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「なぜ、あなたはNISAを始めましたか?」

こう問われて、明確に答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。周囲がやっているから、将来が不安だから、なんとなく得だと聞いたから──そんな曖昧な動機で始めた人も多いはずです。それでも結果として、NISAは爆発的に広がりました。

最近では「NISA貧乏」という言葉まで登場し、投資に回しすぎて生活が圧迫されるという、本末転倒な現象すら話題になっています。

そもそもNISAとは、一定額までの投資で得た利益が非課税になる制度です。本来は資産形成を後押しするための仕組みですが、その広がり方はもはや制度の仕組みやメリットだけでは説明できない段階に入っています。

実際、金融庁の発表によれば、2025年12月末時点で2826万口座に達しています。単なる金融政策の成功例として片付けるには、あまりにも広範囲に浸透しています。

では、なぜここまで広がったのでしょうか。政府が推したからなのか、税制が有利だからなのか、それともSNSで話題になったからなのか。どれも間違いではありませんが、決定打には見えません。

広報・マーケティングの構造で見れば、NISAの拡大は偶然ではありません。人が自発的に関わり、さらに他者を巻き込み広がる設計が機能した結果です。

■「政府の推し」だけでは説明できない
NISAがここまで広がった理由として、よく挙げられるのは「政府の後押し」と「税制優遇」です。

確かに、非課税というメリットは分かりやすく、制度としての魅力も十分にあります。新NISAへの移行にあたって制度が拡充されたこともあり、「国が推しているから安心だ」という空気が広がったのも事実でしょう。

ただし、ここで一つ整理しておきたい点があります。こうした政府主導の施策が、同じように広がるとは限らないということです。

例えばマイナンバーカードも、強い後押しやインセンティブが用意されてきましたが、NISAのような広がり方とは明らかに異なります。つまり、政府の後押しや制度の魅力は重要な要素の一つではあるものの、それだけでこの現象を説明するのは難しいということです。

では他に何があるのか。金融機関による広告、メディアでの特集、SNSでの情報発信──これらも確かに拡大を後押ししています。実際、「NISAを始めた」という発信は日常的に目にするようになり、情報の接触頻度は明らかに増えました。

ただし、これらを積み上げてもなお、「なぜここまで一気に広がったのか」という問いには、どこか説明しきれない感覚が残ります。

つまり、一般的に語られている要因はどれも間違いではありません。ただ、それらを積み上げても説明しきれない広がりがある。その背景には、見落とされがちな「構造」が大きく作用していると考えられます。

■NISA拡大は「マルシェ型」の構造で起きている
では、何が見落とされているのでしょうか。結論から言えば、NISA拡大の本質は「制度」そのものではなく、協業が自然に生まれる構造にあります。

この構造は、いわば「マルシェ型」の仕組みです。マルシェでは、出店者が増えるほど場は賑わい、来場者も増え、結果としてさらに出店者が集まるという好循環が生まれます。

NISAも同様に、金融機関やメディア、個人といった多様なプレイヤーがそれぞれの目的で参加し、その活動自体が新たな参加者を呼び込む構造になっています。

特に重要なのは、参加者である金融機関にとって明確なメリットが設計されていた点です。NISA口座の獲得は、新規顧客との接点づくりや長期的な関係構築につながります。つまり、制度の普及そのものが、各金融機関のビジネスにも直結する構造になっていました。

そのため各社は、自らの利益のために積極的に参入し、広告などの情報発信を強化しました。ここで重要なのは、情報発信を行うインセンティブが構造として組み込まれていたという点です。政府が制度を掲げ、参入する企業にも明確なリターンがある。この組み合わせによって、自然と情報発信が増えていきました。

結果として、銀行や証券会社といった既に信頼を持つプレイヤーから、分かりやすい情報に何度も接触する環境が生まれます。単発の情報では動かなかった人も、繰り返し触れることで理解が進み、「自分にもできそうだ」という安心感に変わっていきます。こうして、参加した人が次の参加を呼ぶ流れが加速していきました。

■NISAはYouTubeと同じメカニズムで広がっている
この構造は、決して特殊なものではありません。むしろ、多くの人が日常的に触れているサービスにも同じ仕組みが存在します。その代表例がYouTubeです。

YouTubeは、多くのクリエイターが動画を投稿し、それを視聴者が楽しむ場として広がってきました。面白い動画を作る人が増えれば視聴者も増え、視聴者が増えればさらに多くのクリエイターが参加する。この繰り返しによって、プラットフォーム全体が大きくなっていきます。

重要なのは、誰かに「広げられている」というよりも、参加している人たちの行動そのものが結果として広がりにつながっている点です。

動画を投稿したい人、楽しみたい人、それぞれが自分の目的で動いているだけですが、その積み重ねが全体の成長を生み出しています。参加者が増えるほど価値が高まり、さらに新しい参加者を呼び込む。この循環が自然に回り続けているのです。

NISAも同じ構造で捉えることができます。金融機関は顧客獲得のために情報を発信し、個人は将来のために投資を始め、その情報がさらに周囲に共有されていく。それぞれが自分の目的で動いた結果、制度全体が広がっていく。この「参加者自身が広げる側になる」構造こそが、NISA拡大を加速させた要因の一つです。

■人が参加し、広がりが生まれる構造はどう作るか
ここまで見てきた構造は、特別なものではありません。日々のビジネスにも応用できる考え方です。ポイントは、「人が自発的に参加したくなる仕組みになっているかどうか」です。多くの場合、参加を促すことに意識が向きがちですが、本当に重要なのは、参加したくなる理由そのものを設計することです。

例えば、ある企業で社内ダッシュボードを導入したケースがあります。当初はほとんど活用されませんでしたが、営業で使える具体的なトークや実績につながる情報を掲載するようにしたところ、状況は一変しました。「見せたいもの」から「使いたいもの」に変わったことで、自然と利用が広がっていったのです。

同じ構造は外部向けの施策でも成立します。例えば、複数の登壇者を招いたイベントでは、それぞれの登壇者が自分の顧客に向けて告知を行います。主催者が一人で集客するのではなく、登壇者それぞれのネットワークが重なり合うことで、自然と参加者が広がっていきます。

ここで重要なのは、登壇者にとってもメリットがある点です。自身の認知拡大や顧客接点につながるため、積極的に発信する動機が生まれます。その結果、主催者が意図しなくても情報発信が増え、参加者がさらに参加者を呼ぶ状態が生まれます。

■広がりは「構造」で設計できる
NISAの拡大は、単なる制度の優位性や政府の後押しだけで説明できるものではありません。

金融機関やメディア、個人といった多様なプレイヤーが、それぞれの目的で参加し、その行動が次の参加者を呼び込む――そんな「参加が連鎖する構造」が広がりを生み出す仕組みを理解するうえで重要な視点です。

この構造があるとき、物事は無理に広げようとしなくても自然と広がっていきます。重要なのは、「人が関わる理由」をどう設計するかです。広がりは、構造で生み出せるものです。


木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役


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■プロフィール 木下亮雄 PR・マーケティングコンサルタント 株式会社ユアウィル 代表取締役
kinoshita
「なぜ伝わらないのか」「なぜ売れないのか」を構造から整理し、露出・信頼・売上が一貫して成立する状態を設計する専門家。外資系企業で13年間マーケティングに従事。ベンチャー支援団体にて広報・マーケティング領域を経験した後、株式会社ユアウィルを設立。中小企業や個人事業主200社以上を支援し、構造や伝え方を整理することで、評価や機会につながるケースを数多く生み出す。支援したコンサルタントや中小企業診断士などが雑誌掲載されるなど、第三者評価につながる成果も多い。自身も30冊以上の法人向けビジネス誌や日本経済新聞等に寄稿。商工会議所や大学校などの教育機関では講演活動にも取り組み、実践的な考え方や方法を伝えている。近著に『コンサルタント・講師のためのPR戦略』(同友館)

公式サイト https://practical-marketingpr.com/
著書 『コンサルタント・講師のためのPR戦略』https://www.amazon.co.jp/dp/4496057603

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