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■賃上げの恩恵は、全員に届いていない
2026年3月、厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査」によると、現金給与総額の平均は34万600円と過去最高を記録しました。男女間の賃金格差も過去最小となり、明るいニュースとして広く報じられています。春闘での大幅な賃上げ合意が相次ぎ、「日本経済はようやく本格的な回復軌道に乗った」と感じている方も多いでしょう。

しかし、この「平均」という数字を額面通りに受け取るのは禁物です。今回の賃上げの波は、主に大企業や一部の業種に集中しています。中小企業や非正規雇用、サービス業など、日本の労働市場の大部分を占める層には、その恩恵が十分に届いていないのが現実です。

業種・企業規模・雇用形態によって賃金の伸びには大きな差があり、「賃上げの時代」を実感できている人と、取り残されていると感じている人の二極化が静かに、しかし確実に広がっています。

さらに、仮に賃金が多少上がったとしても、物価の上昇がそれを上回れば生活は楽になりません。中東情勢の緊迫化による原油価格の高騰と円安が重なり、電気・ガス料金や食料品の値上げは一向に落ち着く気配がありません。スーパーのレジで「また上がった」と感じる頻度は増えるばかりです。

統計上の賃上げと、日々の生活実感のギャップ。その正体こそが、実質賃金のマイナスです。給与の額面が増えても、同じお金で買えるものが減り続ける限り、家計の苦しさは変わりません。

インフレから資産を守ろうと、最近投資に関心を持った人も少なくないでしょう。しかし、今の相場でなんとなく始めてしまうと「高値掴み」となる危険性があります。日経平均が5万円を超えるいま、新たに投資を始める人が持つべき戦略とはどのようなものでしょうか。創業22年目の投資助言代理業の立場から考えてみたいと思います。

■「預金で守る」という常識が通用しなくなった時代
かつて、資産を守る手段として預金は絶対的な安心感を持っていました。元本が保証され、万が一の時には預金保険制度もある。リスクを取りたくない人が選ぶ「正解」として、長く信頼されてきました。

しかし今、その前提が崩れつつあります。物価が年2〜3%のペースで上昇する局面では、金利がほぼゼロの預金口座に置いておくだけでは、資産の実質的な価値は毎年目減りします。残高の数字は変わらなくても、同じお金で買えるものは確実に減っていく。これがインフレの本質です。預金は「安全」ではなく、「緩やかに目減りする選択肢」になりつつあります。

100万円を1年間預けても利息は数百円程度。その間に物価が2%上昇すれば、実質的に2万円近い購買力を失ったことと同じです。10年・20年という単位で考えれば、その差は無視できない水準になります。

こうした現実を背景に、新年度を機に「預金から投資へ」と踏み出す人が増えています。新NISAの拡充やこどもNISAの新設も後押しとなり、初めて証券口座を開設する現役世代は急増しています。

インフレから資産を守るために投資を始める、その方向性は正しい。ただし、始め方を誤ると、守るつもりが逆に大きなリスクを抱え込む結果になりかねません。

■日経平均5万円時代、「今から始める人」が直面するリスク
新NISAで投資を始めようとする人の多くが選ぶのが、オルカン(全世界株式)やS&P500などのインデックスファンドへの積み立てです。長期・分散・積み立ては資産形成の基本であり、方向性は間違っていません。ただ、問題は始めるタイミングと、始めた後の向き合い方にあります。

日経平均株価が史上最高値を更新し、6万円という大台を伺う今の相場は、多くの人に強気な気持ちをもたらします。「乗り遅れたくない」「早く始めなければ」という焦りを感じている方も少なくないでしょう。しかし裏を返せば、多くの銘柄がすでに将来の期待値を「織り込み済み」で高値圏にあるということでもあります。

こうした局面で「とりあえず積み立てて放置」を選ぶことは、高値圏のリスクを無自覚に引き受けることにほかなりません。過去のITバブル崩壊やリーマンショックでは、主要指数が数ヶ月で50%近く下落した局面がありました。

今がそうなるとは言い切れません。しかし、最高値圏で無策のまま資金を投じた多くの投資家が、その後の急落で売り時を逃し、せっかく積み上げた含み益を一瞬で失い、元本割れの苦しみを味わった事実は、歴史が示しています。

■「積み立てたら放置」が「思考停止」になる瞬間
インデックス投資の積み立ては、長期で見れば有効な手法です。しかし「放置でいい」という言葉が「無関心でいい」にすり替わったとき、リスク管理は完全に機能しなくなります。

投資を始めたばかりの人ほど、好調な相場でスタートすることで「思ったより簡単だ」という錯覚に陥りがちです。含み益が出ている間は何も考えなくてよいように見えますが、相場には必ず波があります。そして、大きな下落が来たとき、「放置」していた投資家の多くは、事前に何のルールも持っていないため、売るべきかどうかの判断ができないまま時間だけが過ぎていきます。

特に注意が必要なのは、使う時期が決まっている資金を運用しているケースです。老後資金であれば、相場が悪い時期に取り崩しを数年先送りするという選択肢があります。しかし、子どもの教育費や住宅購入の頭金など、期限が動かせない資金をリスク資産に乗せたまま放置することは、タイミング次第で取り返しのつかない結果を招きます。入学金の振込期限は、相場の都合に合わせて待ってはくれません。

「長期投資だから大丈夫」という言葉は、資金の用途と期間を正しく整理した上でこそ成り立ちます。すべての資金を一括りにして「放置」するのではなく、いつ・何のために使うお金なのかを整理した上で、それぞれに適した運用方法を選ぶことが出発点です。

■守りながら攻める——社会情勢に合わせて「資金を回す」発想
では、高値圏にある今の相場で、どう資産を運用すべきか。キーワードは「資金を回す」ことです。

株式市場では常に主役が入れ替わります。かつてのEV関連から、AI・半導体、DXへと、社会構造の変化に伴って資金の流れは移り変わります。一つの銘柄や指数に資金を固定し続けるのではなく、社会情勢や市場の変化を読みながら、より優位性のある分野へ資金を再配分していく。この「乗り換え」の発想が、単純な積み立て放置との決定的な違いです。

利益が出ている銘柄を一旦確定し、まだ市場の評価が追いついていない「次の主役」へ資金を移す。この繰り返しが資本の効率を高め、相場環境が変わっても安定的にリターンを積み上げることを可能にします。「守り」の意識を持ちながら「攻め」の行動を取る。それが、インフレ時代における資産運用の基本姿勢だと考えています。

もちろん、これには相場を定期的に確認し、必要に応じて判断を下す手間がかかるでしょう。しかし逆に言えば、自分の資産の状態を定期的に把握し、見直す習慣を持つことこそが、インフレ時代に資産を守りながら増やすための基本となります。

■感情ではなく、ルールで動く
相場が急変したとき、多くの個人投資家が「頭ではわかっているのに動けない」状態に陥ります。その理由は意志の弱さではなく、人間の心理的な構造にあります。

行動経済学の研究が示すように、人は利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを約2倍強く感じます。この感覚のズレが、投資判断を狂わせます。含み損が出ても「いつか戻るはず」と持ち続け、少し利益が出ると「これ以上失いたくない」と早々に売ってしまう。この行動パターンは、多くの投資家が知らず知らずのうちに繰り返す典型的な失敗例です。

感情に左右されない運用をするためには、自分の意志に頼るのではなく、あらかじめ決めたルールに従う仕組みを持つことが大切です。いつ利益を確定するか、どこで損切りするか。その基準を事前に決めておくだけで、局面が変わったときの行動は大きく変わります。

新年度は、多くの人が気持ちを新たに行動を起こしやすいタイミングです。「とりあえず口座を開いて積み立てる」だけで終わらせず、自分の資産の目的・期間・許容リスクを整理した上で運用方針を決める。その一手間が、数年後の結果に大きな差をもたらします。

■プロの視点を「伴走者」として活用する
相場を追い続ける時間がない、損切りの決断がどうしても下せないという方には、金融庁に登録された「投資助言・代理業」を活用するという選択肢があります。個人では難しい情報収集や判断の部分をプロの視点でサポートすることで、感情に左右されない運用ができます。

賃上げの恩恵が実感しにくく、物価高が続く今だからこそ、自分の資産を預けたまま忘れるのではなく、自分で管理する意識を持つことが大切です。新年度を機に、資産との向き合い方を「放置」から「管理」へ。守りながら攻める一歩を、踏み出してみてください。


藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役


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■プロフィール 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役
fujimura_tetsuya
千葉県出身。横浜市立大学経営学科卒業後、1990年に太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。個人・法人の資産運用を担当し、バブル崩壊後の市場を第一線で経験する。のちに本社投資情報部でプラント・機械・IT・半導体など幅広い業種を担当し、年間数百件におよぶ企業取材を通じて成長株分析に強みを培う。1999年の台湾地震では、TSMCをはじめとする現地半導体メーカーを取材し、アジア市場リスクを日本の投資家へ発信した。
2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。

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