![]() 中途入社1年以内の社員を対象にしたアンケートでも、「先輩が先回りして全部やってしまう」「仕事が残っているのに定時で帰るよう言われる」「責任のある仕事を任せてもらえない」といった不満が並んだ(参考:中途入社1年以内の社員に聞いた『ホワイトハラスメント』に関する調査 マイナビ 2026/04/09)。 かつては「最近の若手は根性がない」と片づけられがちであった。だが、いま若手が嫌がっているのは厳しさそのものではなく、成長の機会がないまま、時間だけが過ぎていくことである。言い換えれば、彼らが求めているのはハードワークそのものではなく、将来の力につながる負荷である。 若手のハードワークをめぐる話は、極端になりがちだ。「若いうちは寝ずに苦労しろ」という人もいれば、「ハードワークは全部悪だ」という人もいる。だが、どちらも丁寧さに欠ける。 若いうちにある程度の負荷を引き受けなければ、仕事の全体像は見えず、責任の重さも分からない。自分に向いていることも、向いていないことも見えにくい。だから、若いうちの負荷には意味がある。 だが、ハードワークすべてがプラスとはいえない。ブラック企業のように、長時間労働と理不尽な圧力で人を削るだけの働き方は、成長ではなく消耗である。そんな環境では、力がつく前に心と体が摩耗する。 ここで「楽すぎるから辞めたい」を甘えの一言で切ってしまうのは雑だ。たしかに、若手が受け身なのにも問題はある。自分の仕事で何が学べるのかを考えず、分からないことを聞かず、任せてほしいとも言わないままでは、成長の機会は広がりにくい。だからといって、会社が若手個人の姿勢だけを問題にしてよいわけではない。 会社としては、残業を減らすことと、成長機会を減らすことを分けて考えなければならない。中小企業診断士として見ると、この問題は若手の根性論ではなく、育成設計の問題である。 問題は、ハードワークかどうかではない。あとで効く負荷か、ただ削られるだけの負荷かである。つまり、負荷が将来の資産になるかどうかがポイントだ。 ■成長と消耗の境界線 仕事が将来の資産になるかどうかを見る時は、まず、この仕事で何が身につくのか、を考えるべきだ。例えば、顧客のことが分かる、現場の流れが分かる、数字の意味が分かる。こういう仕事は、若手の判断力を育てる。派手かどうかは関係ない。あとで別の場でも使える力になるかどうかが大事なのである。 ここで、地味な作業は全部ムダだ、決めつけてはいけない。データ入力や伝票処理のような仕事でも、流れが見えるなら十分に意味がある。現場のつながりと動き方、ミスの発生要因。利益を生み出す源泉などが見えるからだ。逆に、一見すると花形の仕事でも、ただ言われた通りに動くだけなら、力はつきにくい。大事なのは、作業かどうかではない。その仕事が業務理解につながるかどうかである。会社の側も、ただ雑務として渡すのではなく、この仕事で何を見てほしいのかを意識して任せるべきだ。 やり直しを求められることや、数字で厳しく見られることは、よくも悪くもある。大事なのは、それが改善につながるかどうかだ。なぜダメなのか、どう直せばよいのか、次に同じ失敗を減らせるなど、がわかると、仕事の質を上げる力になる。逆に、理由もなく突き返される、数字だけ責められて終わる、直し方も分からない。これは、改善ではなく消耗だ。会社が避けるべきなのは、厳しさそのものではない。改善につながらない厳しさである。若手が避けるべきなのも同じく、何も残らない消耗なのである。 ただ、若いうちは、その負荷が資産になるのか、ただの消耗なのかを最初から正しく見分けるのは難しい。一見ムダに見える仕事が、あとで効くこともあるからである。だから、いきなり見切るのではなく、この仕事で何が分かるのかを考えることが先決だ。分からなければ上司に質問し、環境がぬるいと感じるのであれば、「もう少し任せてほしい」、「最後までやらせてほしい」と交渉する。同時に会社にも、若手が意味を確かめやすいように、何を見てほしいのか、どこまでできたら次に進めるのかを言葉にする責任がある。 ■成長機会につながる事例 成長機会は会社が設計できる。サイバーエージェントは、若手の成長は抜擢から始まると位置づけ、上司の勘やたまたまの人間関係に任せず、若手を見つけて育てる仕組みを制度化している。 具体的には、管理職が有望な若手を選び役員陣にプレゼンする。役員は半日かけて、「この人にはこういう仕事を任せた方がよい」「もっと伸ばすにはこういう経験が必要だ」と具体的に話し合う。 候補者を選ぶだけで終わらず、ポストそのものが足りないなら新たにつくる。実際に「ポスト版あした会議」で、空いている役割や兼務で機能していない役割を洗い出し、若手の成長機会となる新しいポストも含めて21のポストを捻出したという。つまり、若手を育てたいが席がない、という状態を減らしているのである(参考:若手の成長は「抜擢」から。若手抜擢をシステム化する「強化指定社員セレクション会議」とは CyberAgentWay 2024/11/05)。 重要なのは、若手に「勝手に伸びろ」と言っていないことである。会社が人材を発掘し、抽出し、抜擢するするループを意図的に回している。若手育成とは、研修を増やすことではない。責任ある仕事に触れさせる順番と場を、会社が設計することなのだ。 地味に見える仕事も成長につながる。 ファーストリテイリングの柳井氏は実家の紳士服店を手伝う中で、店員が次々に辞め、柳井は仕入れ、販売、経理、人事まで全部を自分で担うことになった。朝から晩まで働き、家に帰ってからも仕事をしたという。売上も支払いも、人も現場も、全部が自分に返ってくる状態になったのである(参考:やる前から考えても無駄 ベンチャー通信 2023年7月号)。 この経験によって、地味な作業の意味が一変した。仕入れは在庫と資金繰りにつながり、販売は売上と顧客理解につながり、経理は日々の数字の重みにつながる。バラバラに見える仕事が、一つの商売としてつながって見えた時、仕事は単なる作業ではなくなった。 地味な仕事だから価値が低いわけではない。若手を育てるかどうかを分けるのは、仕事が全体とどうつながり、結果がどう返ってくるかを体験させることだ。 ■会社がやるべきこと 「サイバーエージェントのように成長機会を設計できる会社は、一部の強い企業だけではないか」という反論があるかもしれない。確かに、若手を抜擢する制度を整え、空いたポストまでつくれる会社は多くない。 だが、ここで見るべきなのは制度の大きさではなく、成長機会の中身である。若手に数字を持たせる、判断させる、やり直しと改善まで経験させる。これらは、どんな会社でも大小の差こそあれ設計できる。 大企業のように会議体をつくれなくても、商談の同席をさせる、日々の売り上げや粗利を一緒に見る、発注や段取りの一部を任せる、やり直しの理由を言葉で伝える、といった形ならできるはずである。 成長機会を作れる企業が例外なのではない。問われているのは、若手をただ楽にさせるのか、それとも意味のある負荷に触れさせるのか。その違いを意識しているかどうかである。 「会社がそこまで成長機会を設計しなければならないのか」という反論もあるだろう。現場は忙しく、人手も足りない。若手一人ひとりに合わせて、何を任せ、どこまでやらせ、どう振り返るかまで考えるのは、負担が重すぎるというからだ。 だが、それでも会社は、何を見せるか、何を任せるか、どこまで背負わせるかを考えなければならない。若手を成長させるために不可欠だからだ。手を抜くと、若手の戦力化が遅れ、結局、会社の損になる。 もちろん、若手の側にもやるべきことがある。この仕事で何が学べるのかを考える、分からなければ聞く、もう少し任せてほしいと伝えることだ。受け身では成長機会を活かせない。 「楽すぎるから辞めたい」は、甘えの一言で片づけられる話ではない。若手が嫌がっているのは厳しさそのものではなく、何も残らないまま時間だけが過ぎることだ。 だから問うべきは、ハードワークかどうかではない。その負荷が将来の資産になるのか、それとも消耗で終わるのかである。会社は成長機会を設計し、若手は積極的に機会を取りにいく。両方があって初めて、若いころの負荷は人を育てるのである。 濵口誠一 中小企業診断士 【関連記事】 ■ニトリの通年採用に見る盲点―現場に突きつけられる「終わらない新人育成」 (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63175650-20260429.html ■人手不足倒産は会社の「自己責任」なのか? (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63144956-20260415.html ■「食えない資格」中小企業診断士が会社員に注目されるようになった理由(濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/62650313-20250919.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万?(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール 濵口誠一 中小企業診断士】 従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。 言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。 公式サイト https://billion-break.com/ X:https://x.com/hamatoukon @hamatoukon シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



