![]() 注目したいのは、倒産した不正企業の約7割が、公表当日あるいはその直後に破綻しているという事実です。これは単なる資金不足による「衰弱死」というよりも、不正発覚に伴う「信用崩壊」が引き金になった、いわば「即死」に近い状態と見ることができます。 なぜ、目先のキャッシュを手に入れたはずの会社が、これほど急速に市場から退場させられるのでしょうか。この点を考えるうえで参考になるのが、幕末に備中松山藩の財政改革を担った山田方谷の「義利合一(ぎりごういつ)」という考え方です。ここではこの視点を手がかりに、現代経営における「信用」の意味を考えてみたいと思います。 ■信用は経営のインフラ 不正受給に至った背景には、資金繰りへの切迫感や、「他社もやっているのではないか」といった安易な同調意識があった可能性があります。そうした判断は、結果として経営判断そのものを大きく誤らせます。 しかし、この判断は経営の土台となる「経営OS」に致命的なバグを仕込む行為に他なりません。不正が公表されれば、金融機関が与信判断を厳格化し、取引先も未回収リスクを意識して条件を見直す可能性が高まります。社内でも動揺が広がり、人材流出につながるおそれがあります。 社長が守ろうとした「利(現金)」は、経営を支える「義(信用)」というインフラを破壊してまで得るには、あまりに小さなものでした。 ■信用を重視した山田方谷の改革 この「利」と「義」の冷徹な相関関係を考えるうえで参考になるのが、170年前に備中松山藩で財政改革を主導した山田方谷の事例です。当時の藩は現在の価値で約100億円もの借金を抱えた「債務超過」状態でした。藩政改革を任された方谷が行ったのは、目先の現金をかき集めることではなく、信用を失い紙クズ同然となっていた「藩札(紙幣)」を領民の目前で焼き払うという儀式でした。 方谷は、藩が発行する通貨の価値、すなわち「藩の信用」を命懸けで守る姿勢を視覚化したのです。こうした信用回復の姿勢は領民や商人との関係修復の一助となり、商取引は再び活性化し、結果としてわずか7年で100億円の借金を完済し、さらに100億円もの余剰金を蓄えるに至りました。 方谷は著書『理財論』の中で「義を明らかにして利を計らず」と説いています。これは単なる道徳論ではありません。「信用というインフラを整備すれば、利益は結果的に付いてくる」という、極めて合理的な経営戦略なのです。 ■「義」を貫くという生存戦略 現代の「倒産確率24.3倍」という数字は、不誠実な社長に対する市場からの最終通告といえます。一度壊れた「信用」というインフラを再構築するコストは、不正で得た現金の額を遥かに上回ります。 持続可能な会社を創るために、今、社長が書き換えるべきは、小手先のテクニック(アプリ)ではありません。至誠という「経営OS」そのものです。「義」を貫くことこそが、令和の激動期における最強の生存戦略であることを、歴史とデータが示唆しているのです。 長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント 【関連記事】 ■「一人暮らしの生活費平均は月14万円」を鵜呑みにすると詰むワケ~平均の罠~ (鈴木伸介 数学家) https://sharescafe.net/63112653-20260403.html ■がまんして壊れる日本の職場──ハラスメント相談から見える声を上げられない労働者 (李怜香 社会保険労務士) https://sharescafe.net/63097427-20260326.html ■ホルムズ海峡封鎖で「生活費と株価」のダブルパンチ ─ 日本の個人投資家が最も警戒すべき理由 (藤村哲也 投資助言業) https://sharescafe.net/63112621-20260402.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント ![]() 公式サイト http://evergreen-mgt.biz/ ブログ https://evergreen-mgt.biz/blog/ YouTube https://www.youtube.com/channel/UC-AGeWvbpXm6ruOzaWhAhkA シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


