unnamed
「マンジャロ 税込9,980円/月から」「初診料無料」「定期配送」。

オンライン診療サービス「Actually,」のマンジャロ紹介ページには、こうした表示とともに「購入する」「診察予約する」というボタンが並ぶ。

9,980円は2.5mgを6カ月分まとめて定期配送する場合の1カ月あたりの価格で、別途送料がかかる。

マンジャロは一般の商品ではない。日本では2型糖尿病治療薬として承認され、医師の処方が必要な「処方箋医薬品」である。

オンライン診療については、「便利になった」と説明されることが多い。しかし私は、マンジャロをめぐる問題では、便利さそのものより、患者が薬にたどり着くまでの入口がネット通販に近づいたことに注目したい。

結論から言えば、マンジャロが通販商品になったわけではない。医師の診察も処方も残っている。変わったのは、患者が先に薬と価格を知り、その薬を扱う医療機関へ向かう入口が成立したことだ。

この記事では、この「入口の変化」から、オンライン時代に買い物と医療を何が分けるのかを考える。社会制度・政策を研究する立場から見ると、問題はオンライン診療そのものではなく、医療上の意思決定がどこに置かれているかにある。

2026年6月には、マンジャロのオンライン処方サービスの広告に出演していたインフルエンサーが、自身の発言をめぐる批判を受けて謝罪し、アンバサダーを辞退した(参照・「マンジャロ騒動」広告出演キャバ嬢&溝口勇児氏が謝罪 ORICON NEWS 2026/06/04)。

同月16日、厚生労働省はマンジャロなどの適正使用について通知を出した。通知では薬の使い方だけでなく、「医療に関する広告」も独立した項目として取り上げられている。

つまり、問題になっているのは薬の作用だけではない。患者がその薬をどのように知り、どのような期待を持って診療へ進むのかという入口まで、医療制度の問題になっている。

■変わったのは「薬にたどり着くまで」
マンジャロの有効成分はチルゼパチドである。美容や単なる痩身を目的としたマンジャロの使用は、国内で承認された効能・効果の範囲外となる。

ただし、チルゼパチドを体重減少に使うこと自体がおかしいわけではない。同じ成分は「ゼップバウンド」という商品名で肥満症治療にも承認されている。ただし、対象患者や使用条件が定められている。

医薬品では、体重が減る作用があるかだけではなく、誰に、何の目的で、どのような管理のもとで使うかが重要になる。

では、なぜマンジャロは通販商品に近く見えるのか。

Actually,では1カ月、3カ月、6カ月のプランが用意され、長期になるほど1カ月あたりの価格が下がる。

患者は広告で薬を知り、料金やプランを見る。
その後、オンライン診療を予約して医師の診察を受ける。処方されれば、決済後に薬が自宅へ届く。医師の診察はなくなっていない。

その前後を含めた利用の流れが、「商品を検索し、価格を比較し、プランを選び、自宅で受け取る」というネット通販の体験に近づいているのである。

従来の「医師に相談した結果として薬を知る」という流れとは逆に、ウェブ上では、先に薬や価格を知り、その薬を扱う医療機関を探して診察を受ける入口も成立している。

■注意書きがあっても「どう見えるか」が問われる
こうしたサービスが、薬のリスクを隠していると一括りにすることはできない。

Actually,のページにも、マンジャロは国内では2型糖尿病治療薬として承認されていること、肥満治療目的では適応外使用になること、吐き気や下痢、低血糖、急性膵炎などの副作用があり得ることが記載されている。

厚労省も、美容・痩身・ダイエット目的で適応外使用し、重篤な健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済制度の給付を受けられない可能性が非常に高いと注意を呼びかけている(参照・マンジャロ・リベルサスなどの2型糖尿病治療薬の美容・痩身目的での使用による健康被害にご注意ください 厚生労働省)。

問題は、注意事項が書かれているかどうかだけではない。

厚労省は6月16日の通知で、未承認薬や適応外の医薬品を使う自由診療をウェブサイトで広告する場合、治療内容、費用、リスク、副作用などを示す必要があると改めて確認した。

さらに、必要な情報が記載されていても、一般の人が広告から受ける「印象」や「期待感」と実際の治療内容に相違がある場合は、誇大広告として禁止される可能性があると注意している(参照・GLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適正使用について 厚生労働省 2026/06/16)。

つまり厚労省が問題としているのは、必要事項の有無だけではない。広告全体がどのような治療だと受け取られる構成になっているかまで含まれる。

「月額○円」「割引」「定期配送」「購入する」という表示と、適応外使用や副作用についての説明。その両方を含めて医療広告として評価されるのである。

インフルエンサーによる体験談も同じ問題を抱える。

医療広告ガイドラインでは、医療機関への誘引を目的とした治療効果の体験談は広告できない。ただし、6月に問題となったインフルエンサーの発信が実際に医療法上の違法な広告に該当するかは、広告主体や医療機関との関係などを個別に確認する必要がある。

一人のインフルエンサーを責めても、この問題の全体像は見えてこない。

■便利さと「医療らしさ」は両立できるか
ここで、「便利になるなら何が問題なのか」と思う読者もいるだろう。

オンライン診療そのものが問題なのではない。

2026年4月からオンライン診療に関する医療法上の規定が施行された。厚労省は、人口減少や医療資源の少ない地域などで医療へのアクセスを確保する手段として、その適切な普及を進めている(参照・オンライン診療について 厚生労働省)。

マンジャロを扱う医療機関の対応も一様ではない。

DMMオンラインクリニックは2026年7月1日、マンジャロについて問診票だけでは処方を判断せず、必ずビデオ通話で医師が状態を確認すると公表した。独自のBMI基準を設け、美容目的や過度な減量目的では処方せず、処方後も副作用などを確認するとしている(参照・「マンジャロ」の適正処方および安全管理への取り組みについてご案内 DMMオンラインクリニック 2026/07/01)。

オンライン診療だから診察がおざなりだ、と決めつけることはできない。

むしろこの事例は、オンラインでも「薬を選んでから診察する」のではなく、「診察の結果として薬を選ぶ」仕組みを設計できることを示している。

料金が事前に分かることも、自宅に薬が届くことも患者にとっては便利だ。通院が難しい人なら、その利点はさらに大きい。

便利さと医療性は対立しない。

問題は、その便利な入口の先で、患者が欲しい商品を買うように薬を選ぶのか、それとも医師が患者の状態、適応、利益とリスクを評価して治療を選ぶのか。その境界が保たれているかである。

便利になった医療の中でも、「これは一般の商品ではなく、医師が必要性とリスクを判断して処方する薬だ」と患者に伝わる仕組みになっているかである。

マンジャロをめぐる騒動は、「ネットで薬が買えるようになった」という話ではない。医師による診察と処方は今もある。

変わったのは、患者が薬を知り、価格を見て、医師に接触し、薬を受け取るまでの入口だ。

では、買い物と医療を何が分けるのか。

私は、誰が最終的に「何を使うか」を決めるのかだと考える。

買い物では、消費者が欲しい商品を選ぶ。医療では、患者の希望を踏まえながらも、医師が患者の状態、適応、利益とリスクを評価し、治療の必要性を判断する。

オンライン化によって、病院という「医療らしい場所」は見えにくくなった。だからこそ、場所ではなく、意思決定の仕組みで医療と買い物を区別する必要がある。

マンジャロが突きつけているのは、オンライン診療を使うべきかどうかではない。

通販に似た便利な入口を持ちながら、医療としての判断をどこまで守れるか。

これが、オンライン医療時代の新しい課題なのである。


九条丈二 独立研究者


【関連記事】
■なぜ日本では眼鏡を25分で作れるのか?処方箋なしを支える「すみ分け」(九条丈二 社会制度・政策研究者)
https://sharescafe.net/63455736-20260902.html
■「科研費倍増」で日本の研究力は本当に戻るのか?(九条丈二 社会制度・政策研究者)
https://sharescafe.net/63455692-20260902.html
■「玄米で認知症リスク低下」はどこまで本当か? 大学プレスリリースを読む5つのポイント (九条丈二 社会制度・政策研究者)
https://sharescafe.net/63431863-20260823.html
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/62674731-20250930.html
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
https://sharescafe.net/61186482-20240125.html


■プロフィール 九条丈二 独立研究者
医療制度、公衆衛生、科学研究を中心に、制度や組織がどのようなインセンティブによって動き、なぜ問題を修正できないことがあるのかを研究・執筆している。行政資料、統計、学術論文などの一次資料を用いた検証を重視し、医療政策、感染症対策、研究評価、AIと学術、医療安全、安全保障などを扱う。アゴラ、note等で論考を発表し、英文学術誌への投稿やPubPeerでの公開後査読にも取り組む。

公式サイト https://georgekujo.com
アゴラ: https://agora-web.jp/archives/author/george_kujo
note: https://note.com/g_kujo_ir @g_kujo_ir
X: https://x.com/cavid19w @cavid19w
ORCID: https://orcid.org/0009-0006-6864-0145




この執筆者の記事一覧

このエントリーをはてなブックマークに追加
シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ
■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています
■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。
■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。
■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。