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厚生労働省は2026年5月から9月まで「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」と題し、職場の熱中症予防を呼びかける取り組みを進めている。温暖化が進むなか、職場での熱中症は深刻な問題で、2025年には死傷者が1,803人となり、統計開始以来最多となった(参考:令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 厚生労働省)。

環境省の熱中症予防情報サイトでも、6月14日17時時点で、熱中症への警戒が必要な地域が示されている。夏本番を待つ前に、現場の暑さはもう始まっている。

多くの会社では、ポスターを貼り、飲み物を置き、手順書を作る。それ自体は必要だ。だが、紙の上で対策が整っていても、現場の温度を知らない社長の会社では、危険は見落とされる。

社員の命を守る経営判断として、社長はどんな視点で熱中症対策に取り組むべきなのか。倉庫でバイクを押し、営業や施工の現場も見てきた経営者として、この問題を考えてみたい。

■「やっている」と「守られている」は違う
熱中症対策は、すでに会社の気遣いではなく、経営の仕事になっている。2025年6月からは、一定の暑さの中で作業を行う場合、報告体制の整備、手順の作成、関係者への周知が事業者に求められるようになった。

対象の目安も具体的である。気温31度以上など、一定の暑さの中で、連続1時間以上、または1日4時間を超える作業が見込まれる場合だ。数字だけ見ると、どこか役所の資料のように感じる人もいるかもしれない。

だが、現場では違う。倉庫の中、屋根の上、駐車場、搬入口、イベントの設営場所。風が抜けない場所では、気温だけでは分からない暑さがある。荷物を持つ。ヘルメットをかぶる。長袖の作業着を着る。それだけで、体感は一段変わる。

ここで大事なのは「温度計」だけではない。温度計は必要だが、温度計を見て終わりにする会社は危ない。現場の温度とは、数字と、人の表情と、動きの鈍さと、休憩を言い出しにくい空気の全部である。

あなたの会社の社長は、今年、現場の温度を自分の肌で感じただろうか。ここが最初の分かれ目である。

■なぜ今なのか、数字がもう逃げ道を消している
2025年の職場の熱中症による死傷者は1,803人。2024年より約43%増えた。死亡者は19人で、前年より約39%減った。さらに2025年夏の平均気温は、基準値からプラス2.36度で、統計開始以来最高だった(前述の厚生労働省調査より)。

この数字の並びは重い。けがや休業に至る人は増えた。一方で、死亡者は減った。暑さは厳しくなっているが、早く気づき、早く対応すれば、最悪の結果は減らせる可能性がある。だからこそ、今の焦点は「予防」だけでなく「発見と対応」に移っている。

社長が会議室で「今年も暑いから気をつけよう」と言うだけでは足りない。体調が悪いと言える空気があるか。誰に報告するのかが決まっているか。倒れる前に作業を止める権限が現場にあるか。救急搬送の判断を誰がするのか。

これらは、現場任せにすると曖昧になる。曖昧なまま夏に入ると、最初の異変が起きた瞬間に迷う。迷っている時間が、一番危ない。

これまで、社員の信用を失う怖さを何度も見てきた。お金は後から取り戻せる。だが、社員から失った信用は簡単には戻らない。暑さ対策も同じだ。事故が起きてから設備を買っても、社員の中には「社長は見ていなかった」という記憶が残る。

■現場に行かない社長ほど、暑さを軽く見る
経営者は数字を見る。売上、利益、人件費、採用費、稼働率。数字を見ることは大事だ。だが、数字だけを見ていると、人の限界を見落とす。

昔、倉庫でバイクを押していた頃、作業は単純に見えた。だが、実際にやると体にくる。重いものを動かす。何度も往復する。汗が止まらない。立っているだけなら大丈夫でも、作業が始まると話は変わる。

この差は、エアコンの効いた部屋では分からない。現場を知らない社長ほど、「水分を取ればいい」「休憩を増やせばいい」と言う。もちろん、それも必要だ。だが本当の問題は、社員が休憩を取りやすい空気になっているかである。

現場には、我慢が美徳になる瞬間がある。先輩が動いているのに自分だけ休みにくい。納期があるから言い出せない。新人だから遠慮する。職人だから弱音を吐けない。こういう空気を変えるのは、マニュアルではない。社長の背中である。

社長が現場に出て、「この暑さなら止める」と言う。責任者に「迷ったら止めていい」と言う。朝礼で「倒れる前に言うのが仕事だ」と言う。これだけで、現場の温度は変わる。

■傍観者でいられない3つの理由
この話は、建設業や倉庫業だけの問題ではない。読者が会社員でも、個人事業主でも、取引先を見る立場でも関係がある。職場の暑さ対策は、その会社の経営姿勢を映す鏡だからだ。

1つ目は、社員の声が上に届く会社かどうかが分かることである。熱中症は、初期の違和感を早く拾えるかが重要だ。小さな不調を言えない会社では、他の問題も上がってこない。

2つ目は、コストの使い方が見えることである。冷却設備、休憩場所、飲料、作業時間の見直し。どれもお金はかかる。だが、採用難の時代に人を失うコストはもっと高い。社員を守る投資を後回しにする会社は、いずれ採用でも苦しむ。

3つ目は、社長の関心がどこにあるかが見えることである。現場を歩く社長は、危険を早く見つける。現場を歩かない社長は、報告書で初めて異変を知る。どちらの会社で働きたいかは、読者自身が一番よく分かるはずだ。

■社長が現場に出る意味
「社長が毎日現場に行く時間はない」という反論はある。もちろん、すべての現場を毎日見る必要はない。だが、夏本番の前に一度も現場の温度を感じていないなら、それは経営の優先順位がずれている。

まず、昼前後の一番暑い時間に現場へ行く。温度計を見る。作業者の顔を見る。休憩場所まで歩く。水分が取りやすい場所にあるかを見る。誰に報告すればいいかを、その場で聞く。

これだけで、会議室では見えないものが見える。日陰だと思っていた場所に熱がこもっている。休憩所まで遠い。責任者が忙しすぎて報告を受けられない。新人が手順を知らない。そういう小さなズレが、事故の入口になる。

熱中症対策は、ポスターの枚数では決まらない。現場の温度を、社長が自分の問題として持てるかで決まる。

2026年の夏、暑さはもう福利厚生の話ではない。社員の命と信用を守る経営判断である。社長が現場の温度を知らない会社は、これから人が残らない会社になっていく。確実に。


都築博志 株式会社グリーンイノベーションズホールディングス代表取締役


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■プロフィール 都築博志 株式会社グリーンイノベーションズホールディングス代表取締役
tsuzuki
IT、建設、人材、金融領域で5社のグループ会社を経営し、23年間で累計売上816億円超、最高年商76億円を達成。エンジェル投資23社。数々の新規事業と失敗を経験しながら、挑戦する人を応援する経営者コミュニティ「BIZFIT」を運営している。


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