![]() 電気料金の明細には「再エネ賦課金」という項目があります。2026年度の単価は1kWhあたり4.18円です。月400kWhを使う家庭なら月1,672円、年間では20,064円を負担します。 一般には、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを増やすための費用だと理解されています。もちろん、再エネを増やすこと自体は重要な政策目標です。 しかし、社会制度・政策を研究する立場から見ると、気になるのは「そのお金が最終的に誰の収入につながっているのか」です。 FITと呼ばれる固定価格買取制度では、再エネで発電した電気を一定期間、決められた価格で買い取ります。そのため事業者は将来の売電収入を見込みやすくなります。FITの対象となった太陽光発電所は、ファンドなどを通じて投資家が収益を得る投資対象にもなりました。 ここで誤解してほしくないのは、投資家が利益を得ること自体を問題にしているわけではないという点です。 私は、再エネ政策は発電量だけで評価すべきではないと考えます。国民負担によって生まれた収益が誰に帰属しているのかまで含めて評価すべきです。 社会制度・政策研究者として、負担と受益の帰属という視点から制度設計を検証します。負担と利益が誰に分配されるのかを長年追ってきた視点から、この問題を解説します。 ■年間2万円を超える「再エネ賦課金」 再エネ賦課金は、再エネで発電した電気を買い取るための費用を、電気利用者から広く集める仕組みです。 資源エネルギー庁はFITについて説明しています。再エネで発電した電気を、国が一定価格で一定期間買い取ることを約束する制度です。 2026年度の賦課金の単価は1kWhあたり4.18円です。月400kWhを使う家庭なら、年間負担は20,064円になります。 2026年度に想定される再エネの「買い取り費用など」は4兆8,507億円です。ここから卸電力市場で取引した場合に相当する価値などを差し引き、販売電力量で割ることで賦課金の単価が計算されます。 太陽光発電を設置していない家庭も、再エネに投資していない人も、電気を使えば原則として負担します。 では、なぜ賦課金の負担は増え続けているのでしょうか。理由は、FITに買い取り期間があり、制度が続くほど買い取り対象が積み上がるためです。では、買い取り期間が終わった後はどうなるのでしょうか。買い取りが終わった発電所は、以後は市場価格で電気を売る形に移ります。賦課金がすぐにゼロになるわけではありませんが、負担の総額は制度の進み方によって変わっていきます。 では、このお金によってどのような収益が生まれているのでしょうか。まず、賦課金はFITの買い取り費用を支えます。次に、その買い取り収入が発電事業者の収入になります。さらに、発電所がファンドに組み入れられ、投資家へ収益が分配されます。 ■国は売電収入を見込みやすくした FITは2012年に始まりました。制度の狙いの一つは、固定価格で長期間買い取ることでした。それによって事業収益の見通しを立てやすくし、民間から再エネ事業へ資金を呼び込みます。 高額な発電設備を建設しても、将来いくらで電気を売れるのか分からなければ、投資する側は資金を出しにくくなります。 そこでFITでは、国が定めた価格で一定期間買い取る仕組みを作りました。買い取り価格は、発電コストだけでなく、効率的な事業に必要な費用と「適正な利潤」を勘案して設定されています。 FIT対象の発電所への投資が無リスクになったわけではありません。 天候によって発電量は変わります。設備故障や自然災害、出力制御、借入金などのリスクもあります。出力制御とは、電力の供給が需要を上回ったときに、発電を一時的に抑えることです。 それでも、「電気を何円で売れるのか」という重要な条件が一定期間決まっています。そのため、将来の売電収入は見込みやすくなります。 この特徴が、太陽光発電所を投資対象として扱いやすくしました。 ■太陽光発電所が「投資商品」の裏付けになった 東京証券取引所は2015年、太陽光発電施設などを対象とするインフラファンド市場を開設しました。 仕組みは、不動産に投資するREITと似ています。REITとは、投資家から集めた資金で不動産を買い、家賃などの収入を投資家へ分配する仕組みです。インフラファンドも同じで、投資家が資金を出し合って発電所などの設備を買い、そこから得られる発電収入を投資家へ分配します。つまり、投資家が資金を出し合って発電所を買い、その発電収入を分配する仕組みです。 東京証券取引所は、FIT認定設備は買い取り価格と期間が原則として後から変更されないと説明しています。そのため、安定的かつ継続的な収益を見込めます。 実例を見ると、制度と投資の関係が分かりやすくなります。 2018年、カナディアン・ソーラーは太陽光発電所3件を、カナディアン・ソーラー・インフラ投資法人へ115億円で売却しました。 このうち鳥取県のCS大山町発電所では、2017年8月から40円/kWhで売電を開始しています。同社によると、売却した3発電所の電力は20年間のFIT契約に基づいて売電されます。 ここまでの話をまとめるとこうなります。電気利用者が賦課金を負担する。その制度の下で一定期間の売電価格が決まります。その収入を背景として発電所が投資対象となり、ファンドを通じて投資家が収益の分配を受ける。こうした流れが存在するのです。 電気料金の明細に書かれた「再エネ賦課金」だけを見ても、その先にこうした投資の仕組みがあることまでは分かりません。 ■投資家が利益を得るのはおかしいのか ここで、「発電所を造るには多額の資金が必要です。国がすべての設備を建設するのではなく、民間から資金を集めて再エネを普及させます。そのためには、投資家が資金を出すだけの収益性が必要です」という反論が想定されます。 FITは実際にその役割を果たしました。したがって、「投資家が儲けているからFITはおかしい」という話ではありません。 注目したいのは、負担と利益の分け方です。 FITでは、電気利用者が賦課金を負担して民間投資を呼び込み、その事業から投資家が収益を得る。これは政策として一つの選択です。 その制度を支える費用を、電気利用者が賦課金として負担します。 では、なぜ負担する国民自身が、投資収益の受益者にもなる制度にはしなかったのでしょうか。 ■海外では政府自身が「グリーン国債」を発行 理由の一つは、FITが民間資金を呼び込むことを優先し、国民を投資家として位置づける設計を取らなかったからです。では、国民が受益者になる道はなかったのでしょうか。次に、海外の事例を見ます。 再エネ事業の資金調達方法は、株式やファンドだけではありません。海外では、政府自身が国債を発行してグリーン政策の資金を調達する例があります。グリーン国債とは、調達した資金の使い道を再生可能エネルギーや脱炭素事業に限定した国債です。 デンマーク政府は2022年に初めてグリーン国債を発行しました。国が発行するため、投資家は比較的安定した利回りで資金を運用できます。2022年から2024年までの制度では、調達した資金に相当する額を、風力や太陽光などの再生可能エネルギーや交通部門の脱炭素化に関する政府支出へ充てています。 2025年からはEUの欧州グリーンボンド基準に移行し、対象には風力や太陽光だけでなく、送電網や蓄電池なども含まれます。日本でも環境省のグリーンボンドガイドラインがあります。グリーンボンドとは、調達資金の使い道を環境改善事業に限定した債券です。そこでは、太陽光や風力などの発電事業だけでなく、再エネ電力を送る送電線や、電気を貯蔵する蓄電池なども対象として例示されています。 再エネ設備を債券で資金調達すること自体は、突飛な発想ではありません。 では、日本でも個人向け国債のように、幅広い国民が少額から購入できる「再エネ国債」のような制度は考えられなかったのでしょうか。 負担者である国民自身も投資家になれれば、再エネから生じる金融収益を国民へ還元する仕組みも理論上は考えられます。 ただし、この方式がFITより優れていたと断定することはできません。 デンマークのグリーン国債も、日本の個人向け国債のように一般国民へ再エネ事業の収益を直接分配する制度ではありません。 誰が発電所を建設・運営するのか。事業が失敗した場合のリスクを誰が負うのか。政府が資金調達することで本当に安くなるのか。制度を比較するには、こうした条件をそろえた検証が必要です。 それでも、海外では政府自身がグリーン国債を発行し、再エネ政策を資金面から支えています。国民が賦課金を負担し、民間投資家が収益を受け取る仕組みしかなかったと考える必要はありません。 国民に広く負担を求めるなら、その負担によって生まれた経済的な利益を誰に帰属させるのかも、制度設計の選択肢として検討する価値があります。 ■再エネ政策を「お金の流れ」で見る 再エネ政策には、脱炭素だけでなく、化石燃料への依存を減らすことや、エネルギー源を多様化する目的があります。投資家に利益が生じることだけを理由に、制度全体を否定するのは適切ではありません。 一方で、「再エネが何kWh増えたか」だけで政策を評価するのも十分ではありません。 2026年度、月400kWhを使う家庭では年間2万円を超える再エネ賦課金を負担します。その制度によって、発電事業者は将来の売電収入を見込みやすくなりました。太陽光発電所は投資対象となり、そこから生じる収益を投資家が受け取る仕組みも生まれました。 だからこそ見るべきなのは、発電量だけではありません。 ・国民はいくら負担したのか。 ・その負担によって誰の収入が安定したのか。 ・そこから生まれた利益は誰に帰属したのか。 ・その負担に見合う便益が国民に戻っているのか。 再エネ政策は「何kWh増えたか」だけではなく、「誰が負担し、誰が利益を得たのか」というお金の流れからも評価する必要があります。 ■私たちにできること では、私たちは何をすればよいのでしょうか。個人のレベルでは、電気の使い方を見直すことや、自治体や電力会社が提供する再エネメニューを選ぶことが一つの行動になります。 国民負担を減らすには、家庭での省エネや太陽光発電による自家消費を進め、賦課金に頼る割合を相対的に下げることが重要です。 社会のレベルでは、国民が負担する以上、その負担から生まれた収益を国民に還元する仕組みを検討すべきです。 たとえば、少額から購入できる再エネ国債のような制度や、賦課金の使途と収益の帰属を毎年公表する仕組みが考えられます。受益者を増やすには、個人向けの再エネ国債や地域新電力への出資など、国民が少額から再エネ事業に参加できる仕組みを検討すべきです。 政策評価には、「発電量」だけでなく、「誰が負担し、誰が受益したか」を測る指標を加える必要があります。国がグリーン国債を発行する選択肢も、検討に値します。負担の総額と、その見返りが誰に届いているのかを可視化することが、政策を評価する第一歩になります。 九条丈二 独立研究者 【関連記事】 ■論文掲載に数十万円、査読はタダ?AI査読があぶり出した学術出版の仕組み (九条丈二 社会制度・政策研究者) https://sharescafe.net/63477198-20260912.html ■糖尿病治療薬マンジャロはなぜ発売時に値上げされ、3年後に25%値下げされたのか? 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