unnamed
生成AIの普及で情報収集のあり方が激変する中、「展示会への出展は時代遅れ」という声も聞かれます。しかし、「デジタル化が進むほど、対面での信頼構築や、五感を通じた一次情報の価値はむしろ高まっているんですよ。」そう語るのは、1,300社以上の支援実績を持つ展示会営業コンサルタントの清永健一氏。同氏が監修した『展示会白書』から、「出せば売れる」から「設計して臨む」への転換といった、AI時代に最大の成果を上げる展示会戦略を再構成してお届けします。

■生成AI時代の到来と、展示会が迎えている大きな転換点
私は2015年から展示会の専門家として、コンサルティングを通じて数多くの企業が出展する現場に立ち会ってきましたが、今ほど展示会産業が大きな転換点を迎えていると感じることはありませんでした。

コロナ禍を経験した私たちは、「実際に対面で集まること」の意味を改めて問い直すことになったわけですが、さらに追い打ちをかけるように、生成AIをはじめとするデジタル技術が急速に普及し、情報を調べたり、何を買うべきか判断したりするプロセスが根本から変わりつつあります。

そうした中、特定の業種では集客に苦戦している展示会も存在し、一部では展示会の限界を指摘する声があるのも事実です。しかし、パソコンやスマートフォンの画面上で調べられる情報の量と質が飛躍的に高まった今だからこそ、現地に足を運ばなければ得られない体験の重みが増しているという側面もあります。オンライン上の情報だけでは確かめきれない信頼関係、そして、まだ誰も言語化していない現場の「一次情報」に触れられる場として、展示会の価値はむしろこれまで以上に高まっているのです。

これは単なる主観的な実感ではありません。私の独自調査においても、出展者と来場者の双方が「AI時代における展示会の重要性は高まる」と回答しています。デジタルで全てが完結しやすくなる時代だからこそ、人と人が直接出会い、実物を前にして言葉を交わす場の希少性が、戦略的な価値を生み出しているのです。

■「時代遅れ」という声に隠された展示会の意外な真実
BtoBマーケティングの世界ではこの数年、効率化が最大のテーマでした。リード獲得の自動化やインサイドセールスによるオンライン商談など効率的なモデルが広がる中で、スタッフが長時間会場に常駐する展示会という形式に投資する合理性を疑う声が出るのは、ある意味で自然な流れかもしれません。

しかし、実際の需要はどう推移しているのでしょうか。統計データを見てみると、意外な事実が浮かび上がってきます。2024年の国内展示会開催件数は927件に達し、コロナ禍前の2019年と比較して120%を超える水準となっています。つまり、開催件数ベースで見れば、展示会は衰退するどころか、過去最多水準の拡大基調にあるのです。

AIやデジタルの力で、世の中には二次情報が溢れかえっています。だからこそ、五感を使って製品に触れ、技術者や開発者と直接対話することでしか得られない情報の価値が再認識されていると言えるでしょう。ただし、かつてのように「ただ出展すれば売れる」という時代は終わりました。来場者の目も肥え、情報収集の手段も多様化しています。これからの時代は、来場者の目線に立って展示会を再設計し、出展前から出展後までを一貫した戦略で動かすことができる企業だけが、大きな成果を手にすることができるのです。

■コロナ禍以前からの傾向
2019年までのコロナ禍以前、展示会産業は緩やかな変化の中にありました。2014年頃からの5年間で、開催件数は右肩上がりに増え続け、業界全体の活気は高まっていましたが、詳しく中身を見ていくと、既にその性質が変わり始めていたことがわかります。出展社数はピークを迎えた後に微減に転じ、来場者数も頭打ちの傾向が見え始めていました。

注目すべきは、展示会の出展スペースの単位である「小間数」の変化です。開催件数が増えているにもかかわらず、全体の小間数は縮小傾向にありました。これは、1社あたりの出展面積が小さくなり、小規模なブースでの出展が増えていたことを示唆しています。

つまり、コロナ禍が始まる前の段階で、展示会はすでに「単なる量的拡大」のフェーズを終え、より「質的な価値」が問われる段階へと移行しつつあったのです。一件あたりの規模は緩やかに縮小しながらも、開催テーマは多様化していくという、今の回復状況を評価する上で非常に重要な前兆が、2019年の時点ですでに現れていました。

そして2020年、新型コロナウイルスの世界的な流行によって、展示会産業は壊滅的な打撃を受けることになります。開催件数は前年の約4割減、来場者数に至っては約8割減という、想像を絶する事態となりました。特に2020年の春から初夏にかけては開催件数がゼロとなり、業界全体が事実上の活動停止に追い込まれました。

2021年に入っても不安定な状態は続き、度重なる緊急事態宣言などによって、多くの計画が中止や延期を余儀なくされました。この時期、物理的に集まることができない代わりの手段として、オンライン展示会やバーチャルブースといったデジタル上の取り組みが数多く模索されました。

しかし、当時の試行錯誤を通じて浮き彫りになったのは、デジタルはリアルの代替品にはなりにくいという事実でした。画面越しに情報を得ることはできても、展示会場に漂う独特の熱量や、偶然の出会いから生まれるインスピレーション、そして実物を手にした時の納得感を再現することは難しかったのです。コロナ禍による空白の2年間は、皮肉にも私たちが無意識のうちに享受していた「対面の価値」を再認識させる期間となりました。

■回復期から新たなステージへ
2022年に入り、行動制限が段階的に緩和されると、展示会産業は急速に回復へと向かい始めます。開催件数だけを見れば、2022年の時点で早くもコロナ禍前の2019年を上回る数字を叩き出しました。翌2023年にはさらに回復が進み、来場者数は前年比で約1.6倍という大幅な伸びを見せます。2019年の水準と比較すると7割程度の回復でしたが、会場に足を運ぶ人々の表情には、以前のような活気が確実に戻ってきていました。

この回復期に起きていた変化で興味深いのは、来場者が「なんとなく見に行く」という姿勢から、「明確な目的を持って探しに行く」という姿勢へ変わっていったことです。限られた時間の中で、いかに効率よく、かつ深い情報を得るか。来場者の側もまた、展示会というチャネルをより賢く、戦略的に使いこなそうとする主体的な動きが加速していきました。

■来場者数が語る真実
そして2024年から2026年にかけて、展示会産業は一つの大きな節目を迎えています。2024年の実績を見ると、開催件数は過去最多を更新し、出展社数や展示面積もおおむねコロナ禍前の水準まで戻ってきました。一方、来場者数の数字だけを見ると2019年の3分の2程度にとどまっているのですが、これを単純な減少と捉えるのは早計でしょう。なぜなら、コロナ禍を経て普及した管理手法の変化という大きな背景があるからです。

かつては、一人の来場者が入退場するたびにカウントする延べ人数で集計する展示会も少なくありませんでしたが、感染症対策をきっかけにQRコードなどを用いた厳格な入退場管理と事前登録が定着し、重複を排除した「実人数」での計測へと移行した展示会が急増しました。

また、大規模な一般向けイベントがビジネス特化型の開催に舵を切るなど、産業構造自体の変化も集計値に影響を与えています。つまり、会場にいる人数が見た目上は減っていたとしても、そこには冷やかしではなく真剣なビジネス上の目的を持った来場者が、より純度の高い状態で集まっていると言えるのです。開催件数が右肩上がりである事実は、こうした「質の高い出会い」を求める企業の需要が、いかに底堅いものであるかを証明しています。

■デジタル社会だからこそ輝く展示会の真価
私たちは今、溢れる二次情報に溺れそうになりながら、確かな手触りのある一次情報を求めています。AIは情報を整理してくれますが、信頼までは作ってくれません。デジタルは効率を届けてくれますが、五感に訴える感動までは届けてくれません。だからこそ、これからの時代、展示会の役割は「単なる展示の場」から、「信頼を構築し、体験を共有する場」へとアップデートされていくことを求められています。

出展する側は、デジタルの利便性を活用しながらも、現場でしかできない体験をいかに設計するか。来場する側は、検索だけでは得られない一次情報をいかに主体的に獲得するか。主催者は、その双方にとって真に価値ある出会いをいかに演出するか。それぞれの立場が展示会の価値を磨き上げていくことで、この「場」の可能性はさらに広がっていくはずです。

「出せば売れる」時代から「設計して臨む」時代へ。展示会というチャネルをどう使いこなし、ビジネスの成長につなげていくか。この大きな転換点を新たなチャンスとして捉えてチャレンジできる企業こそが、時代の変化に負けず生き残る企業なのだと思います。


清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント


【関連記事】
■「展示会で成果が出るなんてありえない」という中小企業の大いなる誤解 (清永健一 中小企業診断士)
https://sharescafe.net/63281492-20260617.html
■転職寸前の若手が「仕事が最高に面白い」と残留…展示会営業が生んだ意外な組織改革 (清永健一 中小企業診断士)
https://sharescafe.net/63214287-20260517.html
■中小企業を儲かり体質に変える展示会営業で営業活動を年1回に凝縮せよ (清永健一 中小企業診断士)
https://sharescafe.net/63142660-20260414.html
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/62674731-20250930.html
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/61186482-20240125.html

【プロフィール 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント】
unnamed
神戸大学経営学部卒。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など取材多数。支援実績は1300社超。ほぼ毎週東京ビッグサイトに出没している。
NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関してテレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。
著書『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得。奈良生まれ、東京在住。

公式サイト https://tenjikaieigyo.com
X:https://x.com/tenzikai @tenzikai


この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。