![]() 経営コンサルタントで士業(特定行政書士)としても20年以上のキャリアをもつ横須賀輝尚氏は、開業当初からWEBマーケティングを強みとして活動し、生成AIが登場するとすぐに業務に活用、研究を深めてきました。 生成AIの本質を理解したうえで、AIに淘汰されるのではなく、むしろそれを活用して生き残るために士業はどうすればいいのか?同氏の新著『生成AI時代に士業が生き残る技術』(TAC出版)より、一部抜粋・編集してお伝えします。 ■過去は守られていた士業の報酬 生成AIの台頭による士業の今後を理解するため、まず士業の報酬の歴史の話をしましょう。これは有名な話なので、簡単な解説にとどめておきますが、例えば、弁護士は2004年まで、税理士は2002年まで、それぞれの会によって報酬額が決められていました。業務によって価格が決まっており、士業はその決まりによって報酬を請求していたのです。 2000年以前は、インターネットがまだない時代です。ほかの事務所の報酬額を調べることも困難でしたし、そもそも士業の先生に文句を言うことは簡単ではありません。 本当に、士業は守られていたのです。 とはいえ、自由競争が当たり前の社会では、次第にこうした決まりも成立しなくなっていき、報酬規定は各士業で撤廃されたのです。 その結果、起きたのが「値下げ」の横行です。 ■価格が「無料」になった業務、低価格になった業務 私が行政書士として開業した2003年頃には、すでに価格は自由化していました。しかし、報酬規定に則って費用を請求している士業も存在していて、大きな値崩れはまだ起きていませんでした。 いまや会社設立業務は、税理士が顧問契約を取るためのフロントエンド業務となりました。「会社設立」で検索すれば、いわゆる「0円設立」は山のように出てきます。仕組みとしては、会社設立は無料でやります(司法書士手数料を税理士事務所が負担など)、そのかわり顧問契約を結んでね、というものです。※印紙代や定款認証手数料は依頼者負担 ほかにも、士業による手続きだけではなく、「自分で設立できる」と謳うクラウドサービスもあります。必要事項を入力するだけで、設立申請書類ができてしまうのです。 私の記憶によれば、2003年頃の会社設立の報酬額は、純粋な報酬だけで10万〜15万円でした。少なくとも、会社設立手続きで10万円を切るということはまずありえませんでした。そのくらい、普通に報酬がもらえる仕事だったのです。 では、なぜここまで報酬が下がってしまったのか? それは、報酬が自由化してから、多くの士業事務所が仕事を取るために値下げを始めたからです。もちろん、報酬額がある程度維持されている業務分野もありますが、仕事を取るために値下げをする事務所が増えたのです。値下げをする事務所が増えれば、当然相場価格は下がっていきます。 このように、士業の業務は次第に報酬額の平均相場が下がってきて、現在に至るのです。 確定申告なども同様のことが言えます。私が開業した2003年頃、個人事業主が確定申告をするときに、「マネーフォワード」や「freee」のような便利なものはありませんでした。会計ソフトはありましたが、通帳を見ながら仕訳を自分で行い、会計ソフトに手打ちで入力する。1年分ともなれば相当な量です。ですから、個人事業主でも税理士に確定申告の業務を依頼するという選択肢は普通にあったのです。 ところが、いまはどうでしょう。これだけ優れたツール、ソフト、アプリがあって、数千円程度の投資で済むのであれば、あえて高い報酬を支払ってまで税理士に依頼する理由がありません。また、会計ソフトのMCPサーバ実装、Claude CodeなどのいわゆるAI自動化にともなって、個人のニーズは、より薄まっていると言えます。年商数百万円程度の個人事業主であれば、いまやそのほとんどが自分で確定申告をしています。もちろん、それでもなお税理士に依頼する層はありますが、少なくともこの20年で、税理士に確定申告を依頼する個人は減少したと言えるでしょう。 ■なぜ、値下げが横行したのか? 誤解を恐れずに言えば、お客様から見たら、一般的な士業の業務は誰に頼んでも同じに見えます。もちろん、実際は大きな実力差があるわけですが、例えば、税理士に顧問をお願いすれば、どの税理士も、間違わずに決算をすると考えるでしょう。まさかミスをするなんて、思いもしません。「どの税理士に依頼しても変わらない」となれば、できるだけ安いところに頼みたいと考えるのが人情です。 別の言い方をすれば、価格を下げれば仕事を取ることは決して難しくないのです。そして、基本的に法律で決められた仕事をするだけで、他事務所と特別に何か違うことをするわけでもない。つまり、士業事務所はそもそも業務上の差別化が難しいのです。 2000年代の報酬の流れとしては、ここで2つの潮流に分かれます。ひとつはいま伝えたような低価格路線。もうひとつは、付加価値を付け、ブランディングをして高額化するというものです。 後者は一定の士業に支持され、付加価値を付けて高額化に向かう方向は成功しました。税理士の例で言えば、「提案型」というのが非常に流行りました。他事務所と違って、うちの事務所は資金調達や節税などの提案をします。だから、一般的な税理士事務所に依頼するよりも恩恵が大きいですよ、という具合です。 ブランディング手法も流行りました。出版やセミナー講師を行って他事務所と差別化する。メディアに出演する。こうした他事務所がやらないことに取り組み、差別化をして仕事を取る。2020年前後に、SNSのフォロワー数や、YouTubeのチャンネル登録者数などを競ったのも、似たような手法だと言えます。 値引きで仕事を取る、高付加価値・ブランディングで高額化を狙う。これが士業の価格戦略だったと言えます。ほかにも、コンサルティング業務を行って差別化・高額化するという手法もありますが、長くなるのでそれは割愛することとして、士業の業務に関しての価格の歴史としては、おおむねこのような流れでした。 そして、2020年代には生成AIが登場しました。質問すれば即回答を出し、業務の流れも教えてくれ、書類作成まで補助してくれるのです。 生成AIの登場は、単純業務の価値が激減することを意味します。要は、いままで以上に価格競争が激化する可能性があるということです。士業の特権だった専門性はその価値を失うのです。 では、そんな状況で士業はどう生き抜けばいいのか? そのひとつの解は、答えを出す力よりも問いを立てる力を持つことです。課題感を持って仕事ができれば、自分だけの価値を生み出せて、差別化を図れるでしょう。 横須賀輝尚 士業専門の経営コンサルタント・パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役・特定行政書士・Gensparkインダストリーアンバサダー 【関連記事】 ■士業ビジネスモデルの変化により訪れる「持たざる者」が飛躍する機会 (横須賀輝尚 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/63316475-20260703.html ■士業が稼げなくなる構造を理解すれば生成AIとの協働に辿り着く (横須賀輝尚 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/63314276-20260702.html ■「国家資格だから安泰」は幻想。士業の仕事が無くなるこれだけの理由と生き残る条件とは? (横須賀輝尚 経営コンサルタント) https://sharescafe.net/63314259-20260702.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万?(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 横須賀輝尚 士業専門の経営コンサルタント・パワーコンテンツジャパン株式会社 代表取締役・特定行政書士・Gensparkインダストリーアンバサダー ![]() 主な著作に「会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業」(さくら舎)、「資格起業BIBLE」、「『ムダ仕事』も『悩む時間』もゼロにする GPTsライフハック」(共に技術評論社)などがあり、26冊20万部超の著者。2023年から士業のための生成AI・ChatGPT活用研究を開始。 最新刊「生成AI時代に士業が生き残る技術」を2026年6月にTAC出版より刊行。週刊ダイヤモンド、毎日新聞などメディア掲載も多数。 公式サイト:https://yokosukateruhisa.com/ X:https://twitter.com/yokosuka_ai @yokosuka_ai YouTube:https://www.youtube.com/@40lawyers50/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



