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2026年1月、経営者にとって看過しにくいデータが公表されました。東京商工リサーチの調査によれば、新型コロナ対策の「雇用調整助成金」などの不正受給を公表された企業のうち、調査時点で倒産が確認された割合は6.82%に達しています。これは2025年の全企業平均の倒産発生率0.28%と比較して、実に「24.3倍」という驚異的な数値です(参考:雇調金不正受給企業の倒産、全企業の24倍超 東京商工リサーチ 2026/01/30)。

注目したいのは、倒産した不正企業の約7割が、公表当日あるいはその直後に破綻しているという事実です。これは単なる資金不足による「衰弱死」というよりも、不正発覚に伴う「信用崩壊」が引き金になった、いわば「即死」に近い状態と見ることができます。

なぜ、目先のキャッシュを手に入れたはずの会社が、これほど急速に市場から退場させられるのでしょうか。この点を考えるうえで参考になるのが、幕末に備中松山藩の財政改革を担った山田方谷の「義利合一(ぎりごういつ)」という考え方です。ここではこの視点を手がかりに、現代経営における「信用」の意味を考えてみたいと思います。

■信用は経営のインフラ
不正受給に至った背景には、資金繰りへの切迫感や、「他社もやっているのではないか」といった安易な同調意識があった可能性があります。そうした判断は、結果として経営判断そのものを大きく誤らせます。

しかし、この判断は経営の土台となる「経営OS」に致命的なバグを仕込む行為に他なりません。不正が公表されれば、金融機関が与信判断を厳格化し、取引先も未回収リスクを意識して条件を見直す可能性が高まります。社内でも動揺が広がり、人材流出につながるおそれがあります。

社長が守ろうとした「利(現金)」は、経営を支える「義(信用)」というインフラを破壊してまで得るには、あまりに小さなものでした。

■信用を重視した山田方谷の改革
この「利」と「義」の冷徹な相関関係を考えるうえで参考になるのが、170年前に備中松山藩で財政改革を主導した山田方谷の事例です。当時の藩は現在の価値で約100億円もの借金を抱えた「債務超過」状態でした。藩政改革を任された方谷が行ったのは、目先の現金をかき集めることではなく、信用を失い紙クズ同然となっていた「藩札(紙幣)」を領民の目前で焼き払うという儀式でした。

方谷は、藩が発行する通貨の価値、すなわち「藩の信用」を命懸けで守る姿勢を視覚化したのです。こうした信用回復の姿勢は領民や商人との関係修復の一助となり、商取引は再び活性化し、結果としてわずか7年で100億円の借金を完済し、さらに100億円もの余剰金を蓄えるに至りました。

方谷は著書『理財論』の中で「義を明らかにして利を計らず」と説いています。これは単なる道徳論ではありません。「信用というインフラを整備すれば、利益は結果的に付いてくる」という、極めて合理的な経営戦略なのです。

■「義」を貫くという生存戦略
現代の「倒産確率24.3倍」という数字は、不誠実な社長に対する市場からの最終通告といえます。一度壊れた「信用」というインフラを再構築するコストは、不正で得た現金の額を遥かに上回ります。

持続可能な会社を創るために、今、社長が書き換えるべきは、小手先のテクニック(アプリ)ではありません。至誠という「経営OS」そのものです。「義」を貫くことこそが、令和の激動期における最強の生存戦略であることを、歴史とデータが示唆しているのです。


長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント


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■プロフィール 長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント
nagase
経営コンサルタント・一倉定の思想と認知脳科学を融合した「収益満開経営」を提唱。融資支援の実務経験をもとに、30社以上の財務改善をサポートしてきた。「和魂洋才(日本の商人道と科学的経営の融合」を軸に、企業の長期繁栄には「義(経営哲学)」と「利(科学的手法)」の両立が不可欠であると説く。年商50億円突破を見据えた、再現性のある経営の仕組みづくりを支援している。

公式サイト http://evergreen-mgt.biz/
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