![]() この記事では、私立中高一貫校で行われる「先取り学習」の落とし穴について、著書『塾講師が言わない子どもを苦しめない受験戦略』(蓮池林太郎・セルバ出版)から再編集してお届けします。 ■塾も私立校も「ビジネス」である *塾と私立校の蜜月な関係 進学実績を公にしない方針を貫くところがあるように、中高一貫校も生き残るため、さまざまな策を講じて生徒集めに必死です。アピールのため、足繁く学習塾を訪問する学校もあると聞きます。 たとえば大手塾へ広告費を支払い、塾で発行している情報誌で自校を紹介してもらうことで、認知度を高めるといった地道な活動を行っています。少子化の時代、自然と生徒が集まるのは上位の難関校だけなのです。塾向けの説明会と称した「接待」も盛んに行われています。これはつまり「御塾の優秀な生徒さんをぜひうちの学校へ」とアピールするための活動です。 中堅以下の中学校が数ある中から選ばれるにはたくさんの仕掛けが必要です。本命は別の上位校に譲っても、「第二志望はこの学校がいいよ」と塾が勧めてくれたら、受験者数は増え、学校経営は安泰です。 運悪く第一志望に落ちた優秀な生徒が入ってくれれば将来の大学実績も上がるわけですから、中堅以下の中学校は塾への営業活動に余念がありません。説明会に参加した塾に高級な弁当を振る舞い、お土産をたくさん用意する、なんてこともあるそう。まさに接待です。 この活動自体に問題があるとは思いません。その学校が質の高い教育を提供していて、素晴らしい進学実績を誇るのであればいいわけです。 しかし、本来であれば質の高い学校を選別する役目のはずの塾が、その本意を無視してビジネスに徹し、広告費をたくさん出してくれる、いい接待をしてくれる、塾にとって印象のいい学校を生徒へ勧めている向きがあるのです。 「なんでこんな商品がヒットしているのだろう」 「宣伝が誇大過ぎるのではないか」 私たちも生活の中で、人気に首を傾げたくなる質の商品やサービスに出くわすことが多々あります。学校も同じで、営業力で生徒を集めているだけで、中身は大したことない有名無実な学校もあるかもしれないことを知っておくべきなのです。 塾や私立学校のビジネスライクな面を、私たち消費者サイドは十分に配慮しないといけません。 「塾講師に勧められた学校は、本当に子どもに合っているのだろうか」 この視点は決して忘れてはいけません。自分たちの目でしっかり学校を評価するべきです。 ■先取り学習に疲弊する子もいる *先取り学習の光と闇 中高一貫校の魅力のひとつに先取り学習があります。おもに数学と英語を、公立中学校よりも早足で進めることで、大学受験で優位に立てるカリキュラムを中高一貫校は組んでいます。おおむね中学2年生の終わりで数学と英語の中学内容を終わらせるので、公立中学校の1.5倍のスピードです。 受験戦争をくぐり抜けてきた優秀な生徒たちの集まりですから、先取り学習のスピードなんてお手のもの。といいたいところですが、あながちそうともいえないのです。 中学から習う数学は算数の進化形であり、中学受験で学習したものとはまた違った能力が問われてきます。算数は得意だったけれど、数学になった途端に苦手意識が出てきた、という子も中にはいるでしょう。 理系志望だったのに、あまりのボリュームとスピードに消化不良を起こし、自信をなくし文系に転身することもあります。そういう子は、公立中学のスピードで伸び伸びやっていれば理系の道を断つことにはならなかったかもしれません。 英語についても、小学校の授業でやんわり触れた程度の子もいれば、中学以降を見据えて受験勉強と並行で英語塾に通っていた子もいます。英語力は上から下まで幅広く、下位に位置する子は英語の洗礼を浴びてしまいます。英語の先取り学習で心が折れてしまい、学習意欲の減衰を招くことになるでしょう。 このように、数学と英語の先取り学習が辿る結末は、ある生徒にとってはメリットであり、ある生徒にとっては残酷でありと、非常にリスク幅が大きいのです。上位以外の中高一貫校では先取り学習がうまく機能していないという話も聞きます。 上位一握りの優秀な生徒は、特進クラスに入って上位大学合格に向け先取り学習で鍛え上げられていきます。一方で、先取り学習についていけなかった生徒は、高校入学後に外部生と同じクラスに所属し、数学の学び直しをすることになるのだそうです。 中学生が通う中高一貫校の先取り学習についていくためのサポート専門塾もあるというのですから驚きです。先取り学習でも大丈夫なようにサポートしていくのが中高一貫校の役目のはずなのに、こういった専門塾が存在しているということは、中高一貫校でも先取り学習についていけない生徒がたくさんいるということです。 本来なら中学受験させるべきではない、先取り学習についていけない子も中高一貫校に行かせてしまっている受験産業の過剰な生徒集め合戦に、疑問を抱かずにはいられません。 中高一貫校の丁寧かつきめ細やかな教育に共感し子どもを塾に通わせ合格したというのに、いざ入ってみれば先取り学習についていけずサポート塾に通わせる。そんなことになってしまったら本末転倒ともいえ、非常にコスパの低い話になってしまいます。 四谷大塚主催の統一模擬試験で偏差値60以上ないと、中学受験する意味がないという意見もあります。そのくらいの学力が先取り学習にきちんとついていけるかどうかという目安になっているのでしょう。 私は中学受験に向いている家庭の条件の1つとして、公立小学校3年生のときに各単元の終わりに受けるカラーテストで、中学受験塾に通っていなくてもほぼ満点を取れることが、先取り学習についてこれる目安と考えています。 年齢が上がるにつれ子どもの能力がより正確にわかってきますし、小学3年生時点で全てを見通せるわけではありませんが、感覚的にも小学校3年生のときにほぼ満点を取れないようだと、先取り学習は難しいというのは納得感があるでしょう。 中学受験がゴールではありません。中学受験するという決断をする前に、子供が中高一貫校の先取り学習についていけるかどうか、慎重に判断する必要があるのです。 たしかに、数学と英語の先取り学習することができたら、高校2年生の終わりで数学と英語の高校内容を終わらせるので、将来的に大学受験において、東大や早慶理系には近づくことでしょう。問題は先取り学習ができる子どもが少数派ということなのです。 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 【関連記事】 ■受験最大のリスクは、終わった後にやってくる。子どもを「再起不能」にしないための親の心得 (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62989301-20260206.html ■本当に中学受験すべき家庭は実は少ない?参入できる3つの前提条件とは (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62989284-20260206.html ■課金力を最大化する、子どものタイプ別受験戦略とは (蓮池林太郎 医師) https://sharescafe.net/62987426-20260205.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 蓮池 林太郎 医師・作家・新宿駅前クリニック院長 1981年生まれ、帝京大学医学部卒業。病院勤務を経て、2009年新宿駅前クリニックを開設。医療法人社団SEC理事長、新宿駅前クリニック院長。 医者としてのキャリアとインターネット分野の知識を掛け合わせ、ホームページ、ウェブメディア、書籍などを通じて、クリニック開業、病院選び、生き方、婚活など独自の視点から情報発信を行っている。これまで10冊ほどの書籍を出版。 2017年からはクリニック開業コンサルティングも提供を開始、100人以上の医師からの相談実績がある。 子どもが5人おり、教育についても独自に情報収集を行い、コスパ・タイパに優れた受験戦略を研究している。 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


