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■AIにギュられる新入社員
SBIホールディングスやENEOSなどの大手企業が、AI活用により新卒採用を大幅削減する意向を示している。これに呼応するかのように「ギュられない仕事を教えてほしい」と口にする就活生が増えている。「ギュられる」とは、AIに仕事を奪われることを指すネットスラングである。

ある調査によると、生成AI活用を推進している企業で新卒採用に関わっている人事・採用担当者の約9割が、AI活用により新卒採用の戦略や方針を見直したと回答している。さらに対象者の約6割が、AIの活用推進により新卒採用数が削減予定と回答した(参考:新卒採用「見直し」が約9割の衝撃、5割超が採用人数も削減変化した人材要件とは? 株式会社アカリク 2025/10/28)。

AIに新入社員が代替される流れは確実かつ急速に進んでおり、就活生がAIに脅威を感じ「ギュられる」懸念を抱くのも当然である。

しかし、AIで新入社員を代替しようとする風潮には、新卒採用の専門家として強い違和感を抱かざるを得ない。なぜなら、新卒採用は単なる労働力の調達手段ではないからだ。AIが新人の業務を代替してくれるから新入社員の採用数を減らしても問題ないという「単純な合理化」の考えの元では、新卒採用の本質は効果を発揮しない。

■短期的なコスト削減か、長期的な文化形成か
今やAIは現在のビジネスにおいて、不可欠なツールとなった。資料作成やデータ収集といった、いわゆる新人が担ってきた初期業務を圧倒的なスピードで処理してくれる。その精度は決して完璧ではないものの、アウトプットの質において、新人に勝ることも少なくない。各社は、採用・育成にかけるコストや人件費、さらには早期離職というリスクを排除すべく、新入社員の役割をAIへと代替する動きを加速させている。

しかし先述の通り、新卒採用の本質とは、単なる労働力の調達ではない。自社の理念を共有し、次の世代へと企業文化を繋ぐ「継承者」を迎え入れる行為であり、組織のエンゲージメントや理念の浸透に直結するものだ。新卒社員をAIに置き換えるという発想は、この最も重要な本質を見落としている。

確かに、新人をAIに代替すれば、短期的には目に見えるコストや手間を削減できるかもしれない。しかし、AIは組織文化の担い手にはなり得ない。

短期的なコスト削減と長期的な文化形成――AIと新卒採用が担うべき役割は、根本的に異なる。私はAIがあるから新卒採用を減らしても問題ないという安易な風潮に対し、専門家として強く警鐘を鳴らしたい。

■新卒採用の抑制がもたらす負のサイクル
新卒大卒者の採用抑制が企業に与える影響を検証したある報告では、各年における採用数のばらつきや大幅な抑制は、企業にマイナスの影響を生じさせるとされている。

新卒採用を抑制し、若手が入社してこない状況が続けば、当然ながら従業員の年齢構造は歪んでいく。それだけではなく、既存社員が後輩を指導することで自らを大きく成長させる機会も奪われてしまう。

その結果、次世代リーダーの育成スピードは鈍り、中間管理職のマネジメント能力は低下。やがて、社員のモチベーションが失われ、最終的には企業の業績低迷という負のサイクルが成立するという。(参考:大卒新卒者採用を抑制すると「リスク」と なるのか―大手企業における組織への影響を考察 德永 英子 2010)。

少し前の報告にはなるが、組織という構造が大きく変わらない現在でも、この検証結果は決して無視できるものではない。実際に、リーマン・ショック時に新卒採用数を大幅に抑制した企業が、今、若手の育成や次世代リーダーとなる中堅社員の不足に頭を悩ませているケースは少なくない。

新卒社員が入社することで、初めて組織の体制は強固にアップデートされていく。採用活動そのものが、自社の存在意義や魅力に改めて立ち返る機会となり、既存社員のエンゲージメント向上や、理念の再浸透をもたらす。若手の育成を通して既存社員は成長し、次世代のリーダーとして事業と文化を継承していく。

だからこそ、どれだけAIが進化しようとも、私たちは新卒採用を止めるべきではない。それこそが、企業の持続可能性を守る最良の道だからである。

■AIに代替されない、新卒採用が持つ本質的な「価値」
「人件費やコストの削減は経営の常識であり、新入社員をAIに代替することの何が問題なのか」という疑問を持つ方もいるだろう。あるいは、AIの進化スピードを前に「どうせ若手の仕事は奪われるのではないか」という懸念を抱くかもしれない。

誤解しないでいただきたいのは、私はAIの活用そのものを否定しているわけではないということだ。重要なのは「AI導入か、新卒採用か」という二者択一の罠に陥らないことである。それぞれが組織にもたらすメリットを見極め、双方の強みを掛け合わせるべきなのだ。

また、AIは未だ発展途上の領域が多く、導入時のトラブルや想定外のコストが発生するリスクもある。膨大なデータと予算を持ち、すでにAI活用の多数の実績がある大企業ならいざ知らず、自社の業務にどれだけAIが活用できるのか未知数な段階で、AIで新卒社員を代替できると判断するのはあまりにも時期尚早である。

むしろ、これからの新卒社員に早い段階でAI活用スキルを習得させることこそが、将来的に高度なビジネスを牽引する次世代リーダーを育てる、成長の好循環を生み出すはずだ。

今こそ企業は、新卒採用を単なるコストではなく、持続可能な文化への投資として捉え直すべきである。採用人数を追うだけではなく、彼らのポテンシャルを最大化する育成戦略の強化が求められる。どれほど技術が進化しようとも、組織の文化を支え継承するのは、人間にほかならない。

AI時代だからこそ、新卒一括採用が持つ本質的価値は、むしろかつてないほど高まっている。


河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役


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■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
kawamoto
1981年広島県生まれ。高校中退後、大検を取得し2001年に上智大学経済学部に入学、2005年に卒業。新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、採用戦略や組織人事領域に従事。企業規模を問わず500社以上の採用・育成コンサルティングを担当し、社内MVPも獲得。
2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。

公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/
Instagram:@seedsandgrowth_saiyo

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