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先日、Xで「夜職」で働く人のしんどさについて綴られたポストを目にしました。「夜職」とは、キャバクラやラウンジ、ガールズバーなど、夜の時間帯にお酒を提供しながら接客をする仕事を指します。

そのポストでは、相手の話を盛り上げ、笑って、共感して、気を配ることを、仕事中は仕事として割り切れるものの、プライベートになった途端「自分を無料コンテンツとして消費されているように感じる」という戸惑いと疲れが語られていました。

また、「相手を気分よくさせる技術」が公私ともに当たり前のように求められ、気づけば自分の気持ちより相手の機嫌ばかり優先してしまうという嘆きも印象的でした。

こうした「自分の心が削れていく」感覚は、決して夜の世界に限った話ではありません。 看護、介護、接客、教育、そして私が専門とするカウンセリングや士業など、昼間のあらゆる仕事において、自分の感情を資源として使うすべての人に共通する、構造的な問題です。

ある実態調査でも、働く人の9割以上が日常的に感情労働に従事しており、その約9割が勤務時間外にも仕事上の不安や懸念を思い出す、感情の持ち帰り現象を経験している実態が明らかになっています。(参考:「持ち帰り感情ストレス」に関する実態調査 ジュノー株式会社 2025/04/24)

そのような感情労働に従事する人たちが、自分の心をすり減らさずに続けていくにはどうしたらよいのか? 産業カウンセラー・社会保険労務士として働く人のメンタルヘルスについて研修等を行う立場から、また同じように感情労働の面があるカウンセラーとしての筆者の体験も含めて考えてみたいと思います。

■「夜職」は疑似恋愛を売る仕事
夜職は、笑顔や会話、共感や気遣いといった感情サービスそのものが商品になる仕事です。 さらに、美しい容姿や装いを整えることで、ソフトな性的コンテンツとして扱われてしまう側面もあります。

夜職は疑似恋愛を提供する仕事でもあります。 恋愛という、人格の根っこにかかわる体験を擬似的に提供するのですから、自分の本心は別のところに置いたまま行動することが本質的な作業になります。 相手を特別扱いし、好意があるかのように振る舞い続けることは、非常に大きな心理的負担をともなう感情労働です。

日本社会全体には、若くて見栄えのする女性は、場を華やかにし、男性を楽しませる存在であってよい、という空気が根強くあります。

夜の仕事はその期待をビジネスとして利用していますが、そのぶん、女性はみな男性を接待するものという無意識の役割期待を背負いやすくもなります。 仕事でその役割を演じていると、プライベートでも同じように振る舞ってしまい、どこまでが仕事で、どこからが素の自分なのかが分からなくなってしまう危険があるのです。

■感情労働で消耗しやすいパターン
夜職に限らず、接客、看護、介護、保育、教育、コールセンター、相談窓口など、感情労働に従事している人には共通のしんどさがあります。

よく見られるパターンを挙げます。

・本当は疲れていて笑いたくないのに、笑顔を作り続けなければならない。
・怒りや違和感を覚えても、「お客様だから」と飲み込んでしまう。
・相手の話を受け止める役割を担い続けるうちに、自分の感情を感じる余裕がなくなってくる。
・プライベートでもつい聞き役をやってしまうため、休む場所がなくなる。

これらが重なると、「私はただ、誰かの感情を処理する装置でしかないのではないか」という虚しさや、自分の人生を生きていないような感覚が強くなります。

■私自身の体験:カウンセラーとしての感情労働
一方で、私は社会保険労務士であると同時に、カウンセラーとしても人の話を聞く仕事を長く続けてきました。 プライベートでも聞き役になってしまうことは少なくありませんが、私自身は自分の職業的能力をタダで搾取されているとまでは感じていません。

なぜだろうと振り返ると、いくつか違いが見えてきます。

第一に、私にとって、話を聞き、状況を整理し、言葉にして返すことは、職業スキルであると同時に、自分の性格や価値観と重なっています。 やらされているというより、そうしていると自分らしくいられる感覚が強く、相手が整理できたと感じてくれると私自身も満たされます。

第二に、カウンセリングという枠組みが、境界線をはっきりさせてくれています。 仕事として引き受けるときは、有料・予約制・時間枠が明確で、ここまでは専門職としての私という線が引かれています。 プライベートでの相談が明らかに仕事レベルになってきたときには、「この先は正式な相談としてお受けしますね」と切り替えることもできます。

第三に、プライベートで聞き役になるときでも、私は意識的に完全な仕事モードには入りません。 相手を観察・分析しすぎないようにし、自分の話もします。 こうした違いから、私の場合は自分で範囲を決めて使っている感じがあり、夜職の方が語る「無料コンテンツとして消費されている」という感覚にはなりにくいのだと思います。

■自分を守るための境界線——夜職にも、他の仕事にも
では感情労働に携わる私たちは、どうすれば自分を守れるのでしょうか。 カウンセラーとしての経験を重ねながら、いくつかのヒントを挙げます。

1. 「これは感情労働だ」と意識してラベルを貼る
まず大切なのは、「いま自分は感情を仕事に使っている」という自覚を持つことです。 身体を使う仕事の後に「今日は腰が痛いな」と思うように、「今日は感情を酷使したな」と言葉にできると、休む根拠が生まれます。 どの場面で一番演技していたか、本音とのギャップはどれくらいだったかを振り返るだけでも、少し楽になります。

2. 無料で差し出す範囲を、自分で決める
プライベートで「タダで延々と話を聞いてほしい」と期待されることがあります。 こうした場面では、「ここまでは好意でやるけれど、ここから先は仕事(あるいはお断り)」という自分なりの基準を決めておくことが大切です。 LINEでの長時間の愚痴聞きはしない、無料で応じるときも時間を区切る、といった自分ルールを持つだけでも、消耗はかなり違ってきます。

3. 本音と演技のギャップを広げすぎない
感情労働が必要な場面でも、本心とまったく逆のことをし続ける状態が長く続くと、心が持ちません。 そこで、「ギャップはせいぜい2〜3割まで」と目安を決めてみることを勧めています。「好き」とは言えなくても「人として尊重はする」など、自分がギリギリ許容できるラインを探してみてください。

4. 聞き役を降りる練習をする
感情労働をしている人は、どこでも聞き上手を期待されがちですが、常にその役割を引き受けていると弱音を吐ける場所がなくなります。 意識的に今日は聞き役をお休みする日をつくりましょう。返信をあえてゆっくりにしたり、「今日は余裕がないから改めて聞かせて」と正直に伝えるなど、境界線を示すことは自分を守るために欠かせないスキルです。

5. 同じ立場の仲間とつながる
感情労働のつらさは、経験した人でないとなかなか伝わりにくいものです。 同業者同士で話し合える場や、外部の相談窓口を活用してください。悩んでいるのは自分だけではないと知ることは、自己否定から抜け出す大きな助けになります。

■感情労働を当たり前に尊重されるものに
日本社会は、若くて美しい女性を場を明るくしてくれる存在として消費してもよい、という前提で回っている場面がまだまだ多くあります。

けれど、少し形を変えれば、私たちの社会のあちこちで同じような構図が見えます。 家庭で家族の感情を引き受ける人、職場でクッション役を担わされる人——それらはすべて、感情労働の担い手です。

感情労働をしている人が、自分の感情を粗末に扱わず、無料で差し出す範囲を自分で決め、しんどいときには「ノー」と言える。 そんな当たり前のことが自然にできる社会になってほしいと願っています。 感情をつかって誰かを支えているすべての人に、「あなたのしていることは、決して当たり前ではなく、尊重されるべき仕事なのだ」と伝えたいと思います。


李怜香 社会保険労務士・産業カウンセラー・ハラスメント防止コンサルタント


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■プロフィール 李怜香 社会保険労務士・産業カウンセラー・ハラスメント防止コンサルタント
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早稲田大学卒業。1999年、宇都宮市にて李社会保険労務士事務所(現 メンタルサポートろうむ)を開業。2011年、産業カウンセラー登録。2012年、ハラスメント防止コンサルタント認定、(公財)21世紀職業財団ハラスメント防止研修客員講師に就任。2019年、健康経営エキスパートアドバイザー認定(第1期)。
官公庁から大手企業、教育機関まで幅広い分野で研修実績があるハラスメント対策のエキスパート。ハラスメント外部相談窓口の相談対応や、事案解決支援の経験を活かした実践的な指導には定評があり研修受講者からの満足度は90%以上。
法的知識とカウンセリングスキルを組み合わせた独自のアプローチにより職場のメンタルヘルスやハラスメント防止の分野で企業をサポートしている。岐阜県生まれ。

公式サイト https://yhlee.org/wp/
X: https://x.com/mental_sp_roumu @mental_sp_roumu
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCGilZsldcxBgu5k5vzqWptw

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