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東京商工リサーチが4月8日「12年ぶりの倒産1万件超え。負債1億円未満の小規模倒産が30年間で過去最高。人手不足倒産も過去最多を更新」という調査結果を公開した。この調査によれば、2025年度の「人手不足」関連倒産は442件と過去最多を更新した。内訳は「人件費高騰」195件、「求人難」139件、「従業員退職」108件。数字だけ見れば、人材を確保できない中小企業が続出しているように映る。

しかし、この数字を見て「うちは給料が低いから人が来ない」と考えた社長がいるとすれば、問いの立て方から間違っている。

■問題は、複合的圧力の中で積み重なる
2025年度の問題は、人手不足に限らない。物価高倒産は801件で2022年度以降最多。コロナ借換保証の最後の返済がピークを迎え、加えて政策金利の引き上げで貸出金利も上昇している。倒産件数全体は1万505件と12年ぶりの水準で、負債1億円未満の小・零細規模が全体の76.7%を占める。

物価高で利益が削られ、金利上昇で資金コストが上がり、コロナ融資の返済が始まる。この三重苦の中で、さらに人材まで確保できないとなれば、会社が立ち行かなくなるのは必然だ。

こうした複合的な圧力を前に、多くの社長が取る行動がある。「もっと忙しく動く」「もっと声を大きくする」「俺についてこい、と言い続ける」。それが、問題をより深刻にしている。

■「俺についてこい」はリーダーシップではない
セルズニックという組織論の研究者は、トップが本来果たすべき役割を「制度的リーダーシップ(組織の存在意義と進む方向を示す役割)」と定義した。それは「どうやってやるか」ではなく「なぜ、どこへ向かうのか」を示すことだ。現場で先頭に立ち、声を張り上げることではない。

問いを立てる力と、未来を言語化する力。これが社長にしかできない仕事である。

ところが実績で社長になった人間には、特有の罠がある。高橋伸夫・東京大学名誉教授(現・東京理科大学教授)はこれを「技術への逃避」と呼ぶ。かつて営業で結果を出した社長は、困難な局面に直面するたびに「自分が動く」ことに戻っていく。それは「どうやって」の思考であり、「なぜ・どこへ」の問いを回避する行為だ。

人材が確保できない会社の社長の多くは、忙しい。しかし、忙しさの種類が違う。

■賃金競争という「負けが決まった戦い」
中小企業が採用で大企業と賃金競争をすることは、最初から結果が決まっている戦いだ。

組織行動論の古典として知られるマーチ=サイモンは『オーガニゼーションズ』でこう指摘している。「賃金は、全体として数ある報酬のうちの一つにすぎない」。そして賃金の効用は「要求水準の変化につれて時とともに変化し、そのため奨励給の効果は安定しない」とも述べた。これは1958年の指摘である。

70年前にすでに答えは出ていた。賃金を上げても、それが「当然の水準」として認識された瞬間に効果は消える。

人が会社に留まる、あるいは会社を選ぶ最大の理由は別にある。高橋教授の研究はこれを「見通し」と定義した。「見通しがあれば、満足度が低くても離職率は下がる」——この知見は、日本金融通信社(ニッキン)が2025年11月に実施した転職意識調査(280名)でも実証されている。

転職を考えた理由の1位は「キャリアアップのため」(64名)、2位は「会社の将来性への不安」(53名)、3位は「仕事内容への不満」(50名)だった。給与・福利厚生への不満は31名で5位にとどまった。

人は賃金ではなく、「この会社で自分はどうなるのか」「この会社は5年後どこにいるのか」という見通しを求めている。その見通しを示せるのは、社長だけだ。税理士にも、銀行にも、従業員にも示せない。

■「見通し」を示す道具
見通しを示すための具体的な手段が、事業計画書である。中小企業白書が繰り返し示すように、事業計画を策定している中小企業は全体の約3割にすぎない。残り7割の社長は、見通しを示せないまま採用活動をしている。

求人票に書けるのは条件だけだ。しかし、採用面談の場を想像してみてほしい。「あなたは何ができますか、これまで何をしてきましたか」という質問だけで終わる面談と、「当社はこういう目標を持ち、この方向性で進んでいく。そのために、こういう人材を求めている。そして、これだけの成果を出せるようになれば、給与はこのように変わっていく」と社長が説明できる面談——求職者はどちらの会社で働きたいと思うだろうか。

社長が見通しを持っているかどうかは、面談の場で一瞬で伝わる。給料を上げることを否定しているのではない。見通しがあって初めて、給料の上げ方が意味を持つ。見通しのない会社で給料を上げても、それは条件の改善にすぎず、人を引き留める力にはならない。

複合的な圧力がかかる今だからこそ、社長の役割は従業員にハッパをかけることではない。状況が厳しいほど、従業員も求職者も「この会社はどこへ向かっているのか」を知りたがっている。

「なぜ自分の職場には行き先が見えないのか」——その問いに悩む従業員が増えているとすれば、答えはシンプルだ。社長が目的地を持っていないからである。

「俺についてこい」だけでは、目的地を示さない航海と同じだ。どれだけ力強くオールを漕いでも、行き先が見えなければ、船員は舷側から海を見るようになる。中小企業の社長のリーダーシップのスタートは、会社の目的地を示すことである。

【参照・出典】
・東京商工リサーチ「2025年度『人手不足』関連倒産調査」
・東京商工リサーチ「2025年度の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)」
・『オーガニゼーションズ』マーチ、サイモン(ダイヤモンド社)
・『虚妄の成果主義』高橋伸夫(日経BP社)
・日本金融通信社(ニッキン)「転職意識調査」2025年11月実施(回答者280名)
・中小企業庁『中小企業白書』


長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント


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■プロフィール 長瀬好征 合同会社エバーグリーン経営研究所 代表社員、経営コンサルタント
nagase
経営コンサルタント・一倉定の思想と認知脳科学を融合した「収益満開経営」を提唱。融資支援の実務経験をもとに、30社以上の財務改善をサポートしてきた。「和魂洋才(日本の商人道と科学的経営の融合」を軸に、企業の長期繁栄には「義(経営哲学)」と「利(科学的手法)」の両立が不可欠であると説く。年商50億円突破を見据えた、再現性のある経営の仕組みづくりを支援している。

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