![]() 夏休みに入ると、決まって同じ光景が繰り返される家庭は多いのではないでしょうか。朝起きればすぐにゲーム機に手を伸ばし、声をかけても生返事。気づけば何時間も同じ画面を見つめ続けている我が子に、「いい加減にしなさい」「少しは頭を使うことをしなさい」と、ため息交じりに声を荒げてしまう。そんな夏休みの一コマを、多くの保護者さんが経験していると思います。 厄介なのは、ゲームをめぐる情報が錯綜していることです。「ゲームばかりしていると頭が悪くなる」「キレやすい子になる」という声がある一方で、「いや、最近の研究ではむしろ認知能力が上がるらしい」という話も耳にする。相反する情報の中で、どちらを信じて我が子と向き合えばいいのか、判断がつかないまま夏休みが過ぎていく保護者さんも少なくないはずです。 多くの家庭では、この問題を「時間制限をかけるか、諦めて放置するか」という二択で捉えがちです。しかし、IQと思考プロセスを専門に研究してきた立場から言えば、この二択には第三の道があります。本稿では、具体的な研究データと高IQ者の思考の共通点を手がかりに、ゲームを「取り締まる対象」から「思考力を鍛える教材」に変える視点をお伝えします。 ■「良薬」か「毒」か、二極化するゲーム論争の正体 そもそも、なぜ私たちはゲームをしている我が子にこれほどイライラしてしまうのでしょうか。その根っこには、「ゲームの時間=学力低下の時間」という、いわば方程式のような思い込みがあるからだと考えます。この思い込みが強いほど、目の前の1時間が「失われた1時間」に見えてしまい、感情的な声かけにつながってしまうのです。しかし、この方程式自体が科学的に見て単純化しすぎている、というのが専門家としての私の見立てです。 ゲームをめぐる論争は、大きく二つの立場に分かれます。一つは「ゲーム悪玉説」で、長時間のプレイが暴力性を高めたり、学力低下につながったりするという主張です。もう一つは「ゲーム善玉説」で、プレイを通じて空間認知能力や判断力といった認知能力が向上するという主張です。 この論争の危うさを象徴する出来事があります。2022年、米国の学術誌JAMA Network Openに、9〜10歳の子ども約2,000人を対象にした大規模な脳画像研究(ABCD研究)が掲載され、「ゲームをする子は認知テストの成績が良い」という趣旨で大きな話題を呼びました。ところがこの研究は後に統計処理の誤りが指摘され、翌2023年に訂正版が発表されています。訂正後の内容を見ると、反応時間の差はごくわずかであり、当初「差がある」とされていた体格指数やIQの違いも、家庭の社会経済的要因を考慮するとほとんど消えてしまうことが分かりました。 つまり「ゲームは良いか悪いか」という単純な因果関係で語ること自体に無理があるのです。問題の本質は「何時間やったか」という時間の長短ではなく、ゲームの中でどのような「認知活動」が行われ、それが現実世界とどうつながっているか、という質の部分にあります。 ■「時間」より「何をしているか」が子どもの思考力を決める 時間よりも中身が重要だということは、ジャンル別の研究からも見えてきます。2023年アジア精神医学ジャーナルに掲載された、ビデオゲームのプレイ時間と認知機能性:中国の児童・青少年を対象とした横断研究では、ゲームのジャンルによって効果が異なることが報告されており、実行機能(計画力や自己抑制)はアクション系・戦略系・パズル系のゲームで伸びやすい一方、言語的な流暢さはスポーツ系のゲームと関わりが深いなど、脳への働きかけ方がジャンルごとに違うことが分かりました。敵の攻撃パターンを読み、次の一手を予測する行為は、まさに私が定義する「物事の変化パターンを読み取り、先を推測する力」そのものであり、これは高IQ者が日常的に行っている思考プロセスと重なります。 一方で、同研究結果で同じ「ゲーム」というくくりでも、単純作業の繰り返しや、ほぼ受け身で画面を眺めているだけのような遊び方は、思考力の向上にはあまり結びつかないことも指摘されています。同じ画面に向かう時間でも、そこで何を考えているかによって、脳への効果は大きく変わるのです。 実際、ゲームの中で仲間との交渉や資源配分の判断、複雑なルールの中での戦略構築を求められる場面に熱中していた子どもが、学校の課題やグループワークでも「まず状況を整理してから複数の案を比較する」という思考の型を自然と応用できるようになった、という話は珍しくありません。ゲームオーバーを「失敗」ではなく「この方法は通用しないというデータを得た」と捉え直す姿勢そのものが、現実の問題解決にも生きてくるのです。 ■これからの親の役割は「時間の管理者」から「思考の伴走者」へ ここまで読んで、「とはいえ、目の前で何時間もゲームをしていたら、つい時間を制限したくなる」「自由にさせたら際限なく遊ぶのでは」と感じる方もいるでしょう。その心配はもっともです。しかし、時間そのものを取り締まる「管理者」であり続ける限り、親子の関係は「監視する側」と「隠れて遊ぶ側」という対立構造から抜け出せません。子どもは「見つからないように隠れて遊ぶ」ことに知恵を絞るようになり、それは本来伸ばしたい思考力とはまったく違う方向の頭の使い方です。 これから親に求められる役割は、時間を制限する管理者ではなく、子どもの思考を引き出す「伴走者」としての役割です。大切なのは「何時間やったか」ではなく「それで何を考えたか」を尋ねること。具体的には、ゲームが一区切りついたタイミングで、次のような声がけをしてみてください。 「さっきのゲームで、何か気づいたことある?」 この一言には、二つの効果があります。一つは、子どもに自分のプレイを振り返らせ、感覚でやっていたことを言語化させる効果。もう一つは、「なんとなくクリアできた」で終わらせず、勝敗の理由を仮説として組み立てさせる効果です。このとき親がゲームの正解を知っている必要はまったくありません。子どもが「たぶん先に攻撃したからかな」と答えたら、その仮説が合っているかどうかより、「自分で理由を考えて説明できた」というプロセスそのものを認めてあげてください。たとえ答えが的外れでも、思考の過程を否定せずに受け止めることが、次も自分の頭で考えてみようという意欲につながります。 この「伴走者」というスタンスは、場面によって少しずつ形を変えることができます。例えば、子どもがゲームオーバーになって悔しがっている瞬間には、「今のミス、次同じ場面が来たらどうする?」と聞いてみる。これは失敗を責めるのではなく、失敗を次の一手のための「データ」として扱わせる問いかけです。逆に、うまくクリアできて達成感に浸っている瞬間には、「今のプレイ、友達にうまくいった理由を説明するとしたらどう教える?」と聞いてみる。人に教えるつもりで説明させることは、自分の頭の中にあった感覚的な判断を、筋道立てて言葉にする良い訓練になります。 もう一つ大事なことは、問いかけの後に親がすべきことは「評価」ではなく「反応」だということです。「それは違うでしょ」「もっとこうすればいいのに」と正解を突きつけてしまうと、子どもは次第に「どうせ否定される」と感じ、口を閉ざすようになります。そうではなく、「なるほど、そう考えたんだね」「面白い視点だね」と、まず受け止める。そのうえで気になる点があれば、「じゃあこういう場合はどうなると思う?」とさらに問いを重ねればいいのです。正解を教える先生ではなく、一緒に考える伴走者として子供の隣に座ってみてください。 忙しい毎日の中で、腰を据えて子供に向き合う時間を作るのは難しいかもしれません。しかし必要なのは、夕食の支度をしながら、あるいは、画面を覗き込みながらのわずか1分間だけです。毎日でなくても構いません。週に数回、ふとした瞬間に一言添えるだけで、子どもの中に「自分の考えを話す」という習慣が少しずつ育っていきます。今晩、ゲームをしている我が子にそっとこう聞いてみてください。「それ、どうやって攻略したの?」。その一言が、ただの娯楽時間を、親子で思考力を育む時間へと変える第一歩になるはずです。 秋谷光輝 JAPANMENSA会員 【関連記事】 ■「すぐ調べなさい」が子どもの思考力を奪う?AI時代に親が見直したい“問いかけ”の習慣 (秋谷光輝 MENSA会員) https://sharescafe.net/63289152-20260621.html ■カオナシはなぜ言葉なしで孤独を語れるのか?宮崎駿作品に宿る「非言語IQ」の正体 (秋谷光輝 MENSA会員) https://sharescafe.net/63201124-20260511.html ■箱根駅伝で勝ち続ける理由は何か?原晋監督が磨いた「偶然を削るIQ」(秋谷光輝MENSA会員) https://sharescafe.net/63116030-20260406.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 秋谷光輝 JAPANMENSA会員 ![]() 著書:「楽算メソッド」(合同フォレスト)、「今から伸ばす!IQトレーニング」(大創出版)「記憶の出し入れがスムーズになる衰え知らずの脳トレ習慣」(日本実業出版社)(2025.12) 公式サイト https://www.housokugaku.com/ シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


