![]() 臨床心理士・公認心理士の若山和樹氏は、こうした境界線には「迎合タイプ」や「支配タイプ」などさまざまなタイプがあると言い、なかでも特に望ましい境界線のことを「バウンダリー」と呼びます。それは、自分と他者の領域を区別しつつ、健全な人間関係を築くことができるようになる境界線です。 自他境界の問題はありとあらゆる対人関係に支障をきたしますが、なかでも心理的にも物理的にも距離が近い家族間においては問題が起こりやすく、しばしば簡単に解決しないものとなってしまうと、若山氏は言います。 この記事では、自他境界に問題のある人が家族関係で抱えやすいトラブルのパターンを、『振り回されるのはやめるって決めた 「わたし」を生きるための自他境界』(若山和樹、ディスカヴァー・トゥエンティワン)から再編集してお届けします。 ■過干渉 家族からの期待や心配は、自然なものです。ただし、「家族だからなんでも心配して当然。それが親心なのだ」といって、ありとあらゆることに干渉されてしまうのであれば、それは境界線の侵害となります。こうした過干渉は、典型的には支配タイプ(相手の「いや」を受け入れられず、境界線の侵害をしてしまうタイプ)や無反応タイプ(相手の「ほしい」を受け入れられず、それを与えられないタイプ)の親と、迎合タイプ(自分の境界線の侵害に対して「いや」と言えないタイプ)や回避タイプ(自分のニーズを認められず「ほしい」を言えないタイプ)の子どもの間で見られます。 過干渉の具体例としては、次のようなものが挙げられます。 ・子どもの進学先や就職先を親が決定する ・友達や恋人選びに親が口を出す ・親の好みや特定の価値観を子どもに押し付ける これらは、説得や説教、アドバイスとして行われます。つまり過干渉は、好意からなされるのです。しかしいくら好意からだとしても、境界線を侵害していいということはありません。 もちろん侵害があっても反抗できればいいのですが、幼少期から過干渉が繰り返されていると「どうせ逆らっても無駄」とあきらめてしまうのです。 こうした過干渉が生じる背景には、自他の境界線があいまいとなり、相手と自分を同一化してしまうことがあります。 バウンダリーを設定することで、家族といっても他人であり、自分とは別のこころの持ち主であることを理解して接する必要があるのですが、しばしば私たちはそのことを忘れてしまうのです。 ■秘密のない家族 時折、家族同士で秘密はない、なんでも話してしまうという人がいます。家族仲がよいことはもちろん悪いことではないのですが、それが仲良しというよりも隠しごとができないという場合、背景に家族間での境界線の問題が存在していることがあります。 秘密を持つことは、自分のこころのなかに、他から侵入されない場所をつくることです。秘密があることは(少なくとも部分的には)他者から独立しているということになります。 そのため、誰かを完全に支配したいと望む人は、相手が秘密を持つことを極度に嫌がり、それを暴こうとするのです。家族間では、しばしば支配タイプや無反応タイプの親が子どもに対してその秘密を暴こうとします。 具体例としては、次のようなものが挙げられます。 ・「家族なんだから隠しごとはナシ」と、なんでも話すようプレッシャーをかける ・勝手に部屋に入って、ものを漁る ・スマートフォンやSNSを勝手にチェックする また、反対に知らせるべきでない事柄を話してしまうことも、ここに含まれます。 ・両親の不仲の理由を詳細に子どもに聞かせる ・家庭の経済状況について不必要に不安を煽る ・ひとり親の家庭で自分の恋人との性的関係を子どもにあけすけに話す 境界線の問題があると、こうしたことに「いや」と言うことができない、または、違和感があったとしても抵抗することができずに受け入れてしまうようになるのです。 秘密のない関係もまた、自他の境界線があいまいなために起こります。ある考えが自分自身のものか、それとも相手のものかはっきり区別がつかない関係では、秘密を持ったり、あるいは相手の秘密を尊重したりすることはできません。 自分の秘密を持つこと、そして相手の秘密を尊重することは、バウンダリー設定の第一歩となります。恋人や夫婦、友人間でも秘密の持てない関係は生じますが、これはしばしばDVや虐待、モラハラなど危険な関係に発展する最初のサインになります。 ■金銭的な依存と支配 経済的な自立と精神的な自立との間には、密接なつながりがあります。そのため、自他の境界線の問題は、金銭面での問題としても頻繁に表れることになります。 お金は人を助ける手段にもなる一方で、時に人間関係を支配したり、人を依存させたりするために、その人自身が成長する機会を奪ってしまうこともあるのです。 これは単純なお金の受け渡しから、借金やその肩代わり、他にも車や家などの所有物を勝手に使うことなどが含まれます。具体例としては、次のようなものが挙げられます。 ・子どもが成人しても親に銀行口座を管理されている ・家計のすべてを親に報告し、許可がないとお金を使えない ・自分で稼ぐ以上のレベルの生活を(本人が望まなくとも)親が援助することで成り立たせている ・無理やりお金を子どものパートナーや孫に渡すことで、子どもの家族に影響力を持とうとする ・お金を勝手に使われてしまう ・「育て方のせいでこうなった」などと理由をつけ、子どもが親に金銭を要求する 現在、私たちはお金が大きな力を持つ社会で生きています。ほとんどの活動がお金を媒介として行われるだけではなく、自分の価値や人生の意味などもお金に換算して語られることすらあります。こうした社会で生じる自他境界の問題が、お金の問題として表出されるのは当然なのかもしれません。 家族問題のエキスパートである臨床心理士の信田さよ子は、著書『家族のゆくえは金しだい』(春秋社)のなかで、金銭面での問題が家族の複雑な問題の中心にあると考え、そこからアプローチしていくという戦略を提案しています。家族内での金銭のルールを明確にすることは、そのままバウンダリーの設定に関わることであるといえます。 家族以外の人間関係においても、理由をつけて金銭や高価な物品を要求をしたり、あるいは反対に渡そうとするのは、支配タイプの人による典型的な行動パターンです。毅然と断ることができればいいのですが、支配タイプは巧みに迎合タイプをターゲットにします。そのため、しばしば一方的に搾取されるような、危険な対人関係が成り立ってしまうのです。 ■三角関係 ある2人の間で問題が生じたとき、それを当人同士で直接解決しようとせずに、どちらかが自分の味方になってもらおうと第三者を引っぱり込むことがあります。これは三角関係と呼ばれ、ヘンリー・クラウドとジョン・タウンゼントは『境界線』(地引網出版)のなかで典型的な自他の境界線の問題として取り上げています。 三角関係は、パートナー間や友人間でもよく起こりますが、家族の自他の境界線の問題としても頻繁に生じることになります。その典型的なものが、妻や夫に対して迎合タイプや回避タイプの境界線を持つ大人が、迎合タイプの子どもを巻き込むという形です。具体例としては、次のようなものが挙げられます。 ・子どもが母親と父親それぞれから相手への文句や不満を聞かされる ・自分の両親(子どもから見て祖父母)との間の葛藤を子どもに話す ・きょうだいがそれぞれ別の両親を味方として引き込む 他にも、子どもの教育や習いごとに過度に熱心になることで、結果的に夫婦間の問題から目をそらすというように、間接的に子どもを巻き込む場合もあります。 バウンダリーは巻き込まれた人を守るだけでなく、当人たちに本当に取り組まなくてはならない問題に目を向けさせるものでもあります。 また別の形の三角関係の例としては、親が子どもの友人関係に対して否定的に評価して口を出すことや、テレビや雑誌で見た芸能人などの悪口を聞かせるといったものもあります。こうした他者への批判や悪口は、家族ではそう簡単に聞き流すことができません。 バウンダリーが設定できないと、しつこく繰り返されるうちにだんだんと影響され、自分の意見と入り混じってしまったり、それを聞かされるたびにイライラしたり、疲れたりしてしまうことがあります。 若山和樹 臨床心理士・公認心理師 【関連記事】 ■なぜ、急に人間関係をリセットしたくなる?その心理的メカニズムとは (臨床心理士 若山和樹) https://sharescafe.net/63042144-20260228.html ■NISA非課税枠拡大の裏に潜む「教育費の時限爆弾」。親が知るべき「評価損のまま売る」を避けるための出口戦略 (藤村哲也 投資助言代理業) https://sharescafe.net/62975699-20260201.html ■資格起業家で成功するシンプルな秘訣は働いて、働いて、働いて、働いて、働くこと。 (横須賀輝尚 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/63019095-20260218.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 若山和樹 臨床心理士・公認心理師 日本福祉大学非常勤講師。国際基督教大学博士前期課程修了(アーツ・サイエンス研究科比較文化)、愛知学院大学大学院博士前期課程修了(心身科学研究科心理学)。 医療機関でカウンセリングや心理検査などを行うほか、大学・専門学校での講師も務める。2020年からはカウンセリングルーム9Bにも所属し、対面・オンラインでのカウンセリングを実施。主な専門は、トラウマ関連疾患や解離性障害、発達障害の心理療法など。著書に『子どものトラウマ治療』(分担執筆:診断と治療社)、『トラウマと解離の文脈』(共訳:金剛出版)などがある。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


