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家族や恋人、職場などの人間関係で、「いや」と言えなかったり、相手に合わせすぎたりして疲れ果ててしまう。それは、自分と他者のこころと身体を隔てる境界線「自他境界」があいまいだからかもしれません。

臨床心理士・公認心理士の若山和樹氏は、こうした境界線には「迎合タイプ」や「支配タイプ」などさまざまなタイプがあると言い、なかでも特に望ましい境界線のことを「バウンダリー」と呼びます。それは、自分と他者の領域を区別しつつ、健全な人間関係を築くことができるようになる境界線です。

自他境界の問題はありとあらゆる対人関係に支障をきたします。友人間は、家族やパートナーと比べて境界線が安定しやすい関係ですが、そこで境界線の問題が生じる場合は、それぞれの境界線の特徴が表面化することになると、若山氏は言います。

この記事では、自他境界に問題のある人が友人関係で抱えやすいトラブルのパターンを、『振り回されるのはやめるって決めた 「わたし」を生きるための自他境界』(若山和樹、ディスカヴァー・トゥエンティワン)から再編集してお届けします。

振り回されるのはやめるって決めた 「わたし」を生きるための自他境界
若山和樹
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2025-07-25


■対等でない友情
よい友情とは、お互いが平等で、双方にとってメリットがある関係です。しかし、境界線に問題がある状態でつくられる友情は、そうではありません。その友情には上下関係があり、どちらか一方がプライドや自己顕示欲を満たすなどの得をして、そしてもう片方がそのために利用されるという損をしてしまうのです。

こうした対等ではない友情は、典型的には支配や無反応タイプ(相手の「いや」を受け入れられず、境界線の侵害をしてしまう、あるいは相手の「ほしい」を受け入れられず、それを与えられないタイプ)と、迎合の境界線のパターン(自分の境界線の侵害に対して「いや」と言えないタイプ)の持ち主との間でつくられます。具体例としては、次のようなものが挙げられます。

・友人に人前でマウントをとられたり、恥をかくような対応をされたりする
・一方的に愚痴の聞き手にされたり、世話をさせられたりする
・どちらか片方が多く金銭的な負担をさせられる

また、近すぎる距離間の友人関係も、実際は対等な関係ではないことがあります。友人関係でも相手に自分とぴったりと重なるニコイチ関係を要求し、結果的に支配しようとすることはしばしば見られます。

これらは明確に境界線の侵害ですが、それは「友達なんだから」という言葉によって正当化され、押し付けられることになります。しかし、友達だからすべてが許される、ということはありません。友情には時折、競争心や悪意まで入り込むのです。これは「friend」(友)と「enemy」(敵)を組み合わせてフレネミー(frenemy)と呼ばれる関係です。

こうした相手ともライバル関係で競い合うことができればいいのですが、操作的な支配タイプのような自他の境界線の持ち主は、真正面から戦おうとしません。自分より立場が弱い相手や迎合タイプの人をターゲットにするのです。そのため、気づかないうちにからめとられてしまい、力を奪われるような関係がしばしば成り立ってしまうのです。

現代ではSNSの発達により、こうした友人との権力関係はさらに複雑になっており、よりバウンダリーが求められるようになっているといえます。

■弱さを見せられない
相手に弱さを見せることができないことは、境界線に問題がある人が友情で感じる困難の代表例です。

友情に関する研究で知られる心理学者のマリサ・G・フランコは、その著作『FRIENDSHIP』(日経BP)において、自分の弱さを受け入れ、そしてそれを相手に伝えることは、友情を深めるためにとても大切なことであると述べています。

しかし、自分の弱さや当然の「ほしい」を悪いことや、恥ずかしいものだと思っていると、それを相手に上手にさらけ出すことができません。そうした話をすること自体を避けたり、あるいは話の内容としては弱さを表しているのに、大したことないように話す「ラッピングされたもろさ」でしか表現ができないのです。

これは、回避タイプ(自分のニーズを認められず「ほしい」を言えないタイプ)の自他の境界線の持ち主の典型的な対人関係のパターンであり、そのため回避タイプの人はなかなか友情を深めることができないのです。具体例としては、次のようなものが挙げられます。

・表面上は明るく誰とでも仲良くしているけれども、本音や悩みを語れない
・自分さえ我慢すればいいと思って不満をため込んでしまう
・友人からの頼みごとを断れない
・みんながやりたくないことがあると、空気を読んで「私がやろうか?」と引き受けてしまう

他にも、出会ってからはじめの数回は楽しむことができるのに、だんだんと友人と会うのに腰が重くなることもあります。

これは、最初は自分の弱さを隠して付き合えるけれど、だんだんと取り繕うことができなくなる恐怖から起こると考えられます。また、相手に弱さを見せられないことが続くと、自分のニーズや希望がだんだんとわからなくなります。

「あなたは何がしたいの?」と尋ねられると困ってしまうため、たとえば友人のSNSをチェックしておいて、相手の好みそうなお店をあたかも自分が行きたいかのように提案するなど、あらかじめさまざまな対策をとることすらあります。

これは回避タイプの人に多い傾向です。そこまでして友人には自分の本音を隠す一方で、家族にはなんでも話してしまうということもよく見られます。こうしたアンバランスさを解決するのが、バウンダリーです。

■人間関係のリセット
境界線の問題がある場合、友情の終わらせ方にも特徴が見られます。もっとも多いパターンとしては、ある日突然相手を「切る」という仕方で、話し合ったり別れを告げたりすることなく友情を終わらせることです。

SNSを中心に「人間関係のリセット」と呼ばれるこうした行動は、回避タイプの境界線の持ち主がとりやすいと考えられます。

そうした「リセット」をかける人間関係とは、たとえ相手がなんでも言い合える関係だと思っていたとしても、本人としては「弱さを見せられない」関係であったのです。いろいろなものを我慢して付き合っていたので、感情がいっぱいいっぱいになって、相手を切ってしまうのです。

人間関係のリセットは、迎合タイプや社交的な回避タイプの境界線の持ち主によく見られるパターンです。また、たびたび相手から切られてしまうことを経験している人は、支配タイプの境界線で友人と付き合っているかもしれません。

特定の相手との連絡手段をすべて切ってしまうこと以外にも、進学や就職などによって環境が変わるとそれ以前の人間関係をすべて終わらせてしまうことも、同じパターンに含まれます。

自分から連絡を全くとらないばかりか、相手から連絡がきても無視をしてしまうのです。これは、人間関係を「喜びをもたらすもの」よりも「面倒なもの」であると考えているためであり、相手が目の前からいなくなると、もはやちょっとしたコストを払ってまでつながる必要がないと思ってしまうためです。

友情には、私たちに大きな力をもたらしてくれる可能性があります。しかし、境界線の問題があると、相手に合わせたり支配することにエネルギーを使いすぎてしまいます。そうなると、もはやそこには友情を建設的な方向に使う力が残されていません。バウンダリーによってそれらが調整されないと、「一人のほうが楽」と友人を遠ざけてしまうのです。

■影響の受けやすさ
境界線に問題を抱えていると、友人の言動や価値観との距離感に悩んでしまうことがあります。

友人が自分とは異なる意見や考えを持っていたとき「まあ他人だから仕方ない」とうまく線引きすることができず、強い不安や怒りが生じてしまうのです。こうした影響の受けやすさは、自他の境界線があいまいなことによって起こります。具体例としては、次のようなものが挙げられます。

・友人に言われたことをいつまでも気にしてしまったり、深く落ち込んでしまう
・友人がSNSに投稿した内容が、自分のことを指しているのではないかと不安になる
・一緒に遊びに行っても、そのことをSNSで投稿されないと気にしてしまう

こうしたことは、ある程度は誰しも起こりますが、境界線の問題があるとあまりにもその反応が大きくなってしまうのです。

さらには、友人のみならず、知らない人のネットの書き込みやニュースの反応まで気になってしまい、そのことについて思い悩んでしまうこともあります。自分が他の人とずれてしまっているのではないか、変なのではないかと心配になってしまうのです。

これには個人の境界線の特性も影響すると考えられますが、現代社会そのものが、外側から私たちにいろいろなものを押し付け、入り込もうとしているものにあふれていることも問題だといえます。

私たちは、交際相手の有無、学歴やキャリア、容姿や体重など、さまざまな外的なものさしによって、自分自身を測り、評価するように強いられています。本来、それらは私たちの外側にあるものであり、自分と同一視する必要はありません。しかし、メディアやSNSの影響で、外的なものさしで測れるものだけが自分の価値だと思い込まされてしまうのです。

そして、こうしたものを手に入れようと、たとえば美容整形やダイエット用品、さまざまなセミナーや資格ビジネスなどに、時に多額の出費をしてしまうことにもつながるのです。

とりわけ境界線に問題を抱えている人は「カモ」にされ、大金を払わされたり、不必要な負担を背負わされたりすることがあります。バウンダリーは、そうした被害から自分を守るものでもあります。


若山和樹 臨床心理士・公認心理師


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■プロフィール 若山和樹 臨床心理士・公認心理師
日本福祉大学非常勤講師。国際基督教大学博士前期課程修了(アーツ・サイエンス研究科比較文化)、愛知学院大学大学院博士前期課程修了(心身科学研究科心理学)。
医療機関でカウンセリングや心理検査などを行うほか、大学・専門学校での講師も務める。2020年からはカウンセリングルーム9Bにも所属し、対面・オンラインでのカウンセリングを実施。主な専門は、トラウマ関連疾患や解離性障害、発達障害の心理療法など。著書に『子どものトラウマ治療』(分担執筆:診断と治療社)、『トラウマと解離の文脈』(共訳:金剛出版)などがある。

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