![]() この記事では、「昔はもっと大変だった」という昔話が新人を絶望させる理由と、経験談のうまい伝え方について、氏の著書『新人社員が職場に定着する入社初日の魔法 離職を防ぐオンボーディング戦略のすすめ』(WAVE出版)から、再編集してお届けします。 ■「昔はもっと大変だった」――過去を押しつける昔話マウントの破壊力 職場で、先輩や上司が自分の若い頃の苦労話や武勇伝を、得意げに語る場面。あなたの周りでも聞き覚えがあるのではないでしょうか。 「俺たちの若い頃は、徹夜で資料作成なんて当たり前だった」 「今の若手は恵まれている。スマホもパソコンもなかった時代はもっと大変だった」 こうした言葉を聞かされた新人社員は、素直に感心したり、尊敬の念を抱いたりするでしょうか。多くの場合は「だから何?」「昔と今は違うのに」と心のなかで距離を置きます。これは新人社員の心を閉ざし、世代間の溝を深める「悪魔の言葉」です。 ■悪魔の言葉である理由 「昔話マウント(自分の過去の経験を持ち出して優位に立とうとする行為)」は、過去の苦労を美化し、若い世代が直面している現実や価値観を否定する言葉です。「昔はもっと大変だった」という言葉の裏には、「今の君たちは楽」「根性が足りない」「もっと苦労すべき」というメッセージが隠されており、一方的な価値観を押しつけ、ハラスメントと受け取られる可能性もあります。 例えば、あなたが最新の電気自動車の静かさや環境性能に感動しているとき、年配の人から「昔の車は排気ガスがすごくてエンジン音もうるさかった。それに比べたら、今は楽でいい」と言われたら、どう感じますか。「技術が進歩した今と比べられても……」と思いませんか。 新人社員も同じです。彼らが生きているのは「今」であり、直面している困難も「今」特有のものです。労働環境、求められるスキル、価値観は大きく変化しています。その変化を無視し、過去の基準を持ち出すのは建設的ではありません。むしろ、「この人は今を理解していない」「話が通じない相手だ」とコミュニケーションを拒絶される原因になります。「昨日の淵は今日の瀬」というように、時代は移り変わっているのです。 私が研修を担当した部署でも、歓迎会で、50代の部長が新人社員に延々と新人時代の武勇伝を語っていました。「俺が若い頃は、毎日終電まで働いて、休日も返上も当たり前だった。上司の言うことは絶対!君たちは定時で帰れるし、有給も取れる。本当に恵まれている」と。彼はただ苦笑いを浮かべるしかなく、後日「あの話を聞いて、この会社で長く働くのは無理だと思いました。価値観が違いすぎて息が詰まります」と漏らし、結局1年が経つ前に退職。悪意はなくても、昔話マウントにより優秀な人材を失ったのです。 ■相手に「共感」し、自分の経験は「参考」として伝える もちろん、過去の経験から学べることはたくさんあります。先人の知恵は尊重すべきです。しかし、それを伝えるのであれば、「自慢」や「説教じみた比較」ではなく、「共感」と「具体的な参考・アドバイス」であるべきです。 ・声かけ例 「私も若い頃、飛び込み営業で苦労しました。〇〇さんも、新しい環境で大変だと思います。私の場合は、お客さまの話を聞くことに集中したらラクになったので、参考になるかもしれませんね」 ここでのポイントは、まず相手の「今」の状況や感情に共感して理解を示し、そのうえで自分の経験を、あくまで「一つの参考情報」として、謙虚に提供することです。決して自分の経験を絶対的なものとして押しつけたり、相手の努力を否定したりしてはいけません。時代が違えば、価値観も有効な手段も違うのですから。 「昔はもっと大変だった」という言葉は、百害あって一利なしの「昔話マウント」です。大切なのは、過去にすがることではなく、今の時代の変化を理解し、若い世代の価値観や考え方を尊重する姿勢です。そして、自分の経験を彼らが未来を切り拓くための「知恵」や「ヒント」として、相手への敬意を持って伝えることが、世代を超えた信頼関係を築き組織全体を活性化させる方法です。 あなたの昔話は、新人社員の希望を打ち砕き、心を閉ざさせる「悪魔の言葉」になっていませんか。新人社員に昔話をする前に、まずは相手の話を聞くことから始めましょう。 【あなたの職場の改善ポイント】 自分の過去の苦労話を持ち出して、若手を比較・否定するのはNG。「私も新人の頃〇〇で苦労したから、気持ちはわかるよ」などと共感を示し、経験は参考として伝えましょう。 瀬戸山孝之 日本オンボーディング研究所 代表・組織定着コンサルタント・特定社会保険労務士 【関連記事】 ■「早く戦力になってね」は危険…新人の早期離職を招く“過度な期待” (瀬戸山孝之 特定社会保険労務士) https://sharescafe.net/63228372-20260523.html ■新人の心を折るNGワード「うちはみんなそんな感じだから」が早期離職を招く (瀬戸山孝之 特定社会保険労務士) https://sharescafe.net/63228330-20260523.html ■新人への「すぐに慣れるよ」は逆効果!“無責任な励まし”の落とし穴 (瀬戸山孝之 特定社会保険労務士) https://sharescafe.net/63227558-20260523.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール 瀬戸山孝之 日本オンボーディング研究所 代表・組織定着コンサルタント・特定社会保険労務士】 ![]() パーソルテンプスタッフ株式会社にて、営業職18年・マネージャー職14年を経験。これまでに累計1万5000人以上の転職支援と、800社以上の企業の定着支援に従事する。 その現場経験のなかで、離職の真因が「入社初日」の対応にあることを突き止め、心理学と組織論を融合させた独自の「3ステップ・オンボーディング」メソッドを確立。 同社にて「スタッフコンシェルデスク」の立ち上げにかかわり、現在は年間2万人以上の新人の就業支援を行う傍ら、そのトラブル防止や職場定着に向けた人材育成研修を社内外で実施している。 「人が辞めない」「人が働きたくなる」職場づくりの実現をビジョンに掲げ、全国で離職防止に関する情報発信をしている。 公式サイト:https://sr-setoyama.com/sns シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



