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テレビ朝日系バラエティー「あのちゃんねる」で5月18日に放送された企画をめぐり、番組側は不適切な質問や意図的な演出を謝罪した。

問題になったのは、番組内であのちゃんが嫌いな芸能人の名前を出した企画である。放送後にネット上で話題となり、番組側は、企画・演出によって、あのちゃんにとっても本意ではない状況を招いたと説明した。さらに、あのちゃん本人も番組側に改善を求めていたとされ、降板意向を示したことで、単なる炎上ではなく、番組と出演者の関係そのものが問われる問題に広がったのである(参考:あの、衝撃“降板宣言”の伏線「不本意な状況が続いた」 思い入れ強い冠番組で苦渋の決断 オリコンニュース 2026/05/24)。

一般的には、テレビのコンプラが甘かった、演出がやりすぎだった、出演者への配慮が足りなかったという話になる。もちろん、それは間違いではなく、番組側が謝罪している以上、制作側の責任は重い。

ただし、そこで話を終わらせると、一番大事な問いが消えてしまう。なぜ途中で止められなかったのか、という点である。企画を考えた人がいる。収録に関わった人がいる。編集で残すかどうかを判断した人がいる。放送前に確認した人もいるはずである。それでも結果として、問題のある形で放送された。

ここに、組織の怖さがある。現場でまずいと感じた人がいても、その声が止める判断に変わらなければ、問題はそのまま進む。違和感は単なる反対意見ではない。内側の理屈が、世間の常識からずれ始めたことを知らせるサインである。

この構造は、テレビ業界だけにあるものではない。どんな職場でも、成果を出したい、納期を守りたい、上司の判断を通したいという空気が強くなると、危ないサインは後回しにされる。外から見ればおかしいことでも、組織の中では仕方ないことに見えてしまう。

だから、あのちゃん降板騒動を芸能界だけの特殊なトラブルとして眺めてはいけない。本当に問うべきなのは、自分の職場でも、現場の違和感が止める判断に変わる仕組みがあるかである。組織開発を専門とする中小企業診断士として、今回の問題を組織の視点で考えてみたい。

■組織が止まらない理由
この手の問題で見落とされやすいのは、放送された場面だけが問題ではないという点である。テレビ番組は、思いついたものがそのまま流れるわけではない。企画を考え、収録し、編集し、放送前に確認する。そのいくつもの段階を通って、ようやく視聴者の前に出る。つまり、今回の件でも、途中で立ち止まる機会は一度ではなかったはずである。

ここで問うべきなのは、なぜ誰も何も感じなかったのかではない。むしろ、感じた人がいたとしても、なぜ止める判断まで届かなかったのかである。ここに、組織の弱さが出る。

番組制作なら、面白い場面を作りたい。話題になる内容にしたい。放送に間に合わせたい。そうした目的がある。だが、目的が強くなりすぎると、違和感を口にする人が邪魔に見えてくる。

さらに、一度走り出した企画は、途中で止めにくい。会議で決まった。関係者に連絡した。収録した。編集した。放送日が近い。進めば進むほど、今さら止められないという気持ちが強くなる。危ないと思っても、まあ大丈夫だろう、ここまで来たから進めよう、と考えやすくなる。

このとき組織は、止める理由よりも、続ける理由を探し始め、問題が小さく見える材料を集める。炎上まではしないだろう、本人もその場では話していた、編集で何とかなる。そうやって、最初の違和感が少しずつ薄められていく。

違和感を止まって考えるべきサインとして扱えるか。それとも、進行を邪魔する声として片づけるか。そこに、問題を未然に止める組織と、炎上してから謝る組織の差が出るのである。

■違和感を止められなかった事例
この構造は、テレビ局だけの問題ではない。組織が自分たちの理屈を優先し、外から見れば危ない判断を止められなかった例は他にもある。

東芝の不適切会計問題は、会社の利益を実態よりよく見せる会計処理が長く続いていた事件である。東芝の第三者委員会報告では、不適切会計の背景として、上司の意向に逆らうことができない企業風土があったと整理されている(参考:第三者委員会の調査報告書全文の公表及び当社の今後の対応並びに経営責任の明確化についてのお知らせ 東芝ホームページ 2015/07/21)。

ビッグモーターの保険金不正請求問題は、数字と成果への圧力が強くなりすぎたときの怖さを示している。中古車販売大手のビッグモーターでは、修理車両に傷をつけるなどして保険金を不正に請求していた問題が発覚した。背景には、過大なノルマや利益を重視する姿勢があったとされている(参考:ビッグモーター社による不正な保険金請求に関する調査委員会の報告書公表について 三井住友海上ホームページ 2023/12/01)。

三菱自動車のリコール対応問題は、車の不具合情報を把握していながら、市場措置やリコールの判断が遅れたとされる問題である。車の不具合は、人の命に関わる。だから本来は、問題情報が出た時点で、安全側に倒して考える必要がある。

ここで大事なのは、不具合の情報がなかったことではない。情報はあったが、社内でどう判断するのか、誰が責任を持つのか、どの段階でリコールに踏み切るのかが分かりにくかった。報告書でも、判断の基準が十分に共有されていなかったことや、会議での責任の所在が不明確だったことが問題点として挙げられている(参考:軽自動車エンジンの届出済みリコールに関する検証結果について 国土交通省 2012/12/19)。

東芝は、上に逆らえない空気を示した。ビッグモーターは、数字と成果への圧力が現場の不正を止まりにくくする怖さを示した。三菱自動車は、情報があっても責任や基準が曖昧だと判断がぼやける怖さを示した。

あのちゃんねるの騒動も、この構造で見るべきである。問題は、誰かが違和感を持ったかときに、止める判断に変わる組織だったかどうかである。

■最も危険なのは他人事と思うこと
今回の騒動を見て、テレビ業界は特殊だから自分の職場とは関係ないと思うのは簡単だ。しかし、その態度こそ危ない。営業、採用、広報、商品開発、SNS運用など、どんな仕事でも、成果を出すため、納期を守るため、上司の判断を通すために、違和感を飲み込む場面はある。

だから見るべきなのは、自分の組織にも、現場のNOが言いにくい空気はないか、違和感を伝えた人が面倒な人として扱われていないか、社内の都合で世間から見れば危ない判断を正当化していないか。そこを振り返ることが必要である。

あのちゃん降板騒動が教えているのは、誰が悪いかだけではない。他社の炎上を特殊なケースとして眺める組織ほど、自分たちの中にある同じ危うさを見落とすということだ。テレビ番組の騒動を、自社の組織を見直すレンズとして捉えられるか。そこに、同じ失敗を繰り返す組織と、未然に止まれる組織の差が出るのである。


濵口誠一 中小企業診断士


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【プロフィール 濵口誠一 中小企業診断士】
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従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。
言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。

公式サイト https://billion-break.com/
X:https://x.com/hamatoukon @hamatoukon





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