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■内定辞退は夏の終わりの風物詩
7月から9月の夏場は、内定辞退が最も多い時期と言われている。特にお盆明けは、帰省先で保護者から内定先について反対を受けるケースが増える。BtoB企業や中小企業では、「名前を知らない会社で大丈夫なのか」、勤務地が地元から遠いなら「実家の近くにしてほしい」、ベンチャー企業なら「安定した会社に行ってほしい」といった保護者の心配から、内定辞退を決意するケースも少なくない。

このように、一般的に内定辞退の理由は、企業規模・勤務地・給与や制度といった「条件面」のミスマッチだと思われがちだ。しかし、条件の懸念から実際に内定辞退に至るまでの過程には、就活生の「内定ブルー」という心理的葛藤も影響している。

内定ブルーとは、内定を獲得したにもかかわらず、「本当にこの会社でやっていけるのだろうか」という心理的な不安を抱えている状態を指す。社会人になるという未知の世界に踏み出す直前に、「社会人としてやっていけるのか」「この仕事は自分に向いているのか」と悩むことは自然な反応であり、誰にでも起こりうる現象である。

2027年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象に実施された調査によると、7月末時点における内々定率は84.8%に達している(参考:「7月末の内々定率84.8%、5カ月連続前年割れ。文系80.9%、理系92.7%。就活終了は7割、文系はなお3人に1人が活動中【27年卒調査】 株式会社学情 2026/08/04)。4年ぶりの低水準とは言うものの、多くの学生が内定を得て、旅行や帰省など学生最後の夏を満喫しているように見えて、その裏では葛藤を感じているのである。

600社以上の採用を支援してきた人材コンサルタントの視点から言えば、学生の内定辞退を後押ししてしまう最大の心理的要因は、実は「内定後の放置」にある。その理由と企業側に求められる対応について考えてみたい。

■なぜ「条件」ではなく「放置」が問題なのか
内定を出した安心感から、一度の懇親会を開いただけで、あとは入社まで待つだけという対応は、学生と企業の双方にとって大きな損失である。

企業とのコミュニケーションが途絶えると、学生の漠然とした不安は心の中で反芻されて肥大化し、「この会社で本当に大丈夫だろうか」という不信感に変わる。その結果、より丁寧にコミュニケーションを取ってくれる他社や、より条件の良い企業へ目移りし、最終的に放置が内定辞退の決定打となるのだ。

また、企業側は「入社前の学生に課題を与えると嫌がられるのではないか」「定期的な連絡は煩わしく思われないだろうか」「辞退が怖くて下手に連絡できない」と学生に対して遠慮しがちだが、このすれ違いは致命傷になる。

学生は自分を気にかけてくれているという、定期的なつながりを求めている。内定を出すことは採用のゴールではなく、入社に向けて双方の信頼関係を築き、学生が社会に出て働く心構えをする準備期間のスタートラインにすぎない。だからこそ、「放置」という対応が、双方の未来を損ねてしまうのである。

■データが証明する「企業の沈黙」が生む損失
株式会社マイナビの調査によると内定者の58.6%が「社会人としてやっていけるか」「自分はこの仕事に向いているか」といった不安を抱えていることが分かった(参考:「2025年卒内定者意識調査」株式会社マイナビ 2024/07/31)。「この不安の厄介な点は、学生自身も「漠然とした不安を抱えていて、言語化できていない」ことが多いことである。その結果、企業側も見落としてしまったり、フォローの仕方が分からず放置状態に陥りやすい。

しかし、学生側は放置を望んでいない。同調査によると、内定者の8割以上が、内定者期間中の内定者フォロー・研修を希望しており、約5割の学生が内定者フォロー・研修の頻度は1か月に1回程度が望ましいと回答している。学生は、内定後も放置されるのではなく、不安を払拭するためのアプローチを、企業側から積極的に提供されることを強く望んでいるのだ。

だからこそ、学生にとって欲しい情報を提供してくれない企業は、就活生のことを気にかけていない会社、さらには自分のことを見てくれていない会社に映る。それが結果として、フォローが手厚い企業への人材流出という損失を生み出しているのである。

■「採用のゴール」を「入社後の活躍」に再定義する
「そこまで企業側が内定者を気にかける必要があるのか」と感じるかもしれない。しかし、内定を出しっぱなしにする対応は、これまでかけた採用コストや工数を無駄にするきっかけとなり得る。

採用成功とは、内定を出して採用目標数を達成することではない。入社後に定着・活躍して初めて、採用成功と言えるのだ。企業は、内定から入社までの期間を、学生から社会人になるための準備期間と捉えるべきである。具体的には、単なる事務連絡にとどまらず、学生との定期的なコミュニケーションの継続や、学生が抱える漠然とした不安の言語化、適切なタイミング・内容での情報提供が必要不可欠だ。

内定期間中にいかに学生に伴走するかが、内定辞退を防ぐだけでなく、入社後の学生と社会人のギャップ(リアリティショック)を軽減する。内定者フォローは、人材の定着と活躍をもたらす最大の投資なのである。


河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役


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■プロフィール 河本英之 人材コンサルタント・シーズアンドグロース株式会社 代表取締役
kawamoto
1981年広島県生まれ。高校中退後、大検を取得し2001年に上智大学経済学部に入学、2005年に卒業。新卒で株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、採用戦略や組織人事領域に従事。企業規模を問わず500社以上の採用・育成コンサルティングを担当し、社内MVPも獲得。
2010年7月、シーズアンドグロース株式会社を設立し、代表取締役に就任。自身の「人の可能性の大きさ」を実感した経験に基づき、これまで16業界600社以上の企業の採用・育成を支援を行い、マイナビEXPOでは講師として登壇。著書に『新卒採用の常識を変える カレッジ型イベント』(金風舎)など多数。

公式サイト:https://seeds-and-growth.co.jp/
Instagram:@seedsandgrowth_saiyo

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