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2026年の春闘は、3年連続で5%を超える賃上げとなりました。数字だけ見れば、紛れもなく明るいニュースです。ところが多くの方が心のどこかでこう感じているのではないでしょうか。「給料は上がっているはずなのに、なぜか生活はちっとも楽にならない」と。この違和感の正体は、単に物価が上がっているからだけではありません。実は、上がった企業の利益が流れ込む「もう一つの財布=株式の配当」の存在に、私たち働き手が気づいていないことにあるのです。投資顧問として20年以上、企業の利益分配と向き合ってきた立場からお伝えしたいと思います。

■賃上げ5%の裏で起きている「実質賃金マイナス」という現実
まず足元で何が起きているのかを整理しておきましょう。連合の集計によれば、2026年の春闘の賃上げ率は加重平均で5%超え。これで3年連続の高水準となりました。報道の見出しだけを見れば、日本の働き手はずいぶん豊かになったように思えます。

ところが、厚生労働省の毎月勤労統計を見ると、まったく違う景色が広がっています。2025年の実質賃金は前年比マイナス、これで4年連続のマイナスとなりました。名目の給料、つまり額面の数字はたしかに2%以上増えているにもかかわらず、物価の上昇分を差し引いた実質では目減りしている、というのが実態なのです。

なぜこんなことが起きるのか。理由はシンプルで、上がった給料を物価上昇が丸ごと食いつぶしてしまっているからです。スーパーで買う食料品、毎月の電気代、ガソリン、外食の1皿。気づけば一つひとつの値段がじわじわと上がり、せっかくの賃上げ分が手元に残らない。給与明細の数字は増えているのに、財布の中身はむしろ減ったように感じる。「賃上げしているのに豊かにならない」という万人の実感は決して気のせいや贅沢な不満ではなく、統計がはっきりと裏付けている事実だ、ということです。

ここで専門家としてお伝えしたいのは、「だからもっと賃上げを要求しよう」という話ではありません。もちろん賃上げは大切ですが、給料という一つの財布だけを見つめている限り、この目減りの構造からは抜け出せない、という視点こそ肝心なのです。発想を変えて、企業から私たちへと流れるお金の道筋そのものを、いったん別の角度から眺めてみる必要があります。

■あなたが気づいていない「もう一つの財布」という視点
私たちは「賃上げ」と聞くと、ほとんど無意識に「企業が働き手に報いること」だと考えます。自分が労働を提供し、その対価として給料を受け取る。ごく当たり前の感覚です。しかしここに一つ、見落とされがちなお金の構造があります。

そもそも賃上げの原資はどこから来るのでしょうか。答えは企業が稼いだ「利益」です。そして企業の利益は、給料、つまり人件費だけに使われるわけではありません。大きく分けて、利益は2つの方向に分配されています。一つは働き手への「人件費(給料)」、もう一つは株主への「株主還元(配当や自社株買い)」です。経営者は毎年稼いだ利益を、この二つにどう分配するかを真剣に考えています。

つまり、企業の利益が伸びて賃上げができるときは、同時にもう一方の財布である「配当」も膨らんでいる可能性が高いのです。賃上げと増配は同じ利益という井戸から汲み上げられる、いわば双子の関係にあります。給料を上げてくれる元気な会社は、株主にも手厚く報いている。これは投資の世界では当たり前の話ですが、働き手の側からほとんど語られることはありません。

ここに、誰も教えてくれない当たり前の事実があります。あなたが労働者として受け取れるのは、「給料」という一つの財布からだけ。しかし、その会社の株主になれば、「給料」と「配当」という二つの財布から、利益の分配を受け取れるようになるのです。

考えてみてください。同じ会社の成長という一つの果実を前にして、働き手としてだけ向き合うのか、それとも働き手であり株主でもある立場で向き合うのか。その立ち位置が変わるだけで、受け取れる果実は一つにも二つにもなります。

■「働き手」であり「株主」でもある時代の恩恵
これは理屈だけの話ではありません。実際のデータがこの二つの財布の存在をはっきりと示しています。

日経新聞の報道によれば、上場企業の配当総額は2026年3月期に初めて20兆円を超える見通しです。これは純利益のおよそ4割に相当し、前年からさらに増えています。配当総額は近年、毎年のように過去最高を更新し続けてきました。賃上げが3年連続で5%を超えているのと、まさに同じ時期に、株主への分配もかつてない規模に膨らんでいる。両者が同時に起きているのは、決して偶然ではなく、企業業績が堅調だという同じ根っこから生まれている現象なのです。

ここで注目していただきたいのは、株式投資の魅力は「株価が上がって儲かる」という値上がり益(キャピタルゲイン)だけではない、という点です。

配当は株を保有し続けているだけで、年に1回や2回、継続的に受け取れる収入です。値上がりを狙って毎日の株価に一喜一憂し、売買のタイミングに神経をすり減らす必要はありません。元気な会社の株主であり続ければ、利益の分配が自動的に振り込まれてくるのです。しかも近年は、20年以上にわたって毎年配当を増やし続ける会社も出てきました。これは「仕組み」としての収入源であり、給料とはまったく別ルートのお金の流れだと言えるでしょう。

具体的にイメージしてみてください。毎月の給与で日々の生活費をまかない、年2回振り込まれる配当金は、家族旅行や子どもへの誕生日プレゼント、ちょっとした外食といった「特別予算」に充てる。生活の土台は労働で支え、暮らしの彩りは株主としての配当で生み出す。配当が振り込まれる通知を見るたびに、自分が応援する会社の成長を実感できる。こうした二段構えのお金の設計が、今や現実に可能な時代になっているのです。

しかも今は、自分が働く会社に限りません。生活の中で「この会社を応援したい」と思える日本企業の成長の果実を、誰でも分けてもらえます。新NISAという制度を使えば、配当にかかる税金は非課税です。金融庁の集計では、NISA口座数は2025年末時点でおよそ2,800万口座まで増えました。働く多くの人が、すでにこの「もう一つの財布」を静かに育て始めているのです。

■「二つの財布」で、自分の生活は自分で守る
とはいえ、こう感じる方も多いはずです。「でも、株で損をするのが怖い」と。この不安はまったく自然なものです。私自身、長年この世界に身を置いてきたからこそ、この怖さを軽く扱うつもりはまったくありません。

ただ、その怖さの大部分は、株式投資を「短期で売り買いして当てるゲーム」だと捉えているところから来ています。一発で大きく儲けようとすれば、当然リスクも跳ね上がります。しかし、配当という「もう一つの財布」を育てることが目的なら、話はまったく別です。無理のない金額で複数の会社に分けて投資し、長く持ち続ける。この「長期・分散・積立」という作法を守るだけで、怖さの多くは取り除けます。

生活費を削って勝負するのではなく、毎日のコーヒー一杯分ほどの金額から、第二の財布を少しずつ育てていく。生活習慣としての投資。これが私のおすすめする付き合い方です。

「やっぱり自分には関係ない」と思われる方にも、あえて申し上げたいことがあります。賃上げをしても実質賃金が増えないという構造がある以上、給料以外の収入源を持つことは、もはや一部の富裕層だけに許された特権ではありません。働く私たち全員にとっての新しい常識になりつつあるのです。

私はこれまで、「投資を一部の富裕層の特権から誰もが続けられる生活習慣へ」という理念を掲げ、投資家に寄り添った助言を続けてきました。一人の生活者として実感するのは、株主になることは、決してギャンブルでも特別な才能がいる世界でもなく、自分の生活を自分の手で守るためのごく合理的な選択だということです。

賃上げの時代だからこそ、給料という一つの財布だけに頼るのはあまりにももったいない。あなたの頑張りで成長していく会社の、もう一つの財布にもそっと乗ってみてはいかがでしょうか。これこそが日々の努力を生活の豊かさへと直結させる、最も賢い戦略なのです。

参考:
・上場企業の配当20兆円超 純利益4割相当、家計も恩恵株  日経新聞 2026/01/05
・毎月勤労統計調査 2025(令和7)年11月分結果確報


藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役


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■プロフィール 藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役
fujimura_tetsuya
千葉県出身。横浜市立大学経営学科卒業後、1990年に太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。個人・法人の資産運用を担当し、バブル崩壊後の市場を第一線で経験する。のちに本社投資情報部でプラント・機械・IT・半導体など幅広い業種を担当し、年間数百件におよぶ企業取材を通じて成長株分析に強みを培う。1999年の台湾地震では、TSMCをはじめとする現地半導体メーカーを取材し、アジア市場リスクを日本の投資家へ発信した。
2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。

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