきちんと理解できるようになるのが山本選手にとって極めて大事なことです。分からなかったところや疑問に思ったことを、記憶が新しいその日のうちに解消しているのは、まさに理想的な学習姿勢だと言えるでしょう。

英語は暗記科目として、よく分からないままに暗記をしてしまうのではなく、きちんと理解/納得をすべきもの。実際に英語に触れたり、使ったりしていたら、たくさんの疑問が出てくるものです。

しかし、多くの学習者の方がその疑問を解消することなく、放置してしまいます。メモを取っておくこともなく、忘れてしまう人が多いのです。試合後で疲れているにも関わらず、意欲的に学ぼうとする山本選手の姿は尊敬に値するものと言えるでしょう。

■現地に住んでさえいれば上達できるのか?
山本選手の英語力に関して、“もう2年もアメリカに住んでいるんだから、話せるようになって当然でしょ?”と思う人もいるかもしれません。英語ができない人の間では、“現地に住めば、英語なんてすぐにできるようになる”という幻想があることも多いです。

現地で生活するなど「英語だけの環境に入る」という習得方法は専門的には「イマージョン(immersion)」と呼ばれます。直訳すると「浸すこと、没入」という意味であり、子どもの場合には非常に効果が期待できますが、大人の場合にはうまくいくとは限りません。

アーカイブ動画が3600万回以上再生されているTEDxスピーチ「半年でどんな外国語もマスターする方法」において、心理学者で外国語学習法の研究者であるクリス・ロンズデール氏はイマージョンについて、「溺れている人は泳げるようにはならない」とシンプルに指摘しています。大人の英語学習の場合には、ただ現地生活をすればよいワケではないのです。

山本投手に対するサカモト氏のレッスンは、一歩ずつ上達を導く形で行なわれました。

『赤ちゃんを考えるとわかるんですが、生まれてから1~2年ひたすら聞き続けて、やっと簡単な言葉を少しずつ言えるようになるわけじゃないですか。つまり、インプットが増えていくことで、徐々にアウトプットも増えていく。ですから最初は僕が英語で話しかけて、反応できればオッケーというところから始めました。ぼくの言うことがわかったら、日本語で返してもらう。リスニングとスピーキングを一度にやろうとするのは大変ですから』(引用:同上)

こうやって一段ずつ階段を上るかのように、一歩ずつ英語を吸収していった山本投手は、アメリカで英語の海に溺れてしまうことなく、2年間で着実に英語力をアップさせていきました。サカモト氏によると「音はほぼキャッチできていますし、時制もかなりわかっていますね。最近は文法の説明をしても頭が壊れなく」なったそうですし、通訳を介さずにチームメイトと談笑するシーンもかなり増えてきています。

■AIに置換不能な「血の通った」英語コミュニケーション力を身につけよう
語学で大切なのは知識ではありません。簡単な言葉を自分のものとして使える技術です。AIがこれだけ発展してくると英語不要論もつぶやかれますが、これまでも、そしてこれからも大切なのは血の通ったコミュニケーションなのです。

先ほど内容をご紹介した山本選手のスピーチ第一声は、英語ではなくスペイン語での挨拶でした。これで、ロサンゼルスに多くいるラテン系のルーツを持つファンの心を掴んだのです。

そして、覚えた英語を一方的にしゃべるのではなく、相手の反応をきちんと見ながら、でも自分の言葉で語る――。難しい言葉を使う必要はないのです。

野球選手は素振りを繰り返すことで、バットをまるで自分の手の一部のように使いこなします。英語もそれと同様で、知識を増やすのではなく、シンプルな英語を使う練習を繰り返すことで、自在に使えるようにすればいいのです。これからの国際舞台で活躍する日本人に必要なのは、根性ではなくスポーツとして身につけた、相手の心を掴む英語コミュニケーション力なのです。


【参考動画】
ミラノ・コルティナ五輪スノーボード女子ハーフパイプ「銅」の小野光希選手 「このような滑りができると思っていなかった」「幸せ」(読売新聞オンライン動画)
https://www.youtube.com/watch?v=JESIuC2QxEQ

【山本由伸 スピーチ】祝賀会にて、本人の口から"あの"名言が!「負けるという選択肢はない」(SPOTVNOW)
https://www.youtube.com/watch?v=Usj3__GpDUo


西澤ロイ イングリッシュ・ドクター(英語学習のやさしい“お医者さん”)


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【プロフィール 西澤ロイ イングリッシュ・ドクター(英語学習のやさしい“お医者さん”)】
nishizawa
英語ニガテ病を解消する専門家。獨協大学英語学科卒業。TOEIC満点(990点)。
大学で専攻した言語学に、脳科学や心理学なども取り入れ、英語上達法を30年間独自に研究している。
「英語病」を解消することによって誰でも英語が上達できる独自のメソッドを確立。
著書に「頑張らない英語」シリーズ(あさ出版)、『英語学習のつまずき50の処方箋』(ディスカヴァー21)の他、著書累計18万部を突破。メディア出演多数。
YouTubeチャンネル「イングリッシュ・ドクターの非常識な英語学」が登録者数5万人を突破し、好評を博している。

YouTube https://www.youtube.com/@englishdoctor_roy
公式サイト https://english-doctor.co.jp/

英語学習のつまずき50の処方箋
西澤ロイ
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2022-08-26


頑張らない英文法 (語学の教科書)
西澤ロイ
あさ出版
2016-08-02



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