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■45年目で「松田 聖子」商標登録。なぜ今なのか?
2026年1月27日、歌手の松田聖子さんが芸名「松田 聖子」と「Seiko Matsuda」の商標登録の手続きを完了させました(商標登録7009797号、7009798号)。1980年のデビューから45年。年末のNHK紅白歌合戦で大トリを飾ったあの松田聖子さんです。

「今まで芸名を商標登録していなかったの?」と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。聖子さんほどの人気歌手なら、デビューした時に商標登録をしていてもおかしくありませんから。

デビューから45年を過ぎた今になってなぜ、聖子さんがご自分の芸名を商標登録しようと思ったのでしょうか? この記事では、聖子さんが「今、商標登録しなければいけなかった理由」について、商標登録を専門とする弁理士の立場から考察します。

■「松田 聖子」の商標登録は「転ばぬ先の杖」「究極の守り」
聖子さんは今回の商標登録で、ご自身の芸名を誰にも文句を言われずに自由に使える権利(攻めの権利)と、他の人に勝手に使われない権利(守りの権利)の両方を手に入れました。

今回の商標登録は、「転ばぬ先の杖」「究極の守り」という意味合いが大きいです。聖子さんの芸名には、長年の芸能活動によって築き上げた財産的価値があります。これを他の人に勝手に使われてしまうと、聖子さんは大きな損害を被ることになるからです。

例えば、見ず知らずの人が聖子さんの許可なく、「松田聖子」の名前をつけて聖子グッズの販売をする。聖子さんのサービスを装って楽曲配信を行う。そんなことをされたら、どうなりますか?

そういう「バッタもん(非正規品)」を正規品の「聖子グッズ」、「聖子サービス」と間違えて、購入してしまう人が続出するおそれがあります。

これを認めてしまうと、聖子さんは本来、正規品の販売で得られるはずだった利益を失います。また、「バッタもん」が品質の悪い粗悪品だった場合、その悪い評判やクレームが誤って聖子さん自身に降り掛かってくる可能性もあります。

商標登録の力で「バッタもん」を追い出すことで、聖子さんの信用や聖子ブランドの財産的価値が守られるわけです。

■芸名はトラブルの宝庫。公正取引委員会も動き出した
芸名のトラブルで思い出すのは、「のん」さん。以前は「能年玲奈」という芸名で活動していました(「能年玲奈」は彼女の本名でもあります)。しかし、所属事務所を退所した後に、芸名を「のん」に改名しました。

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)には「能年玲奈」が商標登録されていたという記録は見つかりませんでした。事務所との間で、芸名の使用に関する契約が交わされていたと言われています。

事務所の振る舞いは一見、横暴にも見えます。ただ、事務所もタレントの育成、売り出しには莫大な投資をしています。投資分くらいは回収させてくれ。何年かに一度の人気タレントが生まれたのだから稼がせてくれ。芸能を「ビジネス」と考えれば、事務所の気持ちもわからなくはないです。

ただ、タレントを事務所に囲い込むために、芸名に関する権利が「人質」にされてきたという批判は免れません。いわゆる「奴隷契約」です。芸名を一旦、事務所に預けてしまえば、取り上げられてしまうリスクがあるということです。

こういう芸名のトラブルはのんさん以外でも頻発しています。

このようなトラブルを防止するために、2025年9月30日、公正取引委員会は17の行動指針をまとめました。
(参照:実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針 |令和7年9月30日 内閣官房 公正取引委員会)

この指針の中でも、「芸能事務所は、合理的な理由が無い限り、退所後の芸名等の使用の制限を行わない」という一文があります。タレントの芸名は事務所のものではないことを示したわけです。

45年かけて築いた「松田聖子」ブランドを事務所に委ねず、自分で守る。今回の商標登録が事務所名義ではなく、聖子さんの名義(本名:河奈法子さん)であることはその意思を示したものです。

■「松田 聖子」はただの芸名ではない。巨大ビジネスのシンボルだ
「松田 聖子」という名前は、もはや一人の歌手の芸名という範疇を飛び越えて、莫大な利益を生み出す「超優良ブランド」になっています。

2025年6月に行われた45周年記念のコンサートツアーでは、日本武道館での公演回数「130回」という女性アーティストとして歴代1位の記録を達成し、「〜45th Anniversary 究極オールタイムベスト〜」は、オリコンのデイリーアルバムランキングで堂々の1位を獲得。
(参照:松田聖子 45周年記念コンサートで日本武道館公演130回目を記録!女性アーティストで歴代1位! USENの音楽情報サイト encore 2025/06/24)

デビューから45年を過ぎた今でも、巨大会場を満員にする集客力、CDを出せば難なくランキング1位を獲得できるセールス力は未だ健在です。

聖子マニア向けの高額商品の存在も見逃せません。例えば、2024年の年末にホテルニューオータニ(東京)で開催されたディナーショー。チケットの基本料金が1名52,000円。「宿泊付チケット」は1名100,000円から。これが「10組限定良席確約 宿泊付チケット」となると、1室2名(チケット2枚)で、243,000円から298,000円!
(参照:ホテル開業60周年記念!ホテルニューオータニ(東京)で松田聖子ディナーショーを開催。 ホテルニューオータニHP 2024/10/16)

こんな高額チケットが先行予約で即完売。「聖子のためなら30万出しても惜しくない!」という熱狂的なファン(顧客)が今なお大勢いるわけです。

「松田 聖子」という名前はこれらの超巨大ビジネスの源泉であり、「松田聖子経済圏」を支える屋台骨です。商標登録をして、法律的にしっかり守っていきたいという気持ちは痛いほどわかります。

■なぜこのタイミングで「松田 聖子」を商標登録したのか?
では、なぜこのタイミングで「松田 聖子」を商標登録したのでしょうか? 一言で言うと、デビュー45周年のイベントに向けて、聖子ブランドの保護を万全にするためです。

聖子さんがご自分の芸名について商標登録をしたのは今回が初めてではありません。

芸名の商標に限れば、2003年5月に文字商標「SEIKO MATSUDA」を登録しています(商標登録4677171号)。さらに2003年7月と2012年8月に「SEIKO MATSUDA」の文字と天使の図形を組み合わせた図形商標を登録しています(商標登録4694567号、5516914号)。
(参照:特許情報プラットフォーム)
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(引用:商標登録5516914号|特許情報プラットフォーム)

しかし、「SEIKO MATSUDA」の文字商標と、2003年7月に登録した図形商標は既に登録が抹消されています。

商標登録は登録料を支払って更新手続きをすれば何度でも更新することができます。しかし、更新手続きはされておらず、商標登録が抹消されたのです。

2012年8月に登録した図形商標は今も登録が残っています。でも、この商標登録だけでは聖子さんの巨大ビジネスを守るには不十分。権利の範囲が狭すぎます。

図形商標は「SEIKO MATSUDA」の文字だけでなく、天使の図形と組み合わせたもの全体が権利です。「SEIKO MATSUDA」の文字だけの権利ではありません。使用することができる商品も「被服用アクセサリー」などに限定されています。聖子さんのビジネス全体をカバーするには不十分な権利だったのです。

今回商標登録された「松田 聖子」と「Seiko Matsuda」の文字商標は昨年2025年の2月27日に出願されています。

ベストアルバムの発売とコンサートツアーの開始を2025年6月を控え、聖子ブランドの法的な保護を万全にするための商標登録です。

この2つの商標登録は、図形のない文字だけの商標、そして、商標を使用することができる商品やサービスとして、「アクセサリー」だけでなく、「洋服」、「ファンクラブの運営」、「ステージショーの上演」などが指定されています。

聖子さんのビジネスをカバーする広い範囲で権利が押さえられています。聖子ブランドの保護が拡張されているわけです。

デビュー45周年を過ぎたばかりの聖子さん。来る50周年に向けて商標の準備も整いました。まだまだ稼ぎ続けるに違いありません。

■「ファンがSNSで『松田 聖子』と書いたらダメなの?」という誤解について
「松田 聖子」が商標登録されたという話をすると、必ず出てきそうなのが、「ファンがSNSで『松田 聖子』と書いたらダメなの?」とか、「全国の『松田 聖子』さんが自分の名前を使えなくなって困るじゃないか!」という誤解です。

商標権はブランド名である「松田 聖子」を、予め指定した商品やサービスについて、聖子さん本人が使うこと、他の誰かに勝手に使わせないようにすること、をできるようにする権利です。

「松田 聖子」という名前を使うことを一律に禁止する権利ではありません。聖子さんの商売・ビジネスを邪魔するような行為だけが規制されます。

ファンがSNSで『松田 聖子』と書いたり、全国の『松田 聖子』さんが自分の名前を使っても、聖子さんのビジネスを邪魔することにはなりませんよね?

そういう使い方には聖子さんの商標権の効力は及びませんから、安心して使ってもらって大丈夫です。

■「自分のブランドは自分で守る」は、情報社会を生きる私たちへのメッセージ
聖子さんは今回の商標登録で「自分のブランドは自分で守る」という明確な意思を示しました。

歌手として第一線で活躍し続けてきて、45周年を迎えた聖子さん。彼女は自分の名前がただの芸名ではなく、莫大な「財産」であることを誰よりわかっています。

これは芸能人だけの話ではありません。今は個人がSNSやYouTubeで情報を発信し、それがビジネスにつながっていく時代です。フォロワーが増え、認知度が上がれば、あなたのアカウント名やハンドルネームにも、「ブランド価値」が生まれてきます。

そのブランドを誰かに勝手に使われたら、逆にあなたが誰かのブランドを侵害してしまったら……。そんなトラブルも決して他人事ではないんです。

「自分のブランドは自分で守る」。松田聖子さんの行動は、情報社会を生きる私たちへのメッセージなのかもしれません。


山田龍也 弁理士・クロスリンク特許事務所代表


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■プロフィール 山田龍也 弁理士。クロスリンク特許事務所代表
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「名前を変える。未来が変わる」を標榜する、ネーミングと商標登録の専門家「ネームチェンジャー®」。
日本弁理士会関東会 中小企業・スタートアップ支援委員会委員、近畿経済産業局 知財セミナー・ワークショップ開催事業支援者。
美容業界誌『美容の経営プラン』(ヘアモード社)で「守りと攻めのネーミング」を連載。
日本弁理士会関東会、近畿経済産業局、東京インターナショナル・ギフト・ショーなど、ネーミングと商標登録に関するセミナー登壇多数。

公式サイト https://xlinkpat.jp/profile
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