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「おひとりさまの老後」という言葉を聞くと、多くの人は独身女性を思い浮かべるかもしれません。しかし制度の上では、「おひとりさま」の意味はそれほど単純ではありません。

未婚、離婚、死別、事実婚。同じ「一人」に見えても、制度上の立場は異なります。

特に、年金、相続、医療の同意、身元保証などの場面では、どの立場にあるかによって扱いが変わることがあります。いざというとき自分は制度上どういう扱いになるのか、あらかじめ知っておくことが重要です。

この記事では、ファイナンシャルプランナーで介護士の視点から、いわゆる「おひとりさま」の老後にまつわる制度において、法律上の立場によって扱いがどう変わるかについて考えてみたいと思います。

■未婚・離婚・死別・事実婚の違い
まずは、未婚・離婚・死別・事実婚という4つの立場の違いを整理してみます。

・未婚
法律上の配偶者がいない状態。配偶者に関する制度は基本的に適用されません。

・離婚
過去に婚姻関係があったものの、現在は法律上の配偶者がいない状態です。離婚時の制度(年金分割など)はありますが、その後は単身として扱われます。

・死別
配偶者が亡くなったケースです。条件を満たせば遺族年金などの制度が適用される可能性があります。

・事実婚
生活の実態として夫婦関係にあっても、法律上の婚姻関係がない状態です。制度によって扱いが異なり、配偶者と認められる場合と認められない場合があります。

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■年金制度で見る違い
制度の違いが分かりやすく現れるのが年金です。死別の場合、一定の条件を満たせば遺族年金を受け取れる可能性があります。一方、未婚の場合はこの制度は基本的にありません。

事実婚の場合は、実態が認められれば遺族年金の対象になることもありますが、すべての制度で同じように扱われるわけではありません。

同じように一人で生活しているように見えても、制度上の立場によって受けられる制度が異なることが分かります。また、対象者は女性だけとは限りません。

■医療・身元保証の場面で起こること
入院や施設入所の際、「保証人はいますか」と確認される場面があります。介護の現場でも、こうした確認が行われることは珍しくありません。

しかし現実には、
・親族が遠方に住んでいる
・親族も高齢で頼れない
・関係が疎遠で依頼しにくい
といった事情により、保証人の確保が難しいケースも少なくありません。
この問題は未婚の人だけでなく、離婚や死別、事実婚など、さまざまな立場の人に共通して起こり得ます。

近年は単身高齢者の入院や施設入所の場面で「保証人」をどうするのかという問題が社会的にも取り上げられるようになりました。頼れる親族がいない場合には、入院や施設入所の手続きそのものが進まないケースもあります。そのため、単身高齢者の増加を背景に、自治体や民間団体が身元保証を支援する仕組みを整える動きも出てきています。

しかし、こうした制度があること自体を知らないまま、突然必要な場面に直面する人も少なくありません。

■二人暮らしでも「おひとりさま」になる場合がある
特に注意が必要となるのが事実婚など法律婚でない二人暮らしの場合です。生活の実態は二人暮らしでも、制度では「おひとりさま」が二人(個人単位)として扱われる場面があります。

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たとえば、正式に婚姻関係にあった配偶者と死別した場合には、条件を満たせば遺族年金が支給されます。一方で、法律婚ではない関係で同居していた場合には、同じように長く支え合ってきた関係であっても同じ扱いにならないことがあります。


同居して生活を共にしていても、制度の上では「どの関係として位置づけられるのか」が問われます。事実婚の場合には、一定の条件で認められるケースもありますが、その判断はケースによって異なります。

制度は「どの関係にあるか」を前提に設計されており、同居しているという実態だけでは判断されないことがあります。

こうした違いは、年金や住まい、相続、医療の意思決定など、制度が関わる場面で現れます。 医療の意思決定など場面では、入院時の説明や手術の同意などで、家族への連絡や意思確認が求められることがあります。法律婚であれば配偶者が当然のように対応する場面でも、法律婚ではない関係の場合、どこまで認められるのかが問題になることがあります。

また住まいの場面でも似たような問題が生じることがあります。賃貸住宅の契約や更新の際、緊急連絡先や保証人が求められることは珍しくありません。二人で暮らしていても法律婚ではない場合、契約上の家族として扱われないことがあり、手続きが複雑になることもあり得ます。

■立場によって制度は変わる
未婚、離婚、死別、事実婚。それぞれの立場によって、年金や医療、保証人などの制度の扱いは異なります。自分がどの位置にいるのかを正しく理解しておくことが、将来の備えとして重要になります。

日常生活では同じように暮らしているように見えても、制度の上では「どの関係として扱われるのか」が重要になります。だからこそ、「おひとりさま」という言葉だけで状況をひとまとめにしてしまうと、本来必要な備えを見落としてしまう可能性があるのです。

■「自分はどの“おひとりさま”なのか」を知ることから始める
「おひとりさま」という言葉は、ひとりで暮らす人たちをひとまとめに表す言葉としてマスコミ媒体や記事等でよく使われます。しかし、その中身は決して一つではありません。

自らを「おひとりさま」だとの自覚はあっても、未婚なのか、離婚なのか、死別なのかで制度上の扱いは違ってきます。

逆に二人で同居していて自らを「おひとりさま」との自覚が無い場合、法律婚をしていないことで制度が関わる場面においては「おひとりさま」扱いになって慌てる場面もあるかもしれません。

それぞれの立場によって、利用できる制度や備え方は少しずつ変わります。

老後の準備というと、大きなお金の話や資産形成を思い浮かべる人も多いかもしれません。

さらに言えば、老後の問題はどうしても高齢期の話のように感じられがちです。しかし実際には、制度の前提を知っておくことで、40代・50代のうちからできる備えもあります。

重要なのは、「おひとりさま」という言葉のイメージだけで自分の状況を判断してしまわずに、自分が制度の上でどの立場に当てはまるのかを確認してみることです。それが、将来に備える第一歩になります。


大滝よう子 生活実務ライター・介護士・ファイナンシャルプランナー・元漫画家

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■プロフィール 大滝よう子 生活実務ライター・介護士・ファイナンシャル・プランナー・元漫画家
otaki
介護現場で高齢者支援に携わりながら、老後資金・住まい・生活設計など「暮らしに直結する実務テーマ」を専門に執筆する生活実務ライター。保険業界およびFP事務所での勤務経験を持つ元漫画家として商業連載歴があり、難しい制度やお金の話をわかりやすく伝える。
週刊漫画TIMES(芳文社)の巻末コラムにて『知って得する生活マネー講座』を1年間連載。銀行業界誌『バンクビジネス』(近代セールス社)にて中小企業診断士原作の経済解説漫画を連載。日本能率協会マネジメントセンター刊『マンガでやさしくわかる子育てコーチング』にて漫画ストーリーシナリオを執筆(いずれも桐嶋基名義)。そのほかFP専門誌・WEB媒体への寄稿経験あり。
漫画家としての制作経験を経て、現在は実務と並行して文章を中心に執筆、コンテンツ制作や情報発信にも取り組んでいる。株式会社ファインナビ代表。

公式サイト https://tally.so/r/Xx0M6j

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