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■4割が「改善見込みなし」——6,352社調査が突きつけた現実
2026年4月、東京商工リサーチが公表した「金融支援と事業継続に関するアンケート」は、6,352社を対象とした大規模調査だ。コロナ禍以降の資金繰り支援を受けた企業を中心に、「現在の経営状況」「金融支援の有無」「経営改善の見込み」などを尋ねたものだ。見出しは「金融支援が事業を下支えした」と前向きな表現だが、数字の裏側には不都合な現実が隠れている。この記事では、その現実から「なぜ返済猶予(リスケ)に頼り続けた会社が手遅れになるのか」という構造を読み解く。

逆風を感じた企業のうち、「経営改善の見込みがあった」と答えた中小企業は41.9%と半数を下回った。大企業の62.9%と比べて20ポイント以上の差がある。同じアンケートの同じ質問に、まったく異なる現実が映し出されている。

しかも、この数字には重大な前提がある。このアンケートに答えられた企業は、少なくとも経営がある程度回っている。すでにリスケ中の会社、リスケを申し出て断られた会社、担保も保証枠も底をついた会社——こうした企業はアンケートに答える余裕すらない。標本の外に出てしまっている。つまりこの調査には、最も苦しい状況にある企業が最初から含まれていない。

6,352社という数字は、生き残った者だけが答えた調査である。6,352社という数字は、ある程度経営が回っている企業だけが答えた調査だということを、まず頭に置いておく必要がある。

■支援機関が自ら認めた「相談遅れ」という自白
では、なぜ苦しい会社ほど支援が届かないのか。別のデータがその理由を示している。
さらに衝撃的な数字がある。中小企業活性化協議会(中小企業庁の委託事業)への窓口相談件数は、2023年度に過去最高の6,787件に達した。2024年度も第2四半期だけで4,152件と前年同期比2割増で推移している。

注目すべきはその内訳だ。相談企業に占める小規模事業者の割合は、2022年度までは4割前後だったが、2023年度には48%、2024年度上半期には54%と半数を超えた。

そして、中小企業活性化全国本部自身がこう記している。「相談遅れ、支援の遅れにより、スポンサー型債権放棄案件(追い込まれ型)、再チャレンジ支援が増加している」。「スポンサー型債権放棄」とは、外部の支援者(スポンサー)を見つけることを条件に、金融機関が貸出金の一部を諦める(放棄する)再生手法だ。会社が自力では立て直せない段階まで追い込まれて初めて使われる。「追い込まれ型」とは、まさにその名の通り、手詰まりになってから相談に来るケースを指す。

支援機関が、自分たちの支援の遅れを公式資料で認めているのだ。支援の遅れという課題を、支援機関自身が公式資料の中で認識していることがうかがえる。

なぜ相談が遅れるのか。「社長が怠慢だから」「プライドが邪魔をするから」——そう片付けることは簡単だ。しかし、それは違う。問題の本質は、計画がないから何を相談すればいいかわからない、という構造的な欠陥にある。手元に資金繰り表も事業計画もなければ、専門家の前に座っても「苦しいです」としか言えない。「苦しいです」は相談ではなく、悲鳴だ。

■「頑張れとリスケ」が会社を殺すメカニズム
なぜ相談が遅れるのか。その背景に「返済猶予(リスケ)」の問題がある。
リスケとは、金融機関との合意のもとで返済条件を変更し、毎月の返済額を減らす措置だ。資金繰りに窮した社長にとって、これは一時の救いに見える。しかし、リスケは時間を買う手段であって、問題を解決する手段ではない。

リスケを繰り返す間に何が起きるか。売上は落ち、人は去り、設備は老朽化し、社長の気力も尽きていく。そして追い込まれた状態で専門家の前に現れる。「計画なき延命」とは、この過程そのものだ。

中小企業活性化協議会の相談件数が増え続けているのは、支援の網が広がったからではない。計画なき延命を続けた末に、動けなくなった社長が増えているからだ。「追い込まれ型」という言葉が、その実態を正確に表している。中小企業活性化協議会の相談件数が増え続けているのは、支援の網が広がっただけではないだろう。計画なき延命を続けた末に、動けなくなった社長が増えているとみるべきだ。「追い込まれ型」という言葉が、そうしたケースの増加を示唆している。

延命そのものが問題なのではない。方向性と見通しのないまま延命していることが問題なのだ。

■計画のない社長に「頑張れ」は支援ではなく時間の浪費である
「静かな幕引き」は、誰にでも許された選択ではない。

会社を閉めるには、全債務を弁済した上で清算手続きを完了しなければならない。借入が残っており返済できない状態であれば、清算の途中で特別清算(裁判所が関与する法的な清算手続き)、さらには破産へと移行する。債権者が損失確定に同意しない限り、多くの中小零細企業には資金が尽きるまで事業を続けるという選択肢しか残されていない。「静かな幕引き」は、債務を全額返済できる会社にだけ許された選択だ。

だとすれば、計画のない社長に向かって「頑張れ」と言い続けることは、何を意味するのか。それは支援ではなく、消耗の先送りだ。

必要なのは、簡易でも構わない、事業計画と資金繰り計画を持つことだ。計画があって初めて、選択肢が生まれる。事業を継続するのか、規模を縮小するのか、譲渡するのか、整理の時期をいつにするのか。計画なしにこれらの判断はできない。

計画のない延命のコストは社長だけが払うのではない。従業員、取引先、保証人、家族——すべてのステークホルダーが、方向性の見えないまま時間を過ごすことになる。突然の資金枯渇による連鎖ダメージは、計画的な縮小・整理とは比較にならない。

東京商工リサーチの調査が本当に問うているのはそこではないか。6,352社のデータは、金融支援の効果だけでなく、計画を持つ社長と持たない社長の間に生まれる差を示唆しているように読める。その差は、取り返しのつかない形で現れる。

【参照・出典】
・東京商工リサーチ TSRデータインサイト「金融支援と事業継続に関するアンケート」2026年4月公表
・中小企業活性化全国本部「中小企業活性化協議会等の支援実績について」(中小企業庁)


長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント


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■プロフィール 長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント
nagase
経営コンサルタント・一倉定の思想と認知脳科学を融合した「収益満開経営」を提唱。融資支援の実務経験をもとに、30社以上の財務改善をサポートしてきた。「和魂洋才(日本の商人道と科学的経営の融合」を軸に、企業の長期繁栄には「義(経営哲学)」と「利(科学的手法)」の両立が不可欠であると説く。年商50億円突破を見据えた、再現性のある経営の仕組みづくりを支援している。

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