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2026年、東京都の待機児童は前年より774人増えた。待機児童が増えれば、「保育園が足りない。もっと増やそう」と考えるのは自然だ。しかし、東京都江東区が公表するデータでは、0歳児1人あたりの保育経費は月46万6902円に達する。私はこの数字を見て、別の疑問を持った。0歳児を家庭で育てる親に、例えば月20万円程度を支給する選択肢があってもいいのではないか。

行政資料や統計を使って社会制度・政策を研究する立場から見ると、これは単なる保育園不足ではない。0歳児保育は子どもの育ちだけでなく、親の就業継続、キャリア、将来所得も支える制度である。

さらに東京都は2025年9月から、第1子の保育料等も無償化した。利用者の保育料負担をゼロにして保育所を利用しやすくし、需要が増えればさらに公費で受け皿を増やす。しかし、この方法だけが、本当に公平で効率的なのだろうか。

保育所整備だけでなく、家庭保育への現金給付も同じ政策の選択肢として比較すべきだ。本稿では、月47万円の保育コスト、保育料無償化による需要への影響、家庭保育側の機会費用を手がかりに、その公平性と効率性を考える。

■0歳児保育に月47万円
江東区が公表している令和6年度決算ベースの数字では、0歳児1人あたりの月額平均経費は46万6902円だった。この金額には保護者負担も含まれるが、大部分は国、東京都、江東区などの公費で賄われている。

ただし、園児が1人家庭保育へ移れば47万円の公費がそのまま浮くわけではない。これは平均経費であり、建物や人員など、1人減っただけでは減らない費用もある。

それでも47万円という数字は重要だ。0歳児を保育所で育てるという選択に、これだけ大きな社会的資源が投入されていることを示しているからだ。

■保育所は親のキャリアも支えている
保育所は、子どもの安全や育ちを支える福祉制度である。同時に、親の就業を支える制度でもある。0歳から子どもを預けられれば、親は早く仕事へ復帰できる。給与を得られるだけではない。仕事を中断せず経験や技能を積み、昇進機会や将来所得を維持しやすくなる。これは社会にとっても利益がある。働き手を確保でき、経済活動や税収にもつながる。

一方、利用する親本人にも大きな経済的利益がある。つまり0歳児保育への公費には、子どもの福祉だけでなく、親の所得やキャリアを守る現物給付という側面もある。

制度を研究する立場から私が注目するのはここだ。子どもの福祉を社会全体で支えることと、親の所得やキャリアをどこまで社会全体で支えるかは、同じ問いではない。

■無償化で需要を後押しし、さらに保育園を増やすのか
東京都では2025年9月から、第1子の保育料等も無償化された。東京都自身も、無償化によって保育所等を利用しやすくなることが期待されると説明している。
その翌年、都内では保育サービスを利用する児童が増え、待機児童も大幅に増えた。

もちろん、これだけで「無償化が待機児童を増やした」と断定することはできない。東京都も保育ニーズの増加には複数の要因があるとしている。しかし、利用者の保育料負担をゼロにすれば、保育所を利用する経済的なハードルは下がる。そして需要が増えれば、今度はその需要を満たすために保育所や保育士へ追加の公費が必要になる。

公費で利用しやすくし、増えた需要を満たすためにさらに公費を投入する。その方法だけが、本当に効率的なのだろうか。

■家庭で育てる親にも機会費用がある
一方、0歳児を家庭で育てる親にも負担がある。家庭保育のために就業を控えれば、その分の所得を失う。仕事を離れる期間が長くなれば、経験、昇進、将来所得にも影響し得る。キャリア上の機会費用を負うのは、家庭保育を選ぶ親も同じだ。育児休業給付などの制度はあるが、働き方などによって利用条件は異なる。

一方で、保育所を利用する家庭には、高額な保育サービスが現物で提供されている。この支援の差は、何を根拠に正当化されるのか。

社会全体で保育を支えること自体が問題なのではない。問題は、なぜ公費をその方法で配分するのかである。現在の支援配分には公平性の面で検討の余地があると言えるだろう。

■家庭保育に月20万円という選択肢
そこで例えば、0歳児を家庭で育てる家庭に月20万円程度の「家庭保育支援金」を設ける案はどうだろうか。20万円は最適額を示すものではなく、政策を比較するための例示である。重要なのは、保育所整備と家庭保育支援を、同じ政策目的の下で比較することだ。

一方では、保育料を無償化して保育所を利用しやすくし、需要が増えれば0歳児の受け皿を増やす。もう一方では、一定期間は家庭で育てたい家庭に現金を支給し、その選択を現実的にする。どちらにどれだけ公費が必要で、家庭の選択や保育需要にどのような影響を与えるのか。そこまで比較して初めて、効率性を議論できる。

家庭保育支援の方が必ず安いと決めつける必要はない。しかし、比較もしないまま「待機児童が増えたから保育園を増やす」という一択にする必要もない。

■「保育園を増やす」だけでは公平性にも効率性にも答えられない
待機児童が増えている地域には、必要な保育枠を確保すべきだ。しかし、それだけが0歳児家庭への支援ではない。

0歳児保育に月約47万円という江東区の数字が問いかけているのは、「保育園は高すぎる」ということではない。誰のどの利益を、社会がどの方法で支えるのかという問題である。

保育所を利用して働く家庭には、子どもの保育と同時に、親の所得やキャリアを守る大きな支援が行われる。一方、家庭で育てる親にも所得やキャリアの機会費用がある。

ならば、例えば月20万円程度の家庭保育支援金も、保育所整備と同じテーブルに載せて比較すべきだ。

現在の支援配分は公平と言えるのか。保育所を増やし続けることが最も効率的なのか。少なくとも家庭保育への現金給付まで含めて比較しなければ、その答えは出せない。

待機児童が増えたから保育園を増やす。その前に、なぜ保育需要を増やし、誰のどの利益を、どの方法で支えるのかまで問うことが制度設計ではないだろうか。


九条丈二 独立研究者


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■プロフィール 九条丈二 独立研究者
医療制度、公衆衛生、科学研究を中心に、制度や組織がどのようなインセンティブによって動き、なぜ問題を修正できないことがあるのかを研究・執筆している。行政資料、統計、学術論文などの一次資料を用いた検証を重視し、医療政策、感染症対策、研究評価、AIと学術、医療安全、安全保障などを扱う。アゴラ、note等で論考を発表し、英文学術誌への投稿やPubPeerでの公開後査読にも取り組む。

公式サイト https://georgekujo.com
アゴラ: https://agora-web.jp/archives/author/george_kujo
note: https://note.com/g_kujo_ir @g_kujo_ir
X: https://x.com/cavid19w @cavid19w
ORCID: https://orcid.org/0009-0006-6864-0145


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