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プレゼンの直前。面接会場のドアの前。苦手な上司との面談が始まる数分前。突然、心臓がバクバクして頭が真っ白になってしまった経験はありませんか。

そんなとき、多くの人は「落ち着こう」「緊張してはいけない」と自分に言い聞かせます。しかし実は、その努力がかえって緊張を高めてしまうことがあります。

精神科外来でも「大事な場面になると頭が真っ白になる」「本来の力を出せなくなる」という相談は少なくありません。そんなときに私がお勧めしている方法の一つが、たった30秒でできるハミングです。

特別な道具も場所も必要ありません。低い声で静かにハミングするだけで、緊張でこわばった心身を落ち着かせ、本来のパフォーマンスを発揮しやすくなります。精神科医として、その理由と方法についてお伝えします。

■なぜ「落ち着こう」とするほど焦ってしまうのか
緊張しているとき、私たちの体にはさまざまな変化が起こります。

心拍数が上がる。
呼吸が浅くなる。
筋肉が硬くなる。
頭の中が失敗への不安でいっぱいになる。

これは異常な反応ではありません。むしろ、大切な場面に備えて体が準備をしている自然な反応です。

ところが、その状態で「失敗したらどうしよう」「絶対にうまくやらなければ」と考え続けると、さらに緊張が強まり、言葉が出てこない、声が震える、頭が真っ白になるといった悪循環に陥りやすくなります。

そんなときは、考え方を変えようとするより先に、まず体を落ち着かせる方が効果的な場合があります。

■精神科医がお勧めする「30秒ハミング」
そこでおすすめなのが「30秒ハミング」です。やり方はとても簡単です。

1 鼻からゆっくり息を吸う
肩の力を抜き、楽な姿勢をとります。

2 息を吐きながら「すー」と低くハミングする
周囲に聞こえない程度の小さな声で十分です。「さしすせそ」の「すー」です。

3 喉や胸の振動を感じながら20~30秒続ける
ポイントは、「低く」「ゆっくり」「長く」です。上手に歌う必要はありません。振動を感じながらゆっくり息を吐くことが大切です。

■なぜハミングで落ち着きやすくなるのか
なぜ、ハミングで落ち着きやすくなるのでしょうか?

声を出しながらゆっくり息を吐くと、自然と呼吸がゆっくりになります。近年、こうしたゆっくりした呼吸は、自律神経のバランスに関係する心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)を改善し、ストレスへの適応を助ける可能性があることが報告されています(※1)。

心拍変動(HRV)は、自律神経の働きをみる目安の一つです。一般にHRVが高い人ほど、緊張しても落ち着きを取り戻しやすいと考えられています。ゆっくりした呼吸はHRVを改善し、自律神経の調節を助ける可能性が報告されています(※2)。ハミングは自然に呼気を長くするため、こうした効果を得やすくする方法の一つと考えられています。

難しい理論を覚える必要はありません。ポイントは、「緊張したら頭で戦う前に、まず体を落ち着かせる」という発想です。

■こんな場面で役立ちます
この方法のよいところは、どこでも実践できることです。

例えば、
*プレゼン会場へ向かうエレベーターの中
*オンライン会議の開始前
*面接の待合室
*苦手な人との面談前
*初対面の相手との商談前 など

実際に外来では、「会議の前にやると頭が整理される」「発表前の焦りが和らぐ」「呼吸が整う感じがする」と話される方もいます。もちろん効果の感じ方には個人差がありますが、特別な準備が不要で、すぐ試せる方法です。

■緊張をなくそうとしなくていい
最後に一つお伝えしたいことがあります。緊張は悪者ではありません。大切な場面だからこそ人は緊張します。目指すところは緊張しない自分ではなく、緊張していても実力を発揮できる自分です。

次に頭が真っ白になりそうな場面が来たら、30秒だけ試してみてください。「落ち着かなきゃ」と頑張るよりも、静かなハミングが、あなたの心と体を落ち着かせる助けになるでしょう。

【参考】
(※1)Gerritsen RJS, Band GPH. Breath of Life: The Respiratory Vagal Stimulation Model of Contemplative Activity. Front Hum Neurosci. 2018 Oct 9;12:397.
(※2)Zaccaro A, Piarulli A, Laurino M, Garbella E, Menicucci D, Neri B, Gemignani A. How Breath-Control Can Change Your Life: A Systematic Review on Psycho-Physiological Correlates of Slow Breathing. Front Hum Neurosci. 2018 Sep 7;12:353.


西川晶子 精神科専門医・産業医・医学博士・公認心理師


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■プロフィール 西川晶子 精神科専門医・産業医・医学博士・公認心理師
早稲田大学大学院(心理学修士)を修了後、外務省に入省。その後、スタンフォード大学大学院にてコミュニケーション学修士号を取得。国際協力の現場でメンタルケアの重要性を再認識したことを機に、より直接的に人を癒やす道を志して滋賀医科大学へ学士編入学。卒業後、医師となってからは、精神科医として臨床に携わり、産業医として「働く現場」の快適な環境づくりをサポートしている。現在は、認知心理学と脳科学の知見を統合し、脳への「入力情報」をかえて、コンディションを整える独自のメソッドを共同開発中。「もっと頑張りたい」とか「頑張れない」と思う人々の心の安定性と快適さを引き出し、しなやかなパフォーマンスの発揮を追求している。

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