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2026年8月、帝国データバンクが全国の企業を対象に「従業員退職型」の倒産動向を公表した。2026年1〜7月、従業員や経営幹部の退職が直接・間接の要因となった人手不足倒産は83件。前年同期の74件から約12.2%増え、5年連続の増加である(出典:「従業員退職型」の倒産動向(2026年1-7月) 帝国データバンク 2026/08/07)。

誰もが知る牛丼チェーン「すき家」も、2014年、人員不足で最大123店舗を一時休業に追い込まれた。

ベテラン一人の退職が、事業の継続そのものを揺るがす時代になっている。今、多くの中小企業で、ベテランの退職が事業継続を揺るがしている。世間では、人手不足の解決策は採用だと考えられている。しかし、私は採用を待たずに決めるべきことがあると考える。それが、辞めた翌週に現場が持つかどうかを左右する。

たとえば、先週まで隣の席にいたベテランが辞めた。月曜日、取引先から問い合わせが来る。過去の経緯を知っているのは、辞めた本人だけだった。火曜日、現場で判断が必要になる。残った社員では決められず、社長に電話が入る。水曜日、社長は営業を止めて現場に入る。一人辞めただけのはずが、残された社員の仕事が増え、最後は社長まで現場に戻っていく。

「一人抜けても回る体制をつくろう」と言うのは簡単だ。だが、それができない会社は多い。ならば、最初から全部を回そうとしなくていい。一人抜けたとき、何を止めて、何だけは守るのか。そこを先に決めておく。

人手不足の話は、採用の話になりがちだ。だが、辞めた翌週に現場が持つかどうかは、採用を待たずに決まる。本記事では、ベテランが抜けた翌週にも現場を回すための準備について、経営者の視点から考えてみたい。

■一人辞めると、残った人に何が起きるのか
辞めたのはベテラン一人だ。現場で動くのは、残された社員である。いつもの仕事に加えて、ベテランの仕事を引き受ける。残業が増え、責任も増える。

こうした連鎖は、倒産した会社だけの話ではない。冒頭に触れた調査では、2026年1〜7月、従業員や経営幹部の退職が直接・間接の要因となった人手不足倒産は83件にのぼった。前年同期の74件から9件、約12.2%増である。2022年以降5年連続で増えており、このペースが続けば年間ベースで過去最多を更新する見込みだ。

数字だけを見ても、現場の重さは伝わらない。内装工事の五十嵐建設は、2025年12月に破産した。中核メンバーの独立や退職が相次ぎ、事業継続を断念した。貨物運送の東海サービスは、2026年5月に破産した。ドライバーの賃上げを進められず、退職が相次いだ。

ここで見るべきなのは、「一人辞めたら必ず倒産する」という話ではない。中核人材が抜けたとき、その仕事を引き受けられる余力や仕組みがなければ、事業継続そのものが苦しくなるということだ。

■問題は「一人足りない」ではなく「一人しかできない」
「人手が足りない」と言う会社は多い。だが、本当に問題なのは人数そのものではない。

「この顧客はAさんしか分からない」「この見積もりはBさんしか作れない」「この現場判断は社長しかできない」。こうした仕事が増えている会社ほど、一人が抜けた瞬間に止まる。人数が少ないこと自体は、中小企業では珍しくない。一人しかできない仕事が多いことが、弱点である。

「でも、顧客を失いたくない。全部やらなければならない」。その気持ちは分かる。だが、全部を平常運転で回そうとすると、残った社員に無理がいく。無理が続けば、次に辞めるのは別の社員だ。

会社が先に止まるのは、倒産宣告のあとではない。現場の提供能力が落ちたときである。

2014年2月から4月、すき家では、厨房機器などの不具合や人手不足による採用難により、最大123店舗が一時休業または時間帯休業した。会社がなくなったわけではない。人員不足が進むと、倒産より先に、営業できる時間や提供できるサービスが縮むことがある。

■一人抜けても「全部回す」ことを諦める
では、どうすればよいのか。答えは、全部を回すことを諦めることである。

仕事を三つに分ける。絶対に止めない仕事。数日なら止められる仕事。なくしても困らない仕事。この三つを、平時のうちに決めておく。

欠員時は、残った社員に全部を背負わせない。止める仕事を先に決める。これは非常時の運転である。非常時の運転を、平時に決めておく。

「止める仕事を決めると、顧客に迷惑がかかるのではないか」。その不安はある。だが、何も決めずに全部を回そうとする方が、現場は先に壊れる。

まずは、止めない仕事を三つだけ決める。

たとえば、納品期限のある案件、既存顧客のトラブル対応、請求と入金の確認。これだけは止めない。それ以外は、一週間止めても会社が死なない仕事を先にリストアップする。

採用の前に、ここまで決めておく。新しい人が来るまで、全部を今まで通り回す必要はない。壊れ方をコントロールできる最低ラインを、先に書いておく。

■マニュアルより先に「欠員訓練」をする
「完璧なマニュアルを作れば回る」と考える経営者もいる。だが、マニュアルを完璧にするより早い方法がある。

「この人が明日から一週間いない」と仮定する。

誰が困るか。どの情報が見つからないか。どの判断が止まるか。社長に何件確認が飛ぶか。

これを、会議室で一時間やるだけでよい。欠員訓練である。防災訓練と同じだ。起きてから慌てるのではなく、起きる前に止まる場所を見つける。

「そんな時間はない」と言う人もいる。だが、完璧な体制を作るより、止まった場所から直す方が早い。

マニュアルを100ページ書くより、欠員訓練で見つかった穴を一つ埋める方が、翌週の現場には効く。止まった場所が分かれば、そこだけ直せばよい。

火災訓練はするのに、欠員訓練はしない会社が多い。だが、会社によっては火事より先にベテランが辞める。

■残すべきは「作業手順」より「判断」
欠員訓練で見つかるのは、作業手順の穴ではないことが多い。判断の穴である。

なぜ値引きしたのか。なぜこの見積もりなのか。なぜ断ったのか。どの条件なら社長判断なのか。

こうした判断が、ベテランの頭の中にしかないと、マニュアルがあっても現場は止まる。残すべきは、作業手順だけではなく判断の履歴である。

会議の議事録、Slackのやり取り、メールの返信、見積もりの修正理由。過去にどう判断したかを、後から追える状態にしておく。

特別な資料を新しく作る必要はない。

重要な値引きや例外対応をしたときに、「なぜそう判断したか」を一行残すだけでもいい。新しい社員が入っても、ベテランが抜けても、「なぜそうしたか」が分かれば、次の判断につながる。

■残った社員に仕事を回し続けると、次の退職が始まる
一人辞める。残った人に仕事が回る。残業と責任が増える。さらに一人辞める。最後に社長が現場へ戻る。

この連鎖を止めない限り、採用しても埋まらない。

社長が現場へ戻れば、その時間だけ、営業も採用も、新しい取引先との商談も、次の事業づくりも止まる。一人の退職が、残った社員だけでなく、会社の次の売上まで削っていく。

もう一つ必要なのは、欠員が起きる兆候を早く知ることだ。

人は辞める。完全に防ぐことはできない。だが、辞めると決めてから初めて問題を知る状態にはしてはいけない。

私は、マネージャー以上には毎年誕生日会を開き、取締役以上とはマンツーマンで食事に行く。高級な店に連れて行くことが目的ではない。仕事量、評価、不満、将来への不安を、退職を決める前に知るための接点である。

残った社員の負担が限界に近づいているとき、社長が最後に気づく会社ほど、次の退職は早い。

■ベテランが抜けた翌週、現場は回るか
すべてを今まで通り回せなくてもいい。

何を止めれば会社は生き残れるか。誰がいなくなると何が止まるか。その人が普段どう判断しているか。これらを平時に知っておく。

「一人抜けても完璧に回る会社」を目指すのではない。

一人抜けても、壊れ方をコントロールできる会社にする。

採用できる会社をつくる前に、一人抜けても致命傷にならない会社をつくる。それが、現実的な人手不足対策になる。


都築博志 株式会社グリーンイノベーションズホールディングス代表取締役


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■プロフィール 都築博志 株式会社グリーンイノベーションズホールディングス代表取締役
tsuzuki
IT、建設、人材、金融領域で5社のグループ会社を経営し、23年間で累計売上816億円超、最高年商76億円を達成。エンジェル投資23社。数々の新規事業と失敗を経験しながら、挑戦する人を応援する経営者コミュニティ「BIZFIT」を運営している。


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