![]() 提出された全員似通った内容のエントリーシート。志望動機や話の展開、言い回しまでよく似ている。自身の強みやガクチカ(学生時代に頑張ったこと)が熱心に書かれてはいるが、体温が感じられない。 面接相手はAI。学生は無機質な画面に向かい、PCのレンズ一点を見つめ、独り言のように話し続けている。PCから流れる質問に淀みなく答え、そこに迷いは感じられない。面接が終わると静かに画面を閉じ、学生の合否は数値で決まる。 ――AIで生成したエントリーシートやAI面接(AIが面接官となり、就活生とオンライン上で会話や録画で面接を実施し、表情や話の内容を元に面接の評価まで行う選考手法の1つ)など、AIが身近な存在となった現代において、これは一般的な光景となりつつある。 マイナビの調査によると、就職活動におけるAI利用率は66.6%と、3人に2人は就職活動でAIを利用している。最も活用されているのが「エントリーシートの推敲(68.8%)」、次いで「エントリーシートの作成(40.8%)」と、エントリーシートに関連した利用が上位にあがる。 (参考:「マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査4月<就職活動におけるAI利用について>」を発表 株式会社マイナビ 2025/05/26) タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する現代の学生にとって、大量なデータを元に即座にアウトプットを出してくれるAIは、非常に相性が良い。 しかし、日本の学生が就活開始と同時に一斉に髪を黒く染め、同じようなリクルートスーツに身を包み、同じような髪型になることが異常だと揶揄されるように、先述の光景も就活における1つの異常事態なのではないかと思わずにはいられない。 確かにAIの活用は、学生と企業、双方の採用活動を「効率化」してくれる。しかし効率化と引き換えに得たものが、「AIで生成した標準化されたエントリーシート」、「数値で合否を決めるAI面接」なのであれば、果たしてそこに意味があるのだろうか。 ■「効率化」という名の、壮大な時間の無駄 企業はAI面接により学生の「選別」が楽になったといい、学生はエントリーシートの「作成」が楽になったという。しかし、私個人の意見を述べるのであれば、「無難な言葉の応酬は、結局誰の心にも残らない」と言わざるを得ない。 本来、採用の本質は「相互理解」である。エントリーシートや面接を通し、企業と学生がお互いの価値観をすり合わせ、互いの価値観にマッチした学生・企業を探すための活動であるべきだ。しかしこの「相互理解」の機会は、AIによる「効率化」の恩恵と引き換えに失われつつある。 ■消えた「手触り」と、蓄積する不信感 AIにより生成され、標準化されたエントリーシートからは、学生の「葛藤」や「熱量」が消えてしまう。もちろんAIに「葛藤」や「熱量」を強く打ち出すよう指示することはできる。しかし、AIを通すことで学生の経験やそこから得た学びの解像度は薄れ、綺麗にまとめられてしまう。だから、「手触り感」が消え、話は整っているが印象に残らない。こうして、一見優秀な「量産型就活生」が生まれるのである。 昨年末、ロート製薬がエントリーシートによる書類選考の廃止を発表した。このように、AIの普及により均質化されたエントリーシートから学生の個性を捉えることが出来ないと、エントリーシート廃止に踏み切る企業が増えてきている。 また、「書類は優秀だったのに、面接でがっかりした」「面接での受け答えは優秀だが、本音が見えない」採用の現場から、こうした落胆や不信感の声もよく耳にするようになった。 しかし、落胆や不信感を抱いているのは企業側だけではない。先述のマイナビの調査では、企業から指定される面接手法によって学生の「受験意欲」に影響があるかについて、「対面面接・WEB面接」は8割以上の学生が受験意欲が「上がる」と回答したのに対し、「動画選考・AI面接」は7割以上が受験意欲が「下がる」と回答している。 就活生はAIを積極的に活用しているにも関わらず、なぜ受験意欲が下がるのか。リクルートマネジメントソリューションズが26年卒生を対象に行った調査によると、学生の選考参加意欲に最も影響を与える要因は2年連続で「誠実さ」が1位であった。 (参考:「採用CX(候補者体験)に関する意識調査(2025)」の分析結果を発表 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 2025/10/27) しかし、同社の調査において、学生がAI面接に対し、対人面接と比較して「妥当感」「実力発揮感」「納得感」、そして「誠実さ」などを感じにくくなるという結果も出ている。 (参考:企業が候補者に与える印象とは。採用CX向上のヒントをひも解く「日本の新卒採用選考プロセスにおける採用CX調査」の結果を発表 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 2024/11/22) このように、学生はこと面接においては、AIを活用し時間や場所を問わず受験できるという利便性よりも、対面でのコミュニケーションを重視しているのである。 自分に置き換えて考えてみれば、学生の気持ちが手に取るように分かる。人生のターニングポイントである就職活動で、AIに不合格を出された。その「不合格」とみなされた評価に、自身の想いや温度感が正しく汲み取られているのかと疑念の1つも抱くだろう。 「効率化」の裏で互いの本音や誠実さが見えず、不信感を募らせる形は果たして健全なのだろうか。特に企業側は、不採用にした学生が未来のお客様になる可能性を忘れてはいけない。「効率化」に気を取られて「誠実さ」を見失ってはならないのである。 ■AIは「代替者」ではなく「伴走者」であるべき 「とはいえ、AIを使わないのは時代遅れでは?」と思う読者も多いのでは無いだろうか。人口減少、加速する事業環境の変化に対応していくためには、AIの活用は必要不可欠である。だからこそ、AIとの付き合い方が重要だ。 ソフトバンクでは、早期からAIを活用した採用活動に積極的である。同社はエントリーシートや動画面接の評価にAIを活用している。 例えば動画面接では、AIが同社の合格基準を満たすと判定した学生は次の選考を実施。それ以外の動画はすべて人事担当者が確認し、動画面接の合否を判断している。つまり「落とす」のではなく「残す」ためにAIを活用している。AIと人間が協働で選考活動を行っているのである。 その結果、エントリーシートの選考にかかる時間は約75%削減され、動画面接においても約70%もの作業時間が削減されることが見込まれている。 (参考:新卒採用選考における動画面接の評価にAIシステムを導入~より客観的かつ統一された軸での評価を実現~ ソフトバンク株式会社 2020/05/25) AIはあくまで思考を整理する「鏡」であり、情報を整理する「手段の1つ」である。先の事例のように、AIに依存するのではなく、最後は人間が自分の言葉を乗せ、これまでの経験や感覚を基に判断することが重要だ。 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 【関連記事】 ■【3年冬で5割内定】就活の早期化が生んだ「内定者の長期フォロー」という新たな課題 (河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62936434-20260116.html ■【年明け内定辞退の衝撃】新卒就活の現場を揺るがす「オヤカク」への向き合い方(河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62869078-20251219.html ■「優秀だけど育てにくそう」な人材を落とす大間違い――「初任給40万円」だけでは解決しないDEI時代の採用問題 (河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/62808898-20251127.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 ![]() 2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。 公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/ Tiktok:https://www.tiktok.com/@kawamoto_saiyo @kawamoto_saiyo シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


