![]() このニュースを見て、多くの人は「なぜRIZAPが建設なのか」と感じたはずだ。RIZAPといえば、ダイエットや筋トレの印象が強い。急に工事現場や職人の世界に向かうとなれば、違和感が出るのは自然である。 ただし、RIZAPを単に筋トレを教える会社と見ると、このニュースの本質を読み違える。むしろ注目すべきは、未経験者を採り、教育し、トレーナーとして現場に出せる人材に育ててきた仕組みである。フィットネス業界経験がない人材を採用し、一定の水準まで引き上げる。この育成の型が、RIZAPの見えにくい資産である。ここが活かしたい強みなのだ。 建設業界でも大きな課題は人手不足と育成である。RIZAP建設を見るなら、建物より先に、この「人を育てる型」が建設現場でも通用するかを見なければならない。 したがって、このニュースは「RIZAPが建設業に入る」という話だけでは読めない。一般論としては、店舗拡大の経験を内装工事に生かす動きである。しかし、より重要な論点はその先にある。RIZAPがトレーナー育成で培った仕組みを、建設現場の人材育成に移せるのかどうかだ。 企業戦略と組織開発を専門とする中小企業診断士として、成功する事業開発に必要な視点は何か、という観点でこの問題を考えてみたい。 ■成功する事業開発の型 事業開発で大事なのは、どの市場に入るかだけではなく、自社の強みを新しい市場に移せるかどうかである。強みを移せないまま新しい事業を始めても、看板を変えただけで終わりやすい。 強みの移し方には、大きく三つある。販売シナジー、生産シナジー、投資シナジーである。 販売シナジーとは、すでに持っている店舗、顧客接点、営業網、ブランドを使うことだ。生産シナジーは、技術や作り方、品質管理の力を別の市場に使うことを指す。投資シナジーは、研究開発で積み上げた知識を、新しい商品やサービスに生かす考え方である。 つまり、事業開発は新しいことを始める話ではない。自社がすでに持っている武器を、別の場所で使い直す話である。 セブン銀行は、販売シナジーの例として分かりやすい。2001年に「セブン‐イレブンにATMがあったら便利なのに」という顧客の声から生まれた。ここで生きた強みは、全国に広がるセブン‐イレブンの店舗網である。 コンビニは、駅前にも住宅地にもある。朝でも夜でも立ち寄れる。銀行の支店よりも、日常に近い場所だ。セブン銀行は、そのアクセスのしやすさをATMという金融サービスに変えた。これが販売シナジーである。 生産シナジーの例としてはHondaが挙げられる。四輪車市場への参入では、二輪車のノウハウを頼りに、独自の発想と技術で挑戦した。つまり、まったくゼロから自動車を作ったわけではない。二輪で培った技術者の力、エンジンへのこだわり、ものづくりの経験を四輪に移したのである。 投資シナジーの例としては、富士フイルムがある。写真フィルム事業が縮小する中で、化粧品事業へ転換した。同社は、インクジェットペーパーの酸化防止剤研究やナノテクノロジーを、アスタキサンチンのナノ化に応用した。写真の会社が突然、化粧品を始めたのではない。研究開発の蓄積を、肌の老化研究や化粧品開発に移したのである。 ■リクルートの特殊な成功事例 特殊な成功事例としてはリクルートがある。リクルートの原点は、求人広告のビジネスだった。企業の求人情報を集め、仕事を探す人に届ける。読者が比べやすい形に並べ、応募につなげる。これが基本の型である。 その型を、リクルートは別の市場に移していった。住宅では、物件を売りたい・貸したい会社と住まいを探す人をつないだ。美容では、来店してほしい美容室と美容室を探す人を結びつけた。旅行では宿泊先と旅行したい人をつないだ。 つまり、リクルートが移したのは、店舗網でも工場でも素材技術でもない。情報を集める、比べられる形にする、選ぶ人と売りたい会社をつなぐ、という事業の型である。 ■RIZAP建設成功の要件 RIZAP建設は、販売シナジー、生産シナジー、投資シナジーのどれにも当てはまりにくい。 近いのはリクルート型であるが、難易度は高い。なぜなら、持ち込む強みが目に見えにくいからだ。店舗網なら場所を見れば分かる。エンジン技術なら製品に表れる。研究開発なら特許や成分に落とし込める。だが、仕組みはそう簡単に見えない。 求人広告の型を住宅に移す時、リクルートは求人票をそのまま住宅情報に置き換えたわけではない。住宅なら物件情報、美容なら店舗情報、旅行なら宿泊情報というように、市場ごとの選ばれ方に合わせて作り直した。型は同じでも、中身は翻訳している。 RIZAP建設も同じだ。トレーナー育成の仕組みを、そのまま建設現場に持ち込んでも通用しない。建設には安全、資格、品質、工期、現場の上下関係がある。成功するには、RIZAPの育成の型を、建設業の言葉と手順に置き換える必要がある。 RIZAP建設を見るうえで、最初の論点は採用ではない。未経験者を何人集めたかより、その人たちをどのように育てるかが大事だ。建設現場では、人数だけ増えても戦力にはならない。安全に動ける、手順を守れる、先輩の指示を理解できる。そこまで育って初めて現場の力になる。 次に見るべきは、教育が気合いに頼っていないかである。RIZAPらしさが本当にあるなら、育成の段階、進み具合の確認、つまずいた時の支援が仕組みになっているはずだ。誰が教えても一定の水準まで育つ。ここまで作れていれば、型の移植は進んでいる。 最後の論点は、現場に残る人が増えるかどうかだ。建設業の人手不足は、採れないだけでなく、続かないことにも原因がある。RIZAPが未経験者を育て、辞めにくい環境を作れるなら、この事業開発には意味が出る。反対に、採用の話だけが目立ち、育成と定着の中身が見えないなら、RIZAP建設は看板先行で終わる可能性が高い。 ■売上よりも、今後注目すべきこと 「建設業はそんなに甘くない」という反論は正しい。ただし、その反論だけでRIZAP建設を切り捨てるのも早い。見るべきは、RIZAPが建設業の厳しさを理解しているかではない。その厳しさを前提に、育成の仕組みをどう作り替えているかである。 一方で、「すでに半年間の実績があるなら大丈夫ではないか」という見方もある。新規事業で最初の半年を走ったということは、少なくとも採用、教育、現場投入、顧客対応のどこかを実際に動かしている。 見るべきポイントは、どの部分までできているか、だ。未経験者を採用できたのか。教育の手順は作れたのか。現場で事故や品質問題を起こさずに回せたのか。辞めずに残っている人はいるのか。ここに数字や事例が出てくれば、楽観論には根拠が生まれる。 ただし、半年動いたことと、事業として勝てることは別である。初期は勢いで回ることがある。経営者が直接見ているから何とかなる場合もある。少人数だから事故が起きていないだけかもしれない。RIZAP建設が本当に強いかどうかは、半年の実績を次の規模に広げても、同じ品質で再現できるかにかかっている。 今後のニュースで見るべき点は三つだ。第一に、未経験者の育成手順が安全教育や資格取得と結びついているか。第二に、現場の品質や工期を守りながら人を育てられているか。第三に、半年間の実績を、別の現場や別の人材でも再現できるかである。 勝敗は、短期的な売上ではなく人を育てる型を、建設現場で安全に、何度も再現できるかに表れる。 濵口誠一 中小企業診断士 【関連記事】 ■「楽すぎるから辞めたい」は甘えか?若手が不満を抱く“ぬるい職場”に欠けた視点 (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63187930-20260505.html ■ニトリの通年採用に見る盲点―現場に突きつけられる「終わらない新人育成」 (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63175650-20260429.html ■人手不足倒産は会社の「自己責任」なのか? (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63144956-20260415.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万?(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール 濵口誠一 中小企業診断士】 従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。 言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。 公式サイト https://billion-break.com/ X:https://x.com/hamatoukon @hamatoukon シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



