![]() 「会社員回帰」の根底には、年齢を重ねてもキャリアアップできず、だんだんと仕事の幅や収入が先細っていきやすい、フリーランス特有の構造があるようだ。 40代で会社員から独立した中小企業診断士として、また経営者を支援する立場から、なぜ収入が頭打ちになるのか、構造の問題として考えてみたい。 ■収入不安の奥にあるもの フリーランスで一番怖いのは、仕事がないことではなく、40代になっても若い人と同じ作業でしか勝負できなくなることだ。 フリーランスは、若者だけの働き方ではない。40代が38.5%を占め、30代の20.4%、50代の27.1%を上回り、全年代で最も多いグループになっている(参考:フリーランス白書2025 一般社団法人フリーランス協会 2025/03)。つまり40代は、フリーランスの中心世代なのである。 ところが、仕事の実態はかなり厳しい。少し前のものにはなるが、株式会社Miraieの調査では、外部人材を採用する際に年齢制限を設ける企業は4割あり、その理由は「新しい技術についてこられない(気がする)」、「単価が高い」だ(参考:シニアエンジニアについての意識調査 2021/09/17)。年齢が上がるほど技術や単価についての要求が高くなるため、仕事を取るのが難しくなっていく。 なぜ年齢を重ねても収入が上がりにくいのか。フリーランスとは、自由な会社員ではない。社員一人会社の経営者だ。だから本来は、自分で顧客を変え、単価を変え、商品を変え、提供価値を上げていかなければならない。作業者として真面目に働くだけで、年齢とともに自然に役割が上がるわけではないのだ。 ■作業者のままでは報酬が頭打ちになる理由 フリーランスとして独立した直後は、作業ができること自体が武器になる。制作する、入力する、編集する、運用する、納品する。指示されたものを形にする。こうした仕事は、会社の外にいくらでもある。人手が足りない会社にとって、すぐ動いてくれる外部人材はありがたい存在である。 だから20代、30代前半のうちは、作業量と体力で戦える。多少単価が低くても、数をこなせば収入になる。納期を守り、連絡が早く、言われた通りに仕上げられる人は重宝される。ここだけを見ると、フリーランスは自由で、実力さえあれば生きていける働き方に見える。 しかし問題は、作業者として独立すると、戦う場所が作業者市場になることだ。作業者市場では、経験の深さよりも、価格、納期、若さ、量、使いやすさで比べられやすい。最初は強みに見えた「手を動かせること」が、年齢を重ねるほど差別化になりにくくなる。 40代になった時、20代と同じ作業を同じ立場で受け続けるのはかなり苦しい。なぜなら、その仕事には若い競争相手が入ってくるからである。若い人は、単価を下げられる。新しいツールへの適応も早い。発注者から見れば、同じ作業なら安くて早い人に頼みたくなるのは自然である。 さらにAIも入ってくる。文章作成、画像生成、資料作成、簡単な分析、入力作業、運用補助のような領域では、人が手を動かすだけの価値は下がりやすい。もちろんAIですべてが置き換わるわけではない。しかし、顧客がこの作業はもっと安く、もっと早くできるのではないか、と考える場面は増える。 その時に必要なのは、この人は高くても頼みたいと思われる理由である。設計から任せられる、顧客の事情を理解して提案できる、若手を動かせる、経営者の相談相手になれる、などだ。 しかし、この状態にシフトするのは思ったよりも難しい。 ■フリーランスが収入不安に陥る構造的な理由 フリーランスが怖いのは、危ない状態になっても本人が気づきにくいことだ。案件が続いていると、自分は選ばれていると思いやすい。毎月仕事があるし、顧客から感謝されていると感じる。しかし、案件が続くことと、市場価値が上がっていることは同じではない。 冒頭で触れたニュースによれば、正社員回帰を目指すフリーランスの男性は、正社員時代の給料に不安を感じ、2015年にフリーランスへ転じたという。独立後は、最初に勤めていた会社でもらっていた月給の2倍から2.5倍ほどになったそうだ。だが、10年経ち40歳とスキルシートに書くようになったころから、紹介される案件が目に見えて減ったというのである。 つまり、若い時に収入が増えたことと、10年後の市場価値が上がっていることは別問題だった。 会社員なら、年齢や経験に対して役割が変わっていないと、どこかで指摘が入る。「そろそろ後輩を見てほしい」「自分で手を動かすだけでなく、チームを動かしてほしい」「顧客対応を任せたい」「いつまでも担当者目線では困る」。良くも悪くも、組織は本人に次の役割を求めてくる。 ニュースの彼も、この差を痛感している。本人は「フリーランスになった時にスキルアップがほとんどできなかった」と語っている。一方で、同年代の人たちはプロジェクトマネージャーになっている。ずっと同じ会社にいてスキルアップしてきたプロジェクトマネージャーの人たちと比べれば、今の給料は自分の方が圧倒的に少ないのではないか、とも感じているのである。 ここに、会社員とフリーランスの大きな違いがある。 ■生き残るフリーランスになるための条件 フリーランスがきつくなったら、正社員に戻ればいい、と考える人は少なくない。確かに、正社員に戻ること自体は悪い選択ではない。収入の安定、社会保険、有給休暇、組織の中での役割など、会社員には会社員の強さがある。 しかし、作業者のまま年齢を重ねた人にとって、正社員回帰は難しい。45歳以上の転職支援をするライフシフトラボの勝田健氏は、平均的な40〜50代が1社の内定を得るためには150社への応募が必要だと指摘している。さらに、書類選考の通過率は約9%、応募数から見た内定率はわずか0.6%だという(40代転職には150社応募が必要? スキル・経験より大事なものは…… NIKKEIリスキリング 2025/12/18)。 では、作業者から抜け出す人は何をしているのか。答えは、自分より上の基準に触れていることである。著名なコンサルタントの大前研一氏は、自分を変えるための要素は「付き合う人を変える」と主張し、31歳でミリオネイアとなったジム・ローン氏は「自分の年収は周りの5名平均」と言っている。強制的に環境を変えることが大切だ。 私自身も、会社員から40代で独立した中小企業診断士だ。当初は会社員時代の延長で、来た仕事をきちんとやればよいという姿勢だったが、同時に将来への不安もあった。 だから意識して、同じレベルの人ではなく、自分より稼いでいる人、上のステージで仕事をしている人の近くに行った。稼いでいる先輩、他の士業、経営者に近い場所で仕事をしている人、ベンチャーキャピタルの集まりなどにも顔を出した。そこで見えたのは、スキル差というより、基準の差だった。 仕事の取り方、単価の決め方、提案の作り方、顧客対応、納品物の水準、時間の使い方。自分では普通だと思っていたことが、上のステージの人から見ると甘かった。厳しく指摘され、心が折れそうになることもあった。しかし、その痛さが自分のやり方を変えるきっかけになった。 作業者から抜け出したいなら、まず付き合う人を変えることである。次に、耳に痛い指摘から逃げないことだ。 フリーランスは、自由な会社員ではない。社員一人の会社を経営している状態である。会社が昇進させてくれるわけではない。顧客がキャリアを育ててくれるわけでもない。自分を作業者から経営者へ引き上げ続ける人だけが、40代以降も選ばれ続ける。 濵口誠一 中小企業診断士 【関連記事】 ■文春の証拠動画停止で考える、”不良品”こそ売れてしまう週刊誌のビジネスモデル (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63293521-20260623.html ■ホロライブとにじさんじは失速したのか?減益予想にみる「物販ビジネス」への転換点 (濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63289305-20260621.html ■あのちゃん降板騒動はなぜ止められなかったのか?テレビ業界だけではない「止まれない組織」の病(濵口誠一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63240173-20260529.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万?(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール 濵口誠一 中小企業診断士】 従業員2万名の企業から10名の企業まで、約20年経営企画に従事し1000件以上の事業計画を策定。現在は中小企業診断士として経営戦略から実行支援まで行う。 言語化・数値化を得意とし「話しているだけで悩みが解決した」「目標が従業員に伝わるようになった」という評価多数。 公式サイト https://billion-break.com/ X:https://x.com/hamatoukon @hamatoukon シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |



