![]() ■世界がリードする展示会産業の新潮流 コロナ禍を経て、生成AIが生活インフラとして広がっている中で、直接人と関わることの価値が再評価されています。世界中のビジネスが再び「対面」の熱気を取り戻している今、展示会産業がかつてないほどのダイナミズムの中にあることをご存知でしょうか。 世界の展示会産業はコロナ禍以前を単に上回るだけでなく、全く新しい成長軌道に入っています。国際的な業界団体である国際展示会協会(UFI)の最新調査によれば、2024年の世界平均収益は前年比で16%増加し、続く2025年も18%増という力強い成長が見込まれているのです。 特筆すべきは、企業の「投資意欲」の高さで、営業利益で10%以上の増益を達成した企業が全体の8割を超え、約半数の企業がスタッフの増員を計画しています。これは、業界全体が「守り」から「攻め」へと完全にシフトしていることを示唆していると評価してよいでしょう。 そして、今の時代に欠かせないのが生成AIの影響です。実は展示会主催企業の9割以上が、AIは業界に大きな影響を与えると確信しています。特にマーケティングや顧客関係、研究開発の分野で活用が急速に進んでおり、すでに6割以上の企業が日常業務の一部にAIを取り入れています。AIが情報を整理し、マッチングを最適化することで、リアルな対面の価値をさらに引き出そうとする動きが世界中で加速しているのです。 また、成長の牽引役が変わりつつある点も興味深いトレンドです。これまではドイツや中国といった展示会大国が中心でしたが、現在はインド、中東、中南米といった新興市場が驚異的な伸びを見せています。特にサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった中東諸国では、国家戦略として大規模な展示会を推進しており、世界のビジネスの重心が少しずつ移動している様子がうかがえます。 さらに、今後の展示会を語るうえで「サステナビリティ(持続可能性)」は避けて通れないテーマとなっています。環境負荷の低減や、リサイクル可能な装飾、無駄のない会場運営は、もはや単なる規制対応ではなく、展示会の「質」を決定づける重要な戦略的要素として捉えられているのです。 ■世界を揺さぶる巨大展示会の圧倒的な熱量 ここで、世界各地で開かれている具体的な展示会の事例をご紹介したいと思います。例えば、アメリカのラスベガスで開催される「CES」は、もはや単なる家電見本市ではありません。AI、モビリティ、ヘルスケアなど、テクノロジーが私たちの生活や社会をどう変えていくのかを提示する、世界最大級のショーケースとなっています。2026年には来場者数が14万8,000人を超え、その透明性の高い集計方法も含め、国際的なスタンダードを確立しています。 ヨーロッパに目を向けると、スペイン・バルセロナの「Mobile World Congress」があります。ここは5Gや6G、次世代コネクティビティを巡る技術と事業戦略が議論される場で、世界中の通信キャリアやテック企業、投資家が一堂に会します。また、ドイツの「ハノーバーメッセ」は、製造業のDXやインダストリー4.0の最前線として、ものづくりの将来像を提示し続けています。 ドイツでは他にも、3年に1度開催される建設機械の祭典「bauma」があり、約60万人もの人々が世界中から集まります。また、食品・飲料分野の「Anuga」や「MEDICA」のような医療分野の展示会も、特定分野における圧倒的な世界シェアを誇っています。これらの展示会は、単なる商談の場ではなく、その業界における「世界の共通言語」が作られる場所でもあるのです。 アジア圏でも、台湾の「COMPUTEX TAIPEI」が半導体サプライチェーンの重要拠点として存在感を高めていますし、中国の「広州交易会」は世界最大規模の総合貿易イベントとして、膨大な数のバイヤーと製品を結びつけています。 もちろん、日本国内も負けてはいません。特に国際色の豊かな展示会が活況を呈しており、工作機械の祭典「JIMTOF」では、2024年の海外来場者数が前回比で倍増するという、驚くべき結果を残しました。これは、日本国内にいながらにして世界中のバイヤーと出会えるインバウンド機能が、日本の展示会においても強力に働き始めていることを意味しています。 他にも、食品の「FOODEX JAPAN」や「東京インターナショナル・ギフト・ショー」などは、国内外のトレンドが交差する、非常に重要な国際接点となっています。 ■日本が直面する物理的な制約 こうした活況を支えるのが「展示会場」という物理的なインフラですが、世界の主要な会場と日本の現状を比較してみると、我が国の抱えている構造的な課題が浮き彫りになってきます。 世界最大の展示会場は中国の「中国輸出入商品交易会展館」で、その屋内面積は約50.4万平方メートルという、想像を絶する広さです。ドイツのハノーバーにある会場も39.2万平方メートルを誇ります。これに対し、日本最大の「東京ビッグサイト」は総展示面積が約11.7万平方メートル。つまり、世界トップクラスの会場と比べると、およそ4分の1程度の規模にとどまっているのです。 幕張メッセやインテックス大阪といった他の国内主要会場も、それぞれ7万平方メートル台の規模であり、中国やドイツの代表的な会場との差は決して小さくありません。この物理的な面積の差は、超大型の国際見本市を誘致したり、世界中のプレイヤーを一箇所に集めたりする際に、どうしても制約となってしまいます。 さらに、2025年以降、日本国内では主要会場の大規模な改修や利用制限が相次ぐ予定であり、各地の主要会場で段階的な休館や制限が発生することで一時的に展示面積が減少する可能性が高いのです。しかし、これを悲観的に捉えるだけではいけません。面積という「量」の勝負で不利ならば、会場運用の柔軟性やデジタルの活用、さらには訪日来場者を受け入れるためのおもてなしや周辺環境の整備といった「質」の面で付加価値を高めていけばよいでしょう。 物理的な広さに頼るのではなく、そこでの体験をどれだけ密度濃く、価値あるものにするか。これからの日本の展示会産業には、そうした「設計力」が試されていると言えますが、日本はこちらのほうが得意であるとも言えそうです。 ■グローバルな視点で見えてくるもの 世界の市場は拡大を続け、AIやサステナビリティといった新しい価値観を取り入れながら、かつてない進化を遂げています。巨大な海外展示会は世界経済の縮図であり、そこでは常に最新の一次情報が飛び交っています。 そうした中、日本は物理的なインフラの制約を抱えながらも、海外来場者の増加や特定分野での圧倒的なプレゼンスを背景に、独自の存在感を放っているのです。中小企業がこうしたグローバルな展示会の動向を把握しておくことは、単なる知識の習得以上の意味を持ちます。それは、自社の技術やサービスを「世界の文脈」の中でどう位置づけるかという、戦略的な羅針盤を持つことに他ならないからです。 世界最大級の舞台で起きている変化は、巡り巡って必ず日本の市場にも影響を及ぼします。海外の展示会に自ら足を運ぶにせよ、国際色の強まった国内の展示会を活用するにせよ、常に「世界は今、何を求めているのか」という視点を持ち続けることや、展示会というリアルな場で直接人と交流するからこそ得られる一次情報は重要です。 デジタルが加速し、AIが情報を整理する時代だからこそ、世界中の人々が巨大な会場に集い、顔を合わせる意味がこれまで以上に重みを増しています。展示会という窓を通じて世界を眺めることで、中小企業はまだまだ新たな飛躍のチャンスを掴むことができるはずです。 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント 【関連記事】 ■中小企業の海外進出は国内から始まる?進化する日本の展示会市場 (清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63425327-20260820.html ■「オンラインで十分」は誤解?展示会が今、過去最多の活況を見せている理由 (清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63348569-20260717.html ■「展示会で成果が出るなんてありえない」という中小企業の大いなる誤解 (清永健一 中小企業診断士) https://sharescafe.net/63281492-20260617.html ■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/62674731-20250930.html ■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー) https://sharescafe.net/61186482-20240125.html 【プロフィール 清永健一 株式会社展示会営業マーケティング代表取締役 中小企業診断士 展示会営業(R)コンサルタント】 神戸大学経営学部卒。展示会を活用した売上アップの技術を伝える専門家。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。「日経MJ」、「NHKラジオ総合第一」など取材多数。支援実績は1300社超。ほぼ毎週東京ビッグサイトに出没している。 NHKラジオ総合第一で展示会の未来について言及するなど、展示会業界活性化にも尽力。展示会活用に関してテレビ等出演のほか、行政、公益法人、金融機関などで講演多数。 著書『最新版 飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術』、『展示会のプロが発見!儲かっている会社は1年に1回しか営業しない』など合計7作はいずれもamazon部門1位を獲得。奈良生まれ、東京在住。 公式サイト https://tenjikaieigyo.com X:https://x.com/tenzikai @tenzikai シェアーズカフェ・オンラインからのお知らせ ■シェアーズカフェ・オンラインは2014年から国内最大のポータルサイト・Yahoo!ニュースに掲載記事を配信しています ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家の書き手を募集しています。 ■シェアーズカフェ・オンラインは士業・専門家向けに執筆指導を行っています。 ■シェアーズカフェ・オンラインを運営するシェアーズカフェは住宅・保険・投資・家計管理・年金など、個人向けの相談・レッスンを提供しています。編集長で「保険を売らないFP」の中嶋が対応します。 |


