![]() 36兆円と言われても、大きすぎて実感しにくい。同年度の文部科学省は8兆7千億円規模を求める方針と報じられている。防衛省も約8.9兆円を要求する見通しだ。 それでも、36.6兆円という数字だけでは、日本の社会保障で動くお金の大きさは分からない。 社会制度・政策を研究する筆者の立場から見ると、重要なのは「厚労省の一般会計」と「社会保障全体」を分けて考えることだ。 比較できる数字が揃う2026年度の当初予算では、国の一般会計は122.3兆円。それに対し、社会保障給付費は予算ベースで144.1兆円に達する。 結論から言えば、一般会計に計上される約39兆円は社会保障全体の給付額ではなく、その財源のうち国が負担する部分におおむね対応する。その外側には84.5兆円の社会保険料や17.7兆円の地方負担などがある。 なぜこのような仕組みになっているのか。数字を分解してみよう。 ■122兆円と144兆円を比べてよいのか ここで「一般会計122兆円と社会保障給付費144兆円は、そもそも別の数字なのだから比べる意味がないのではないか」と思う人もいるだろう。 その疑問には理由がある。両者は同じ種類の数字ではない。 2026年度の一般会計当初予算は122兆3092億円。所得税、法人税、消費税などの税収や国債などを財源として、国が支出する基本的な会計である。 このうち社会保障関係費は39兆559億円で、一般会計全体の約32%を占める。 一方、144.1兆円の社会保障給付費は「厚労省の予算」ではない。年金、医療、介護、子育て支援など、社会保障制度を通じて給付されるお金の総額である。 厚労省による2026年度予算ベースの見込みでは、年金が63.7兆円、医療が44.6兆円、福祉その他が35.8兆円。このうち介護は14.3兆円だ。 国が一般会計から144兆円を社会保障に出しているわけではない。 だからこそ両者を並べると、社会保障が一般会計だけで動いていないことが見えてくる。 ■一般会計の39兆円は社会保障全体ではない 2026年度の一般会計当初予算では、社会保障関係費として約39.1兆円が計上されている。 一方、厚労省が示す社会保障財源のうち、国の公費負担は38.9兆円である。 集計範囲などが異なるため完全に同じ数字ではないが、規模はほぼ一致する。 つまり、一般会計に見える約39兆円は、144.1兆円の社会保障給付費そのものではない。その財源のうち、国が負担する部分におおむね対応している。 国以外にも地方が17.7兆円を負担する。国と地方を合わせた公費は56.6兆円になる。 さらに、これとは別に大きな財源がある。社会保険料だ。 ■国税収に匹敵する84.5兆円の社会保険料 会社員なら、給与明細に健康保険料や厚生年金保険料などが並んでいる。 一人分を見れば国家予算ほどの金額には見えない。しかし、日本全体で積み上げると非常に大きい。 厚労省による2026年度予算ベースの社会保障の負担を見ると、保険料は84.5兆円に達する。 このうち被保険者の拠出が44.8兆円、事業主の拠出が39.7兆円だ。 一方、2026年度一般会計当初予算における国税収は83.7兆円と見込まれている。 国税収と社会保険料は異なる概念であり、83.7兆円には地方税も含まれない。ただ、規模を比べると社会保険料84.5兆円は国税収全体に匹敵する。 社会保障というと「税金で支える制度」という印象を持ちやすい。 実際には、その横に80兆円を超える社会保険料という巨大な資金の流れがある。 そこに国と地方の公費、積立金の運用収入などが加わり、年金、医療、介護などの給付を支えている。 ■36.6兆円の背後にある巨大な資金構造 社会保障のお金を分かりにくくしている理由は、資金の入り口が一つではないことにもある。 厚労省には年金特別会計や労働保険特別会計などがあり、保険料を受け入れたり、一般会計から国庫負担を繰り入れたりして、それぞれの制度の給付につなげている。 そのため、一般会計と特別会計を単純に足して「厚労省は合計○○兆円を使っている」と考えることもできない。 一般会計から特別会計へ移された資金を両方で数えれば、同じお金を二度数えることになるからだ。 厚労省の2027年度概算要求36.6兆円は、それだけでも巨大である。 しかし、この数字を見て「日本は社会保障に年間36兆円ほど使っている」と理解すれば、実態を見誤る。 2026年度当初予算の一般会計は122.3兆円。それに対して社会保障給付費は144.1兆円に達する。 これは社会保障が国の一般会計という一つの財布だけで動いていないためだ。 一般会計から出る約39兆円に加え、84.5兆円の社会保険料、17.7兆円の地方負担など、複数のルートから資金が集まる。 厚労省の「過去最大36.6兆円」というニュースの背後には、年間144兆円規模を給付する、日本の巨大な社会保障システムがある。 九条丈二 独立研究者 【関連記事】 ■糖尿病治療薬マンジャロはなぜ発売時に値上げされ、3年後に25%値下げされたのか? (九条丈二 社会制度・政策研究者) https://sharescafe.net/63463410-20260906.html ■同じ100万円の治療なのに9.3万円か2.5万円か 健保組合の「付加給付」はいつまで続く? (九条丈二 社会制度・政策研究者) https://sharescafe.net/63460012-20260904.html ■糖尿病治療薬マンジャロはなぜ「通販商品」のように見えるのか?オンライン診療と広告が変えた処方薬の入口 (九条丈二 社会制度・政策研究者) https://sharescafe.net/63459993-20260904.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html ■プロフィール 九条丈二 独立研究者 医療制度、公衆衛生、科学研究を中心に、制度や組織がどのようなインセンティブによって動き、なぜ問題を修正できないことがあるのかを研究・執筆している。行政資料、統計、学術論文などの一次資料を用いた検証を重視し、医療政策、感染症対策、研究評価、AIと学術、医療安全、安全保障などを扱う。アゴラ、note等で論考を発表し、英文学術誌への投稿やPubPeerでの公開後査読にも取り組む。 公式サイト https://georgekujo.com アゴラ: https://agora-web.jp/archives/author/george_kujo note: https://note.com/g_kujo_ir @g_kujo_ir X: https://x.com/cavid19w @cavid19w ORCID: https://orcid.org/0009-0006-6864-0145 シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |

