![]() 新卒が入社して3か月。例年、この時期になると新入社員のメンタル不調や体調不良者が目立ち始めるという人事担当者の声は少なくありません。 人材総合サービスの株式会社スタッフサービス・ホールディングスが行った調査によると、新卒3年未満で退職した正社員の3人に1人が入社半年未満で離職しています。 さらに、初めて辞めようかなと思った時期については、1か月目~3か月未満が最多(18.1%)で、新入社員にとって入社からの3か月間は、最も「退職」の2文字が頭をよぎりやすい最初の正念場と言えるでしょう(参考:新卒3年未満で正社員を退職した若年層の意識調査 株式会社スタッフサービス・ホールディングス 2025/07/22)。 「まだ入社して3か月しか経っていないのに、辞めたいなんて甘えではないか」と感じる方も決して少なくないはずです。もちろん、その指摘も一理あります。しかし、この「辞めたい」という言葉を表面的に捉えて切り捨ててしまって良いのでしょうか。 結論から言えば、その表面的な言葉で判断するのは避けるべきです。そこには新入社員なりの深い葛藤やSOSのサインが隠れていることが多いからです。 新卒の「辞めたい」の裏にある心理と、企業が取るべき具体的な対策について、600社以上の採用・育成支援に携わってきた人材コンサルタントとして考えてみたいと思います。 ■「辞めたい」は「退職したい」ではない―言葉の裏にある心理 一般的に、新入社員が早期離職をすると「甘えている」「忍耐力が足りない」といった根性論で片付けられてしまいがちです。 しかし、新入社員が発する「辞めたい」は、必ずしも文字通りの退職願望とは限りません。その本質は、心の中に蓄積された強い不安や焦りの翻訳であり、周囲への切実なSOS信号であることが多いのです。 社会人経験の浅い新入社員は、自分が一体何に悩んでいて、何に対して不安を感じているかすら整理できていないことが多々あるからです。 「この仕事は自分に向いていないから辞めたい」と言っていても、実際は同期と比較して劣等感を抱いていたり、期待に応えられず焦りを感じていることがあります。さらにそういった不安や焦りを抱えながらも、最初から周囲に打ち明けることを諦めているケースも少なくありません。 新卒3年以内に退職した22歳~29歳の社会人を対象に自社で行った調査によると、対象者の9割以上が退職前に上司との定期的な面談(1ON1ミーティング等)があったと回答しているにも関わらず、面談が「非常に効果があった」と回答した割合はたった17.3%にとどまりました。面談で上司に「十分に本音を話せていた」と回答した割合も16.3%に留まり、8割以上が本音を隠した状態で面談に臨んでいることが分かりました。 その理由は上位から「何をどう伝えればいいか分からない」「話しても変わらないと思った」「評価や立場に悪影響があると思った」と続き、若手社員の戸惑いや諦め、恐れが明らかになりました。 ここから見えてくるのは「定期的にコミュニケーションを取っているから大丈夫」という思い込みの危険性です。重要なのは、新入社員が安心して素直に話せる環境を整えることです。そうしなければ、新入社員は不安や焦りを解消するための「成長への対話」を諦め、最終的に「辞めたい」という極端な選択に繋がりやすくなります。 入社3か月目の段階で必要なのは、業務の習熟度を測るだけでなく、丁寧な対話を通じて不安の真因を探り、安心して成長できる環境を整備することなのです。 なぜ新入社員の「辞めたい」という思いは、この入社3か月目というタイミングで表面化するのでしょうか。その理由は、入社直後と現在の環境とのギャップにあります。 入社直後は研修中心で、周囲の手厚いサポートもあり、新入社員は強い不安を感じにくい一方、配属後は徐々に業務を任され、「思っていた仕事と違う」「思うように成果が出せない」「同期と比べて出来ない」「職場に馴染めない」といった現実の壁に次々と直面することになります。この理想と現実のギャップがストレスとなり、蓄積された不調や悩みが「辞めたい」という考えに至らせるのです。 ■現場のリアル―新人が本当に抱える3つの不安 ここからは、入社3か月目までの新入社員が直面しやすい3つの不安を紹介します。 (1)「思っていた仕事と違う」 社会人向け教育サービスの提供を行うアルー株式会社が行った調査によると、従業員規模に関わらず、新入社員の約45%が入社後ギャップを感じています(参考:2025年卒新入社員が抱える不安や入社前後でのギャップについてのアンケート調査結果 アルー株式会社 2025/05/07)。 なぜ、しっかりと企業研究をしていたはずなのに、新入社員の約2人に1人が、「思っていた仕事と違う」という罠に陥るのでしょうか。 その正体こそが、組織心理学で言われる「リアリティ・ショック」です。リアリティ・ショックとは、現実と理想のギャップを意味しており、内定した会社に入社してみたら、就活時代に自分が思い描いていた会社と違ったと、ネガティブなギャップに不安を感じてしまうことを指します。 そもそも環境が大きく変わる時ギャップはつきものですが、新入社員の置かれた状況は一味違います。学生から社会人へと立場が変わり、責任の大きさや生活リズムが一変するからこそ、そのギャップはより巨大化し、不安を抱かせる原因となるのです。 (2)「同期と比べてできない」 新入社員にも様々なタイプがいます。最初から何でもそつなくこなすタイプもいれば、腹落ちして正確に実行できるようになるまでに時間がかかるタイプもいます。長い社会人生活においてこの時期の習熟度の差などほんの一瞬の差にすぎません。 しかし新入社員にとっては違います。学生という同じ立場を経て、同じ会社に同期として入社した、対等な存在だからこそ、そこで後れを取ることは大きな焦りになります。「なぜ同じスタートラインだったはずなのに自分だけできないのか」と劣等感や焦りを感じ、その焦りからまた空回ってしまう。周囲にどう思われているかが怖くなり、先輩や上司へのコミュニケーションが消極的になっていく。その結果、疑問をすぐに解消できず、先輩から得られる学びの量にも差がつき、ますます同期との差が開いてしまうのです。 この負のスパイラルの結果、新入社員は「この仕事に向いていない」「ここには自分の居場所がない」「これ以上醜態をさらしたくない」と追い詰められ、「辞めたい」という気持ちを沸々と募らせていくことになります。 (3)「職場に馴染めない」 新入社員にとって会社とは、これまで接したことのない多様な年代の人が集まり、仕事という彼らにとって未知のものに精通したプロの大人たちに囲まれて過ごす場です。右も左もわからない新入社員が常に緊張を感じていることは言うまでもありません。 だからこそ、「こんなことを質問していいのか」と躊躇し、「会議の邪魔になるのでは」「嫌われたらどうしよう」と自分の意見を押し殺したり、あるいは周囲の意見に安易に同調してその場をやり過ごそうとすることもあります。このような状態は、心理的安全性が低い状態と言えます。 組織開発・人材育成支援のALL DIFFERENT株式会社が行った調査によると、心理的安全性が低い会社では対象者の85.6%が安心して自分の考えを伝えられないと回答しています(参考:職場の心理的安全性と社員の主体性発揮に相関関係 ALL DIFFERENT株式会社 2025/11/28)。 これまで見てきた新入社員の不安は、いずれも「甘え」ではなく新しい環境に移行する過程で多くが直面する「適応課題」なのです。 ■周囲はどう向き合うべきか―「辞めたい」をチャンスに変える対話 「とはいえ、本当にただの甘えのケースもあるのでは」と思われる方もいるでしょう。確かにその側面がゼロとは言い切れません。しかし、私たちが最初から「甘え」だと決めつけてしまっては、新入社員が会社に適応し、輝けるはずだった機会を組織自らが奪ってしまうことになります。 だからこそ、まずは新入社員の「辞めたい」を否定せずに受け止め、その奥にある不安の真因を聞き取る対話が極めて重要なのです。 目線を「辞めるか、辞めないか」という二者択一から、どうすれば不安を取り除くことができるかという解決策へ移すこと。それが結果として、個人が「いかにこの職場で成長していくか」の会話へと進化します。 こういった丁寧な関わりを通して、上司や先輩への信頼、職場への心理的安全性が構築されます。新入社員のSOSに耳を傾けるその実直な積み重ねこそが、結果として離職を防ぐだけでなく、組織全体をより強く、成熟したものへと変えていくのです。 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 【関連記事】 ■ 「GW明け離職」が一服で安心するのはまだ早いー若手社員に広がる“静かな退職” (河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/63247531-20260601.html ■GW明け離職される会社の共通点~企業が対策すべき3つのポイント~ (河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/63170113-20260426.html ■「大手=安定」は最大の罠――“非”終身雇用時代の『生存戦略』(河本英之 人材コンサルタント) https://sharescafe.net/63119483-20260405.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役 ![]() 2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。 公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/ Instagram:@seedsandgrowth_saiyo シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


